湯巡り湯煙り温泉旅行@
正則×吉継








食事の準備を正則がし、後片付けは吉継が済まして、リビングへ向かうと、正則がコタツに入って、少しボーっとした様子でテレビを眺めていた。
リビングに来た吉継に気が付くと満面の笑みで手招きする。
吉継が近付くと、コタツから身をずらし、自分が入っていた場所に吉継を座らせ、後ろから背中を暖めるように抱き締める。
いつも通りの二人の座り方だ。

「お疲れ様じゃったのぅ」
「ううん…あ、温泉番組見てたんだ」

テレビでは各地の温泉旅館を紹介する番組がやっている。

「おう。特番でやっとった。何処の旅館も料理が美味そうじゃ」

先程食事を終えたばかりだというのに、こんな事が言える正則がスゴイと思う。

「温泉、気持ち良さそう…行きたくなっちゃうね」

あまり外に出たがらない吉継が、こういう事を言うのは珍しい。正則は俄然行く気になった。

「そうじゃ!正月に行かんか?」
「お正月に?混んでるんじゃない」

暗に宿が取れぬのではないか?と吉継は首を傾げる。

「前に安治が言っとったが、割りと空いとるらしいぞ」

安治は以前、彼女と年越しを温泉旅館で過ごそうと予約をしたが、年を越す前に別れてしまったという悲しい思い出があったりするが、そのような詳細は吉継は知らない。

「へぇ、そうなんだ。じゃあ大丈夫かな?」
「そんじゃ、決定じゃな!」

温泉…浴衣…衿から覗く吉継の項…裾から見える生足…そして何より吉継と一緒に温泉!!

温泉最高☆と正則、狂喜乱舞。
後ろでそんな風に喜び、妄想に耽っているとは知らない吉継は、番組を一生懸命見ている。

「ねぇ、何処の温泉が良いかな?」
「ん?そうじゃのぅ…吉継は何処がエエ?」

露天風呂、檜の風呂、秘湯、様々な効能、数々の山菜料理や海鮮料理それぞれの旅館はどれも魅力的だ。

「そうだね…折角だから、湯巡りが出来るところが良いかも」

丁度いま紹介されている温泉街が湯巡りを看板にやっている所で、街並みも古き良き時代的でなかなか良さそうだ。

「そうじゃな。よし!此処じゃ此処にしよ!湯巡りするんじゃったら、二泊三日じゃ!」
「二泊三日?」
「湯巡りするんじゃったら、一泊じゃ入れる温泉も限られるじゃろ。大晦日に行って、2日に帰る。こんなんでどうじゃ?」
「そっか、そうだね」

というわけで、日取りも決定。あとは宿に予約をとらなければ。
善は急げと正則は携帯を持って自分の部屋に入っていった。

「ここで電話すれば良いのに」

吉継に聞かれないようにしたのは、離れの部屋をとるためだったり。




暫くして、正則が上機嫌で戻ってきた。

「宿とれたぞ!ばっちしじゃ!」
「良かったぁ。ありがと」

そうして再び正則は吉継の背中を包むように座りこんだ。

「楽しみだね」
「まちどおしいのぅ」

純粋に温泉を楽しみにしている吉継と、ちょっと違う事を楽しみにしている正則だった。







とうとうやってきた12月31日。

車で数時間の場所だったが、折角だから観光地も周りたいと朝から出発した。
朝があまり強くない吉継はまだ眠たげで、車を走らせると一層眠気がやってきたようだった。

「寝とってエエぞ」
「でも…」

それは運転手に失礼じゃないか。と頑張って目を覚まそうとする。

「ワシは大丈夫だで、安心して寝とけ」
「うん…ゴメン…」

言い終わるかどうかの時点でもう眠りに入ってしまった。
正則は急発進、急ブレーキにならないよう気を付けて運転する。
信号待ちの間に吉継を見ると、幸せそうに眠っていて、正則も幸せになる。

高速道路に入って、暫く走り、そろそろ休憩を取ろうと、新しく出来たハイウェイオアシスに車を入れた。
駐車場に車を停めると、吉継が目を覚ます。

「ん…」
「悪い。起こしたか?」

正則が顔を覗き込むと、数度瞬きをして焦点があう。

「ううん。丁度目がさめた。…ここは?」

ハイウェイオアシスはサービスエリアと違い、妙に華やかに作られていて、さながらアミューズメントパークのようだった。

「ハイウェイオアシスじゃ」
「へぇ…観覧車まである」

丁度車の前方に、大きすぎず小さすぎない観覧車がゆっくりと回っていた。

「乗るか?」
「乗らない」

やっぱり断られました。

ちょっとションボリしながら正則はトイレの為に車を降り、吉継は飲み物を買おうと車を降りた。

その際、吉継は目深に帽子を被る。色素が無い為に真っ白な髪はどうしても目立ってしまう。好奇の目で見られるのは人間誰だって嬉しいものではない。



用を済まし、売店の出入り口で待っていると、暫くして吉継が出てくる。
手には缶コーヒー二つと袋を一つぶら下げていて、正則の姿を確認すると、少し足早にやってくる。その事が正則には滅茶苦茶嬉しい。

人目がなかったら走り寄ってギュ〜ってしたい。
正則的には人目が有っても構わないが、そんな事をしたら吉継が怒る事は火を見るより明らかで。
ウズウズしながらも懸命に堪える。

「はい。コーヒー」
「おう。スマンな…それは何を買ってきたんじゃ?」

コーヒーを受取りながら尋ねると、吉継が袋から更に紙に包まれた物体を取り出す。
紙を開くと、大きな肉まんが出てきた。

「見たら買いたくなっちゃって」

食べたくなった。じゃない所が吉継らしい。その証拠に、そのまま正則に渡そうとしている。

「吉継も半分食うか?」
「うん」

吉継が食べる事に興味を持ってくれるとは、喜ばしい事だ。と半分に割って渡すと、更に半分に割って正則に戻ってきた。

(やっぱり…)

外が寒い事もあって、割られた肉まんから湯気がたちこめていて、美味しそうだ。
正則はまず、四分の一に割られた肉まんにかじりついた。
皮も具も柔らかく、見た目は大きいが、味は大味ではなく、なかなか美味しかった。
隣を見ると、吉継も気に入ったのか美味しそうに食べている。




車に戻ると吉継が「運転代わろうか?」と申し出てきたが、正則は断ると、運転席に収まり、吉継も助手席に回った。

再び車を走らせ、先程までは切っていたMDをかける。
軽快な音楽と他愛ない話をして、楽しいドライブだ。暫く走らせると、温泉街近くのインターまであと5kmという標識が出る。

「猿、居るかな?」
「居るじゃろ」

宿に行く前に行きたかかった場所。猿が入りにくる温泉。しかし、野生の猿故、必ずしも居る訳ではないらしい。

結構な観光地だから、猿が居なかったら人間を見に行く様なものだ。
期待半分、不安半分といった具合いに、その温泉へと向かった。

現地に着くと、満車だった駐車場が運良く空き、さほど待つ事なく車が停められた。






至る所で温泉の湯煙がたっていて、一面が白く煙っている。
少し歩くと、人々の歓声が聞こえてきた。
どうやら温泉に猿が入っているようだ。
正則はとっさに吉継の手をとり、足早に歓声の聞こえる方へ向かう。
手を掴まれている事に吉継が抗議しようとする。

「ちょっ…」
「大丈夫じゃ。誰も気にしとらんて」

吉継本人に言ったら、殴られるどころでは済まない事だが、吉継はよく女性に間違われる。華奢な体に着ている服も、これは正則が見繕って買ってくるのだが、ユニセックスの物が多く、ともすれば女性用を買ってきていたりする。
狙って買っている伏しもあるが。

ちなみに本日の服装はベージュのハイネックにフードにファーが付いた白いハーフコート、細身のデニムにブーツと正則曰く雪兎がイメージらしい。
ついでに正則は黒のロングコートに白いマフラーの為、熊と雪兎の二人組に見えていたりする。

まあ、そんな事は置いておいて、温泉猿だ。
人が集まっている場所に辿り着くと、丁度一匹の猿が山から温泉に向かって走ってくる。
温泉の中にも何匹かの猿が入っていた。

「おお!入っておるの」
「本当だ」

手を握られている事もすっかり忘れて、目の前の猿達を楽しそうに見ている。
温泉に入っている猿達は目を細めて気持ち良さそうな雰囲気で、その姿が何とも…

「オッサンみたいや」

そんな声が少し遠くから聞こえてきた。

吉継は同じ事を考えている人が居るもんだと声のした方を見ると、よく見知った人物だ。
そう隣によく居る―――

「行長?」

決して大き声を出した訳ではないが、隣の正則も吉継が見ている方を見て、名を呼ばれた行長が吉継の方へ視線を向けた。

「…吉継はんと正則?」

吉継と正則に気が付いた行長は、信じられないといった表情だ。


それは吉継と正則も同じだったが。





続き。



無駄に長くなってしまい。
終わらなかった正月用マサヨシ。
分割でお送りします〜。
ってか、横に逸れ過ぎてて長くなってる!

はう〜。温泉行きたいや〜。

20060105   佐々木健