月夜
政宗吉継









誰かの気配が覚醒に導き、目を開けた。
暗い部屋の中には自分以外は誰も居ない。
誰かの気配は戸の向こう側。
殺気はなく、ただそこに居る。

この気配は―――

「起こしてしまいましたか?」

此方が起きた事を見透かしたような声に、一つ溜め息を吐いて褥から出て羽織を肩に掛けて襖を開けた。

「何をやってるんだ?」

突き抜けるような冷たい空気が身を包む中、深夜の訪問者。吉継は暢気に縁側に腰掛けている。

「こんばんは。何って、月を見てました」

弱い光を放つ上弦の月を見上げながら楽しそうな吉継に、また溜め息を吐きたくなった。

「面白いか?」
「面白いかどうかは分かりません。でも、楽しいですよ」

この寒空の下、どれくらい此処に居たのか、空気に晒されている右の頬に触れれば、血が通っていないかのように冷たかった。

「冷え切ってんな」
「政宗は温かいですね」

熱を求めるようにすり寄ってくるのをそのまま引き寄せ抱き締める。

「…冷え過ぎだ」

身体を壊したらどうするつもりだ。と言えば、

「貴方が暖めてくださるんでしょう?」

少し照れながら誘うのだから、質が悪い。

「溶ける程に暖めてやる」

冷たく色を無くした唇に熱を与えるように口付けた。












冷え切った身体を抱き上げ、先程まで自身が寝ていた褥へと横たえると、腕の中の吉継の身が少し強張るのに、口端が上がる。

「今更緊張してきたか?」

意地悪く聞けば、吉継の顔に朱が走り、軽く睨んできた。
この状況下で睨まれた所で可愛いだけなのだが、それを言ったら本格的に機嫌を損ねさせてしまうだろうから、誤魔化すように頬を撫で、瞳を閉じるよう促す。
閉じた瞼を撫で、睫毛の感触を楽しみ、薄く開いている唇に口付ける。
震えて閉じようとする唇を舌先で舐め開かせて、咥内へと舌を侵入させると、吉継の舌と出会う。
更に深く合わせて舌を絡めれば、遠慮がちに手が肩を掴んできた。

「ぅ…んぅ…」

鼻から抜ける甘い声音に熱を与える側の此方が熱くなりそうだった。
口付けながら、顔に巻かれた包帯を解いて行けば、慌てた様子で腕を掴まれる。

「ま、政宗っ」
「見たいんだよ。吉継を…」
「でも…」

怯える瞳に安心させる笑みを向ければ、泣きそうに歪むが小さく頷いた。
するりするりと解いて行くと、白い肌と赤く膿んだ肌があらわれていき、膿みを繰り返し壊死した左頬と自身と同じく眼球を無くした窪んだ左目が姿を現した。

「…気持ち悪いでしょう?」
「いや、これらひっくるめて吉継だろう?」

哀しく問うのに即答すれば、信じらんないと残された右目が見開かれる。
朽ちた肌を撫でる。
それは乾き切った肌だったが、余計に愛しさが募った。

「政宗…」
「全てが見たい」

見せてくれ。と耳に直接吹き込めば、おずおずと首に腕が回された。







「見て下さい。私の全てを…」 










終わり

初政宗×吉継
今見るとこっ恥ずかしい話やww

20100524   佐々木健