「婚前旅行は朝鮮ですC」
清正×行長+α


一方、清正と正則は。

正「のう。虎之助、何故わしは投げられたんじゃ?」
清「ああ、その事か…初めは曲者かと思ってな(嘘)」
正「そうかぁ。二度目は?」
清「彌九郎とぶつかりそうだったろ?その前に止めようとしたら、勢いがつき過ぎた(嘘)」

平然と嘘を並べる清正。しかし、正則は納得してしまっている。

清「そういえば、何故馬刺を食べたいなどと。紀ぃ兄まで連れて」
正「あ?ああ、紀之介が食った事が無いって言うたで、食わせたろと思ったんじゃ」
清「…なるほどな」

妙な所で気が利く男、福島正則。清正の溜息に気付く訳もなく、正則は風呂に続く廊下を得意顔で進んで行く。

正「ほんじゃ、一っ風呂浴びてくるわ」

いつの間にか温泉気分な正則だが、当初の目的は生臭さ解消だ。多少の罪の意識よりも、清潔感が勝った清正の口から、容赦のない言葉が漏れる。

清「いいか。まずは、頭から爪先まで兎に角洗え。湯を被るのではなく、洗え。そして控えの者から無臭の判断が出たら、湯に浸かれ。いいな?」
正「心配性じゃのぉ。子供じゃあるまいし、風呂の入り方位言われんでも承知しとるわ」

…分かっていない。
そう思いはしたが、口にはしない清正。
大人だからじゃない。面倒なだけだ。





清「おい」
全員「(びくぅ!)殿!」
清「書き終えたのか?」
家老「はっ、一応書き終えたような…」
清「?曖昧だな…まあ、良い。各自持ち場に戻れ」
筆係「あの、反省文はどうすれば…」
清「己が戒めに持っておけ…まあ、冗談半分に書かせただけだしな」
筆係「(冗談でこんなん書かされたんだ…)」
清「ああ、それと、部屋の前が水浸しでな。悪いが拭いておいてくれ」
小姓「はい。直ちに」
清「今、風呂に正則が入っている。着替を」
湯殿番「分かりました」
清「夜は出掛けるかもしれん。おって連絡する」
厨番「はい」

指示を出すと清正は部屋へと戻っていく。

厩番「良かったぁ。提出しろって言われなくて」
女房「それ、提出してたら、大変な事になってましたわ」
家老「某のは是非とも見て頂かねばならぬのに…」
筆係「それ、反省文になってないじゃないですか…」



家老の残念そうな呟きを聞くことなく、清正は少し足早に先程通った廊下を進む。
あの状態の小西一人だけなら、自分が戻るまで大人しく待っているかもしれない。だが。

清「あの人が、放っておくわけがないか…全く、今夜は面倒だ」

溜息混じりに、清正は先までいた部屋に足を踏み入れた。

清「客人を残し中座などして、すまん――」

声が、淋しく無人の部屋に響く。
迂闊だった。
そうだ。大人しく待つわけがないのだった。




小「紀之介さん。こっちや。此処此処」

茶を乗せた盆を手に小西が大谷を屋敷の一角に案内する。其処は見晴らしも良く、穏やかな陽がさしこむ場所だった。
大谷は部屋に戻った清正が探すだろうなと思いつつも、言わないでおいた。

小「此処なぁ、夕日がめっちゃ綺麗なんやで」

まだ少し早いけどと苦笑をもらす。

大「でも、本当良い場所だよね」

そうして、そよそよ吹く風を感じつつ茶をのんでいると、ふと思い出したかのように小西が口を開いた。

小「せや。紀之介さんは誰か好きな人居るん?」
大「突然だね」
小「いつも、相談乗ってもらってるやろ。でも、紀之介さんのそういう話聞かへんなぁと思うて…居るの?」
大「居るよ」
小「ホンマ?誰?」

身を乗り出してくる小西に、大谷が微笑む

大「虎之助」
小「は???冗談やろ?」

大谷の返答に意味が解らないといった風な小西

大「ねぇ。虎之助頂戴って言ったらくれる?」
小「あんなん…デカくて煩いだけやで?可愛いないで?物好きやなぁ」
大「まぁ、確かに可愛くはないかなぁ」
小「せやろ?恋心なんて熱病や。一時の気ぃの迷いは、後悔のモトやで」
大「そっか」
小「そうや」
大「うん、よかった。彌九郎があっさりしてて」
小「へ?」
大「虎之助を貰っても、大丈夫そうだと思って」
小「いや、それはな?紀之介さん…」
大「よーし。今夜は帰るのやめて、ここに泊まらせてもらおうかな」
小「泊ま…」
大「飲ませて同衾とかしてみたら、虎之助も万更じゃないかもしれないしね」
小「同…っ!?あかん!」

小西は慌てた。清正が他の人と同衾なんて!!

大「ん?」
小「いや、あかんちゅうか、その、虎はいけずやから何しよるか分からへんし、紀之介さんにあの助平な虎は合わへんちゅうか、えっと、すごいムッツリやねん!」
大「その位、見てれば分かるよ?」
小「いや、見るのとは違うっちゅうか…って、そうやなくて!」
大「ふぅん。大変だね。やっぱりキライなんだ?」
小「う…いや、別に、キライやあらへんけど…その、虎はモノやないし…」

大谷の執拗な問い詰めにうろたえる小西、大谷は普段とは違って厳しい視線を投げかける。

大「嫌いじゃないけど?もう、ハッキリしないなぁ。虎之助がいけずだろうが、助平だろうが、ムッツリだろうが、私は構わないよ」
小「っ…俺…俺が構うんや!虎は物やないから、虎が紀之介さんを選ぶんやったら…俺がどうこう言える立場やないけど…でも、譲れへんねん!」

懇願を表した視線を向ける小西に、大谷は目元を緩めると

大「まあ、今日はこれ位が限度かな」
小「へ?」

大谷の先程までの雰囲気の違いに、小西は目を瞬かせる。

大「だって。良かったねぇ。虎之助」
小「は?え?虎…」

戸惑う小西の目に、襖の向こうから気まずそうに清正が出てくる。

小「とと虎!いい今の…きき」
清「聞こえた」
小「きき紀之介さん〜…あんさんワザと?」
大「さっき、市松がだけど、良いところを邪魔しちゃったみたいだから。虎之助が可哀想かなって」
小「俺は可哀想やないんかい!」
大「だって。彌九郎も嫌じゃなかったんでしょ?」
小「紀之介さん…俺、あんさんが悪魔に見えるわ…」

小西が床につっぷして倒れる。

大「酷いなぁ。せめて、小悪魔にしてよ」

可愛らしく小首を傾げて見せるが、

清「魔王の間違いじゃないか?」
大「何か言った?」
清「いや、何も」
大「さて、もうそろそろ市松も出てくるだろうから、お邪魔虫は退散しますか」

そう言って立ち上がる大谷の袴の裾を小西が掴む。

小「紀之介さん〜行かんで〜…俺このまま置いてかれたら、恥ずかしゅうて、恥ずか死にするわ」

どんな死に方だ(笑)
小動物の様な瞳に、大谷の表情が和らぐ。しゃがみこみ、縋る小西の手を大谷は包んだ。

大「そうだね、彌九郎…」
小「紀之介さん…っ」
大「でも、何事も経験第一だよ」
小「え?」
清「?」

ぐい、と思わぬ握力で大谷は指を剥がすと、代わりに清正の袴を掴ませる。

大「一度くらいしてみたら?恥ずか死に」

ね?と、極上の笑顔を見せる大谷。

小「…あんさん、ホンマに悪魔や…」
清「いや、やはり魔王だろう…」

掴み掴まれながらも、同意見の二人。どう見積もっても小悪魔じゃない。
大谷が、よいしょ、と呟き立ち上がる。

大「さて。詳細は後日聞くとして――」
小「えぇっ、詳細!?」
清「…別に、お前が喋らなければいいだけだろう」

静かにツッコむ清正。それにまた大谷はニコリと微笑むと、

大「じゃ、市松とご飯に行ってくるね」
小「ホンマに行ってまうんかい!?」

悲痛な叫びとは裏腹に、清正の袴を掴んだままじゃ、あんまり説得力無い。

清「(確かに、願ったり叶ったりだが)」

足元と眼前のやり取りに、清正が多少の困惑を滲ませる。
その時。

誰か「――…ふんふん〜♪ふふんふ〜ん♪」

妙な鼻歌が、湿った足音と共に近づいて来た。

小「なんや、この鼻歌」
清「…まさか」

清正の眉間に皺が寄る。

大「あ。やっぱり」
正「ふふふふ〜ん♪お!居た居た!誰も居なかったから、探したぞ!」

ぺたぺたぺた。
正則の後ろに続く、湿った足跡。

正「いやぁ、イイ湯じゃった。極楽極楽。これで飯食ったら、最高じゃのう」

破顔した正則に対し、小西が心から叫ぶ。

小「市松!今、市松が天使に見えよる!」
大「天使って、デウス様の遣いってやつだったっけ?」
清「どう見ても生臭坊頭だよな…その前に…市松!ちゃんと拭いてこい!」
正「細かい事気にすんなって」

笑う正則に大きな溜め息をつく清正。

小「あ、あんな!市松!」
正「どうしたんだ。彌九郎はこんなとこで倒れおって」
小「今日…」
大「何か調子悪いみたいなんだって」
小「紀之介さん!?」
正「そういや、顔も紅いし、熱か?」
小「あらへん!熱なんて無い!」

慌てて立ち上がろうとすると、清正が手を貸す。
手を借り、立ち上がった小西をそのまま引き寄せ、顎を捕えて目を合わせる。すると、途端に少し紅かっただけの顔が真っ赤になる。

清「…大丈夫か?」

はたから見れば心配しているように見えるが、目を合わせている小西には、清正の目が笑っている事が解る。

正「本当大丈夫かぁ?」
大「ね。もしかして、彌九郎も馬刺し食べたいの?」

突如小西に助け舟を出す大谷。
小西は言葉が出ない代わりに首をカクカクと縦に振る。

正「でも、熱があるんじゃ…」
清「旨いもの食えば、元気になるだろ」

そして、一つ溜息をついた。





続く    戻る

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さて。
次でようやく終わりそうです!!
きっと。
いや、終わる終わる。
今回はお邪魔も入って、イチャつき度低い。

20061004   佐々木健&司岐望