元旦〜東軍〜










さて、新しい年の幕も開け、1月2日だ。
冷たい風もなんのその。と忠勝は庭に降りて毎日の習慣となっている乾布摩擦を始めた。
そして、程よく身体が温まってきた頃、来客を知らされた。
家臣達が慌てている様子に、忠勝は「もしや?」と思い、手早く身支度を整え客間に着けば予想通りの人物。徳川家康が居た。

「やあ、忠勝」
「殿…」

何故忠勝の主君である家康が自分の屋敷に居るのか?
新年の挨拶なら昨日したし、何か不手際があっただろうか?
顔にも声にも出さないが、忠勝は何故此処に家康が居るのか考えに考えてたら、家康の傍に置いてある鍋が目に入った。

「殿…この鍋は?」
「ああ、今日目が覚めたら鍋が食べたいと思ってね。君の幼名が鍋之助だったな。という事も思い出して、こうして鍋を持ってきたんだ」

そんな鍋繋がりいらないです。とか考えていたところに、更なる来客が告げられた。

「よお、明けましておめでとう」

隻眼の龍。伊達政宗だった。

「ああ、明けましておめでとう…」

これまた、何故政宗が此処に来るのか分からない忠勝は首を捻りそうになるのをこらえて、客間に案内しようとしたところに更なる来客がやってきた。

「「明けましておめでとうございま〜す!」」

声が二つ重なったな…と思いながら振り向けば、甲斐姫と小早川秀秋がニコニコと立っているのに忠勝はちょっと眩暈を覚えた。

「…明けましておめでとう…」

何で、何で皆此処に集まったのだ?
取り敢えずやってきた三人を客間に上げて、先に来ていた家康と合流。
後の三人も家康が来ているのに少なからず驚いていたようだった。
そして、訪問の意図を尋ねると…。
政宗は抱えて来たお重を出してきた。

「正月と言えば御節だ。御節と言えば伊達巻きだろ?気合い入れて作ったら、作りすぎたんだよ」

開いたお重には、みっちり伊達巻きが詰まっている。

作りすぎだよ…。

甲斐姫はというと、

「初詣に行こうと思ったんだけど、凄い人混みになるじゃない?痴漢になんか遭ったら嫌だから、用心棒として一緒に来て貰いたいのよ」

並みの男には負けない甲斐姫だが、見た目だけなら可憐な女性。
嫌な目に遭う前に予防線を張ろうという作戦らしい。
そして秀秋はというと、

「お年玉貰いにきたんだよ」

既に手が忠勝に向けられている。

ちょっと待て。お主の方が位も高いのだから、収入は其方の方が上だろう?

思っても言わない忠勝です。
そして、各々の用件を言った三人は家康を見た。
見られた家康は、表面的には爽やかな笑みを浮かべ、鍋を掲げた。

「鍋がたべたくなってね。鍋と言えば鍋之助だ」
「「「鍋之助?」」」
「忠勝の幼名だ」

何かその紹介は辞めてほしい…。
そう思っても、やはり言わない忠勝だった。









それから家康ばかりか、他の三人にも「鍋、鍋」言われる羽目になってしまう忠勝。
結局甲斐姫の用心棒という名目で全員で初詣に行き、秀秋にはお年玉を取られ、鍋をつつきながら大量の伊達巻きを皆で食べた。
因みにやはり、鍋繋がりで忠勝が鍋奉行を認ぜられた。








明けましておめでとう…。








終わり

これは1月2日に書いたんだっけ?←曖昧
だから、元旦っておかしいんだけど、西軍と対にしたからさ。

20100531   佐々木健