「婚前旅行は朝鮮ですB」
清正×行長+α



一方、正座組。

筆係「…書き終わりました」
小姓「私も終わりました!」
女房「反省文って苦手なのよね」

得意な奴はそう居ない。

家老「まだまだ殿には助言差し上げたい事があるのだが、紙が足りないな…」
女房「紙余ってるから、どうぞ」
家老「ああ、すまない」

だから、反省文を書けよ。

厨番「10日分の献立表完成です!」
湯殿番「小西様の好きなものばっかだな」
厨番「殿は好き嫌いなく、何でも食べますからねぇ。小西様に合わせてみました」

だから、反省文は?

湯殿番「よし!書き終わった!渾身の似顔絵!」
女房「あら、殿と小西様ね!素敵ね。愛し合ってる感がとても良く出てるわ」
厩番「お!それ、丁度この場面に合うよ!」
湯殿番「そう?じゃあ、使えるな!」

何にだ?

厩番「皆書き終わりかよ」
家老「いや、某がまだ書き途中だ」

明日の朝まで掛りそうだな。

湯殿番「お前、筆止まってるじゃん」
厩番「うん。最後をどう締めくくろうか悩んでてさ…」
小姓「幸せなのが良いです!」
厩番「そりゃもちろん!」
女房「劇的に感動的なのが良いわ」
厨番「月夜の浜辺…」
厩番「それだ!」

どれだ?

湯殿番「まだ時間掛りそうだな。もう一枚描こう」
女房「そうねぇ。和歌でも書こうかしら」
厨番「新しい料理を考えようかな」
小姓「ところで、殿と小西様、今何してるののでしょうね」
湯殿番「それ言うなよ〜気になる〜」
筆係「…確かに」
家老「そういえば、お前居たな。話さないから忘れていたぞ」
筆係「ずっと居ましたよ。私も気になって仕方ないんです!」
女房「ヤボねぇ。さっき人払いもしてたんですもの!」
厨番「もう、祭くらいやらないとですね!」
小姓「花火も打ち上げて」
家老「今度企画書出しますか」



厩番「終わったぁ!」
全員「本当!?」

何故か皆で拍手

厩番「今度綴じて貸し出すから」

提出品だろ?

筆係「ところで、皆さん。反省文は書いたのですか?」
厩番・湯殿番・厨晩・家老「あっ!忘れてた!」




小「虎ー」

来い来い、と小西が手招きする。
立ち上がる距離でもない。 膝でにじり寄る清正に、小西が笑った。

小「横着やなぁ」
清「別に誰も見ていない」

どこか拗ねた物言いが、何だか少し可笑しい。
清正の取り出した懐紙に梨を包み、小西は甘える様に清正の膝に頭を乗せた。

清「おい、彌九郎」
小「行儀悪ぅても、誰も見てへんのやろ?文句言わんと、少し位楽な格好させや」
清「違う。寝ながらでは噎せるだろう…ほら」
小「うわ!」

脇を掬われた小西の背を、暖かな存在が抱き留める。

小「…さっきは枕で、今度は座椅子とか言うモンかい。忙しいやっちゃなぁ」
清「その前は布団になり損ねたがな」
小「アホ。言うな」

今とは違う清正の強い腕を思い出し、小西の頬が赤らむ。

清「顔、赤いぞ」
小「気のせいやっ」

照れ隠しを込め、小西が勢い良く果物に歯をたてた。瑞々しい音が、残暑を振り払うように響く。

小「ん〜、甘くて冷やっこいっ!」

どちらが甘いか分からないような表情に、清正も相好を崩す。

清「彌九郎。功労者に分け前は無しか?」
小「誰が功労者やねん。桶に水張っただけやないか」

首筋にかかる吐息に身を捩り、小西が擽ったそうに笑う。清正は小西の手を取ると、

清「…甘いな」

齧りつき、指先に滴った果汁を舐め取って雄の顔で笑みを浮かべた。


またも正座組。

筆係「まだ反省文書き終わらないんですか?」
女房「あんまりイライラしてると、禿げるわよ」
小姓「のんびり休めると思えば、良いじゃないですか」
筆係「私は仕事の途中だったんですよ」
厩番「なあ…」
筆係「どうしたんです?」
厩番「反省文って何書けば良いんだ?」

全員コケそうになった。
そんな時―――

誰か「おい。お前ら、こんな所に正座してなにしてるんだ?」
小姓「!?福島様!」
正則「遊びに来た。虎之助居る?」
小姓「あ、は、はい。居ることには居ます」
正則「忙しいのか?」
小姓「あのぅ…小西様もいらしてまして…」
正則「彌九郎も来てるのか」
小姓「はい。それで…」
正則「ま、上がらせてもらう」
小姓「いや、あの…」

勝手知ったる友人の家と、正則は清正達が居る部屋へ向かって行った。

小姓「あ〜…行っちゃった。どうしましょう〜?」
女房「私達に福島様は止められないわ。事の最中じゃない事を祈りましょう」
全員「(まぁ、仕方ないや)」
誰か「何?見られちゃマズイ事してるの?」
全員「うきゃ〜!」
小姓「おおお大谷様!」
大谷「皆で反省文書いてるの?何したの?」
湯殿番「いや、それはですね…」
家老「あの…ですね」
大谷「あれでしょ。虎之助と彌九郎が喧嘩したかと思えば、イチャつきはじめて、うっかり覗き見しちゃったって感じでしょ?」

当たってます。実は見てたんぢゃないの?

大谷「どうしようかな。部屋行くの怖いし、此処で待ってよ」
女房「…大谷様、此処でお待ちになられるのですか?」
大谷「うん。その内叫び声か、怒鳴り声でも聞こえてくると思うから、そうしたら向こうに行くよ」
家老「ところで、本日はどのような件で此方に?」
大谷「ああ、市松が『馬刺し食べに行く』って連れて来られただけ」
全員「(そんな事で此処まで来ちゃったんだ)」
大谷「ね〜。そんな事で此処まで来ちゃうはめになっちゃったよ」
全員「(読まれてる!?)」

全員、大谷に注目。当の本人はニコニコしているだけだった。
そんな時屋敷中に響く声が!




清正と小西は。


少し遡り、清正と小西が寛ぐ奥座敷―― ちゅ、と指先を吸われ、小西が微かに身じろぐ。

小「こら、手ぇやなくて、梨食わんかい」
清「梨もだが…勿体ないだろう?折角熟れたのに」
小「熟れ…!」

昨晩の会話を覚えていたのかと小西が絶句する間も、諦めの悪い男は甘い指先に歯を立てる。

小「(確かに、虎の気持ちも解るけど!)」

だが、今はまだ陽も高く、今までからして人払いをしていそうだが、障子は開けっ放しで…。

小「(あかん。今流されたら、恥ずかしくて死ぬ!)あんなぁ…今は…」

梨を持っている手は既に捕えられていて、空いている手で、合わせを割ろうとする清正の手を必死で止めようとするが、上手く力が入らない。

小「せ、せめて、お日様が沈んでからにしよ、な?」
清「じきに暗くなる。気にするな」
小「(そりゃ確かにもう夕方に差し掛かっとるけど!)せやのうて…」

突然、清正の気が怒気を含んだものになり、小西から離れ、廊下へと歩き出した。

小「(怒らせてもうた?)」

清正と、それとは違う足音が聞こえる。
廊下に出た清正は、足音がする方を向くと、有無を言わさず掴んで…投げた。

正「おお、とら…っ!うぎゃぁぁぁぁぁ!」

どっぽ〜ぉん!

池に落ちていく正則を小西は見た。

小「市松!?」

それからの清正の行動は早かった。廊下側の障子を閉めつっかえ棒をする。が、その時、隣の部屋に繋がる襖が開いた。

大「こんにちわ。良かった。真っ最中じゃなくって(笑)」
小「紀之介さん!?え?何で、ここに?」
清「紀ぃ兄…」

どうしてこうも邪魔が入るのか、清正は頭を抱えたくなった。
突然の出来事に戸惑う小西を隠すように進み出て、怒るに怒れない人物の名を、清正が懇願するように呟く。

大「うん、悪かったね。どうしても馬刺食べるってきかなくって」

アレが。と、指差す先に、障子をガタガタさせる正則の影。



その頃。正座組。

遠くから叫び声が聞こえる。
「うあぁぁぁ!」

どっぽぉ〜ん

筆係「…福島様か…」
家老「池に落ちましたな…」
小姓「やはり殿が…」
廚番「投げたんでしょうねぇ」
女房「!?大谷様が!」
湯殿番「もう居ない!」
厩番「早っ!」

それからガタガタという音と共に正則の怒鳴り声が聞こえる。

正則「虎之助〜!此処開けろ!」

小姓「あ〜廊下ビショシビショですよね〜…」
家老「…そうだな」
廚番「殿も大人げない」
厩番「仕方ないよ。良い所を邪魔されたんだ」
女房「相当怒ってるでしょうね…」




話を戻して。

正「くそぅ、開かねぇっ!」

時折湿った音を混じらせながら、正則が廊下側の障子を揺り動かす。律儀にも、心張り棒がある方を必死に開けようとするのが物悲しい。

小「市松…」

ホンマのアホや、と哀れみの視線を投げる小西に、大谷が笑う。

大「そうだねぇ。市松は猪みたいなモノだから」
清「…で?」
大「うん?取り敢えず、立ち寄った挨拶でもと思って。挨拶も無しじゃ、私と市松がお忍びの逢引き旅行でもしてたのかと思われるかもしれないからね」

それは大丈夫。絶対に無い。

小「そろそろ開けんと、壊されんで」

そう言って立ち上がる小西を大谷が制す。

大「彌九郎、その前に…」

大谷が自分の合わせに手をやるのを見て、視線を落とすと…先程のやりとりで、随分はだけていた。清正も「しまった」と顔をしかめる。
慌てて前を掻き合わせ、

小「あああ!ほら、残暑厳しかって、なぁ!」

明らかにバレてる嘘を吐く小西に大谷が笑う。

大「そうだねぇ。暑かっただろうね」
小「そうそう。あっつい上に、虎が引っ付きよって」
大「で、脱がされかけたと」
小「一応抵抗はって?あぁぁぁぁ!」

つい自分から打ち明ける小西(笑)

清「紀ぃ兄…誘導しないでやってくれ…」
大「彌九郎は慌てると何でも話しちゃうからね(笑)」

すすすっと未だ障子と格闘している正則の方へ大谷が移動し、心張り棒を外すと、いきなり開いた障子に勢いがつき、突進する様に部屋へ正則が入ってくる。

正「うあ!?」
小「へ?」
清「!!」

突進した先は、必死に帯を直す小西にだった。
反射的に、小西が顔を上げる。
その瞬間、迫る正則の胴に、清正の腕が巻き付いた。

正「おっ、開い…って、う、わっ!またかよおぉっ!虎之助えぇっ!」

どぼしゃあんっ!

叫び声が、再び水音に飲まれて消える。

清「ちっ…」

清正は小さく舌打ちを残すと、悪戦苦闘気味だった着付を手伝おうと、小西を振り返った。

清「おい。一人で――」
大「こんな感じかな?」
小「ん。おおきに」

そういえば、もう一人居たよね。




その頃。正座組。
小姓「あ、また福島様が…」
家老「池に…」
女房「投げ込まれましたわね…」
湯殿番「池の水減ってそう…」
厩番「四角関係とか面白そうだよな!」
廚番「泥沼か?」
女房「殿、独占欲強そうですもの」
小姓「福島様は置いといて、大谷様は」
家老「手強そうですな」
湯殿番「ドキドキな展開だな!」
筆係「いや、そうじゃないでしょ…」

勝手な妄想を繰り広げる正座連合組合熊本支部(無駄に組名がついてる)



またも、話を戻して。
大「やだなぁ、虎之助。そんな怖い顔しなくても、誰も取ったりしないって。三角関係とか、ましてや四角関係とかなんて、考えでもしちゃった?」

清&小「四角…っ!?」

絶句する清正と小西。
自分達は良いとして、残りは誰が誰に懸想すると言うのか。ってか、妄想してるのは正座連合の皆様だが、そんなこと当たり前だが露にも思っちゃいない。

大「ま。それは冗談として」
小「冗談かい…」
大「さっさと馬刺食べて帰らないと、皆が心配するからね」

そろそろ行くよ、市松?と、庭先に声を掛ける大谷。その呼び掛けに、池に沈んでいた正則が姿を表す。その頭には―――藻が乗っていた。

小「ぷっ…市松!いつの間に毛生えたん?」

最初に吹き出しているが、笑いを堪えつつ、投げた張本人の清正も肩を震わせているが、笑いを堪えている。
大谷は至って平然として、

大「あんまり遅くなると、陽が暮れちゃうよ?」
正「待てぃ!紀之介!わしゃぁビショ濡れじゃあ!」
大「水も滴る良い男って言うじゃない」
正「そ、そうか?」

騙されテマスよ正則さん。
ザブザブと池から出てくる正則に、清正が頭のてっぺんを指す。

清「市松、悪かったな…あと、頭乗ってるぞ」
正「頭?」

頭に手をやる。
べしょ。ずるっ…

正「藻かよ!」
大「折角似合ってたのに…」
小「似合ってへんて(笑)」
清「…風呂入るか?」
正「ん〜そうだな。なんか生臭い気がする」
大「気がするんじゃなくて、生臭いよ」

笑顔でさらりと。

小「紀之介さん。駄目押しキッツイわ」
正「生臭い…」

ショック正則。清正も自分がした事だが、気の毒に思えてきて、正則を風呂場に案内した。

大「さて。じゃあ、私も行こうかな」
小「え?あ、ちょお、紀之介さんっ」

二人を追うように部屋を去りかけた大谷の袖を、小西が慌てて引っ張る。
縋る仕草に、大谷が苦笑を浮かべた。

大「心配しなくても大丈夫だよ?」
小「ほな…」
大「うん。さすがに市松と一緒に風呂は入らないよ。お湯が勿体ない」
小「そっちかい!」

思わず裏ツッコミ。
表情忙しい小西に、大谷が可笑しそうに瞳を細めた。

大「冗談だよ。一服頂こうと思っただけ」

一緒に行く?と首を傾げる。
もちろん大賛成。






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未だ終わらない。
一ヶ月もこんなメールのやり取りをする、佐々木と司岐。
もう、どうやって終わっていいのかもわからない(笑)

20060930   佐々木健&司岐望