「婚前旅行は朝鮮ですD」完結編
清正×行長+正則×吉継



かくして、4人で馬刺しを食べに行く事になりました。
早く食べに行きたい正則と、やっといぢめから解放された小西が先を行く。
少し後ろを清正と大谷が歩く。

大「良かったの?折角お膳立てしてあげたのに」
清「その膳を下げようとしたのは、紀ぃ兄だろ。まあ、自分で用意するさ」

それに、あのまま置いて行かれても、大暴れして大変だ。と苦笑する清正。

大「そうだね〜」

笑いながら、大谷は歩く速度をあげ、小西と並ぶ。
いじめられもしたが、助け舟を出してくれたとあって、小西は大谷の手をとって、ぶんぶん振りながら歩く。
そんな姿を見ながら清正が歩いていると、いつの間にか速度を落として正則が清正の隣に並んだ。

正「彌九郎はそんなに馬刺しが食いたかったんか」
清「ああ、そうらしいな。しかし、突然人数が増えて悪かったな」

苦笑いする清正に、正則が頷く。

正「全くだ。わしゃ、折角紀之介と二人で色々出来ると思っとったのに、予想外の展開じゃ。全く、このお邪魔虫めが。まぁ、飯は皆で食ったほうが旨いしの。気にするな」
清「そうか…ん?」

ぽん、と肩を叩かれた清正が、正則の台詞を反芻して小さく戸惑う。
あれ?今、何か言ってなかったか?色々出来るって何をだ?邪魔したのはお前の方じゃなかったっけ?

清「(恐い事実にブチ当たりそうだから、今のは聞かなかった事にしよう…)」
正「しかし、何で彌九郎だと素直に手を握らせるんじゃ?ワシがあんな事しようもんなら、おねね様から譲りうけたハリセンで叩かれるのがオチじゃぃ」

少し悔しそうに呟く正則に、清正の額に嫌な汗が滲む。

清「市松…もしや…紀ぃ兄を好いているのか?」
正「おお。そうじゃ。ワシは紀之介を好いとる」
清「(本気か!)…何時からだ?」
正「気がついたんは、つい最近じゃが、昔から好きじゃったみたいじゃ。虎之助は気が付いてなかったんか。紀之介は知っとったから、皆気付いてると思っとったわ」
清「(紀ぃ兄気付いてたのか…)まあ、あの人は人の感情に悟いからなぁ…で紀ぃ兄は何て?」
正「怒られた次に馬鹿と言われた」
清「何だそれは…」

告白の返事が怒られ、馬鹿と言われる?それは玉砕してるのではないのか?

清「…お前らは付き合っているのか?」
正「微妙」
清「はぁ?」
正「紀之介が一番大事にしてるのは佐吉じゃ。だがなぁ。諦めんぞ」
清「そうか…」
正「そうじゃ。あとなぁ…疑問なんじゃが、紀之介の口元を覆ってる布。あれはどうやって取るんじゃ?」
清「はぁ!?」
正「いやなぁ。不意打ちで接吻でもしよかと思っても、あの布があるじゃろ。捲ってというのも間抜けのように思えて、取ろうかと思った訳じゃが、イマイチ取り方が解らんのじゃ」
清「…悪いが…俺も知らぬ」

あの人は謎だらけだ。俺が知ってるのは、名前と外見と一番大事なのは佐吉だという事と、結構な悪戯好きという事位だ!と叫びたい清正であった。





小西と大谷さんは

清正の頓狂な声に、小西が肩越しに振り返る。

小「虎のヤツ、何変な顔してんのやろ」
大「変な顔は可哀相だよ。アレは、寝耳に水って感じな事でも聞いたんじゃない?」

はい。ご明察。
ふぅん、と余り興味が無い素振りで繋ぐ手に視線を落とす小西に、大谷が目元を和らげる。

大「虎之助と繋ぎたい?」
小「えっ!?」

多少なりとも、思わなくもなかった事を口にされ、小西の肩が跳ねる。

小「そ…そんな事、これっぽちも考えてへんよ!」
大「そう?だって、やっぱり好きな人と繋ぎたいものじゃないの?」
小「〜〜っ、なら、紀之介さんは、誰と繋ぎたいん?」
大「うん?」
小「そないまで言わはるんやったら、聞かして貰ろぅたって、ええやん」
大「じゃあ、このまま手を繋いでいても良いかな」

小西に握られていた手を大谷が握り返す。

小「は?へ?えっえ〜?」

ちょっと待って。それって?俺の事!?
ニコニコ笑うと大谷は、

大「冗談だよ」

とスルッと手を離し、クルリと後ろを向いた。

大「仕方ないから、教えてあげる」

そう言うと、体の固まりが解け始めた小西を置いて、清正と正則に向かって小走りで走っていった。

小「(えっ?ちょお、紀之介さん!や、やっぱ虎なの!?)」

正則は選択肢に入ってない小西。

小「やっ、ちょお、紀之介さん!?」

二人に駆け寄る大谷の袖が、伸ばした小西の手に掴まることなく翻る。

正「ん?なんじゃ、紀之介?」
清「紀ぃ兄?」

突然駆け寄ってきた大谷に、清正達が怪訝そうに立ち止まる。
するりと二人の間に割り込むと、大谷が清正の腕を取った。

小「き、紀之介さんっ!?」
清「紀ぃ兄!?」
正「紀之介っ!?」

完璧すぎる、三重音。
可笑しそうに笑い、大谷が組んだ腕を離す。

大「はい。邪魔」

ぐいと清正を押し出し、正則の腕を取る。
そのまま正則の腕の内側に手を通し、腕を組んで正則を見上げる。

大「市松と一緒に歩きたかったんだ。…だけど、市松ったら、虎之助と話してるんだもん…」

すねてる!!あの大谷吉継様がすねていらっしゃる!!清正と小西が驚愕の事実の前に言葉も出ない。小西は大谷の好きな人=正則という事に更に驚き、顎が外れそうな勢いだ。

正「紀之介〜!そうとは知らずスマン!紀之介から腕組んでくれるなんて…はっ!もしや、これって夢?」

夢が見せた幻かと言う正則に大谷が空いてる手でデコピンを喰らわす。

正「痛い…現実か!」

ジンジンと痛む額が、今はとても愛しい。

正「感激じゃ、紀之介!抱き締めたいが良いかのぅ!?」
大「うわっ」
清正&小西「!!」

締まりの無い顔のまま、正則が返事を待たずに抱き寄せる。
なるべく人通りの少ない道を選んでいるとはいえ、往来の真ん中で知人の抱擁はキツイ。いや、しかも今回はあの『大谷吉継様』がその当該者であり、尚且つ衝撃の告知後と言うこともあれば、気分は普段のソレを遥かに上回る。

清正&小西「(一体、どうしたら…っ!)」

野獣にギュウギュウされる大谷の姿に、ただ為す術もなく立ち尽くす清正と小西。
だが。

大「…どうして『待て』が出来ないかなっ!いい加減にしないと、お仕置きするよ、市松っ」
正「!!」

鋭い鶴の一声に、ピタリと動きを止める正則。
その見事な躾っぷりに、清正と小西が安心した面持ちで小さく頷く。
やっぱり、大谷様は大谷様だ。
そして、正則の腕が緩むと、大谷は手を緩く握り正則のこめかみに当てて…グリグリした。

正「いだだだだ!スマン紀之介!もうせぬから!」
大「解れば良し!」

そう言って、今度は労るように撫でてやる。
その仕草に、正則は飼い主に可愛がられる犬の様な表情をする。
飴と鞭か…。

清正&小西「(完全に尻にひかれてる!)」

でも、人の幸せはそれぞれだ。
この二人は、これが幸せの形なのだろうと、清正と小西は納得した。
ついでに、小西はやっぱ躾って大事やな〜と思ったのは秘密の方向で。

妙に感心した様子で眺める二人を、大谷が正則の頭を撫でながら振り返る。

大「見ててもあげないよ?」
清正&小西「!?(イラナイっ!)」

大丈夫です。特に所望はしませんから。

首を振り、必死に遠慮の意思表示をする姿を見て、大谷が再び正則の腕を掬う。

正「お?」

さっき叱られたのに、また正則がうずうずしている。

大「市松」
正「う…」

制した大谷の視線が、正則から小西に移る。

大「彌九郎?私は答えたよ?」
小「うぅ〜…」

二人にしかわからないやり取りに、清正が小首を傾げる。
清正が小西に視線を移すと、小西が清正を睨みつけていた。

清「…紀ぃ兄、何を吹き込んだ?」
大「ん?私は何も。彌九郎が言いだしたんだよ」

再び小西に視線を戻すと、今度は肩まで震わしている。そして、清正に向かって歩きだし、清正の前まで辿り着く。

小「虎!手ぇ出し!」
清「?」

清正が右手を出すと、小西も右手をだし、握手する…。

小「〜〜握手して、どないすんねん!」

一人ツッコミ。

その様に清正は小西がしたい事が解り、左手で小西の手をとった。

小「〜〜っ!」

緩く掴まれた掌を、小西が強く握り返す。
そして、どこか愉しむ様な清正を照れ隠しに今一度睨み付け、小さく呟く。

小「…虎。何や一言でもいらん事言うたら、この手離すし。えぇな?」

あくまでも、自分が繋ぎたかったとは言わない小西の意地に、清正の笑みが深まる。

清「そうか…それは勿体ない話だが、惜しい事に約束はしかねるな」
小「な…っ、我慢出来ひんのかいっ」
清「ん?」
小「なら、き…今日だけは、しゃぁないから、このまま歩いたる。俺の男前っぷりに感謝しぃやっ」

言い放った小西が、首まで真っ赤にして足を踏み出す。
幼い子の様に引かれながら、清正はだらしなく緩んだ顔を空いている掌で一撫でし、続く二人の足音に耳を澄ませた。




背後から忍び寄る逢魔ケ刻の空が、それぞれの想い人達をゆっくりと覆ってゆく。
季節は、残暑。
秋の夜長にはまだ早いが、きっと彼らには関係無い。
素直になれる時間が、ようやく始まろうとしていた。







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あとがき〜。

長かった。こんな駄文を読んで頂いた皆様!お疲れ様でした!
8月27日〜10月5日。1ヶ月と8日。お休みは1日のみ。
司岐と佐々木はメールを打ち続けました(笑)

でわでわ。全くタイトルと関係の無い無いような上、季節がずれてしまっていますが、これにて無駄に長い小ネタ終了です!

20061013   佐々木健&司岐望