湯巡り湯煙温泉旅行A
正則×吉継&清正×行長







「なんやの。エライびっくりしたわ」

人の流れにそって出口へと向かい、行長があらためて二人に声を掛けた。

「本当、こんな所で会うなんて、凄い偶然だね」
「お前一人で来たんか」
「へ?清正も一緒やで」

と親指で後ろを指した。

「「え?」」

行長の後ろを見ると、黒のダウンジャケットに黒のニット帽、サングラスといかにも恐そうな兄さんが立っていた。

「…気付いて無かったのか」

そう言ってサングラスを外す恐そうな兄さんこと、清正。

「清正だったんだ…」
「恐い兄ちゃんだと思っとった」

サングラスを外したところで、知らない人から見れば、やはり恐そうな兄さんだったが。

「え〜?恐そう?俺がチョイスしたんやけど。温泉ルック」

どこら辺が温泉ルックだ?そもそも温泉ルックとは何だ?

当の行長はキャメルのダッフルコートにタータンチェックのマフラーというスタイルだ。
行長なりの温泉ルックかもしれない。

「お前達も温泉に来たのか?」
「うん。そうだけど。清正達も?」
「せや。折角やし、温泉つかって、のんびり年越ししよ思うてな」

どうやら考えてる事は一緒だったようです。

「これで、宿まで一緒だったら笑えるよね」
「ワシらは、まちだや旅館じゃ」

正則が言うと、行長と清正が驚く。

「!マジで…同じや」
「そこまで一緒とはな…」


どこまでも気が合う?4人であった…。





「まあ、これも何かの縁や!仲良う行こか」
「うん。そうだね」

行長の提案に吉継が乗る。
それに顔がひきつるのは清正と正則。

「吉継はん、昼メシ食べたん?まだやったら蕎麦食いに行かへん?」
「信州蕎麦食べたかったんだ」

清正と正則を置いて話が進み、更にはもう歩き出していた。

「何故この温泉を選んだんだ?」

恨みがましく清正が正則に言うと、

「湯巡りがしたいって、吉継が言うたんじゃ」

目をそらして、歩き出した二人を追う。

二人きりの旅を楽しむはずが、こうなっては仕方がない。唯一の救いは気兼なく付き合える友人だったと、溜め息を一つ吐いて後を追った。







「はぁ〜美味かったのぅ」

蕎麦を食べ終えると、次は、清正が行きたいと言った温泉街から少し外れた、ろくろ細工の工場へ向かう。

中には数人の男女が見に来ており、ろくろの上で次第に器の形をなしていく様を見つめる。

「見とる分には簡単そうに見えるんやけどなぁ」

行長の言葉に皆で頷いた。



それから、古い街並みをのんびりと歩き、時間も丁度良いという事で一先ず宿に行き、外湯巡りをする事にした。



浴衣と羽織に着替え、宿から近い風呂に向かうと、射的場が目に入る。
やはりと言うか、まず行長が射的場に吸い込まれた。続いて正則も扉をくぐり、仕方なく清正と吉継も中に入る。

「よっしゃ!勝負や!」
「おう!」

いつの間にやら行長と正則が燃えている。
銃を構え勇む二人を後ろで眺める清正と吉継。

「清正はやらないの?」
「俺はいい」
「ふうん。邪魔が入って、ご機嫌斜め?」

茶化す様に尋ねる吉継に、清正は「そうじゃない」と溜め息混じりに答えた。

二人きりじゃなくなっても、残念がらず、逆に楽しそうな行長にチョット悲しくなってみたりな清正だった。





行長と正則が勝負を始めて30分が経過していたが、未だ決着が着かない。

「どうする?」
「止めさせるか…」

清正が白熱する二人の元に向かい、声を掛けた。

「おい」
「なんや!今エエ調子なんや。邪魔」
「うぬ〜絶対負けんぞ」

聞く耳を持たれなかった。

清正が吉継を見遣る。

吉継が正則に「一緒にお風呂入ろ」と一言云えば、行長はともかく、正則は釣れる。そうすれば勝負相手の居なくなった行長も諦めるだろう。という算段だったが、吉継は動く様子を見せない。

確かに、吉継がそんな事を言えば、正則は辞めるだろうが、暴走しかねない。という危惧もあったり。
清正が吉継を引きずり出すのを諦めて、元居た場所に戻ると、

「このままじゃ入れなくなっちゃうから、先に入っちゃおうか?」
「…そうだな」

5点の的を落として喜んでいる行長と、次の弾を込める正則に、 「先に入ってるからね」と一言告げて射的場を出て、目の前の一湯に入って行った。






10人位が入れる程の風呂で、最初の風呂という事もあり、まずは体を洗ってから湯につかった。

「はぁ…あったかぁい…」
「ああ、暖まるな…」

少し冷えていた指先や足がじんわりと湯の熱が染み込んでくるのが気持ちが良い。

「正則達来るかな?」
「どうだろうな」
「来ない方に100円」
「俺もだ」
「それじゃあ賭けにならないよ」

クスクスと肩を震わせて笑う吉継に清正も口端を上げて笑う。
あの様子では自分達が出ていっても、白熱した勝負が続いていそうだ。

「どうしよっか?」

白い濁り湯の中で同じような白い腕を伸ばして吉継が尋ね、清正は片手で湯を掬い、肩に掛け、天井を眺める。

「一応連絡して、次の湯に向かうか」
「そうだね」

意見が一致しました。

「あの二人の事だ。晩メシには必ず戻ってくるだろ」

清正は信州牛が食べたいと騒いでいた行長を思い出し、吉継も同じ事を言っていた正則を思い起こして笑った。







まだ続く。   


おんせ〜んいきた〜い。
のんびり浸かりたいです。

20070109   佐々木健