夢いっぱい大晦日
秀家→創作小西行長








「彌九郎!!」

突然の不躾な呼び掛けに、肥後宇土城主、小西行長は振り返らずに走り出した。

「あっ!!待て!!彌九郎!!止まれ!!」

走り出した行長を追い掛けるは、備前中納言こと宇喜多秀家。

「いや、人違いちゃいますのん!?」
「人違いな訳ないであろう!!人違いなら何故逃げる!?」

秀家の尤もな言葉に、行長が足を止め、諦めた表情で振り返り、行長が足を止めた事に秀家も足を止め、悠然と笑みを浮かべる。

「余の目を欺けると思うなよ?」
「…スミマセン…」
「彌九郎。今日は?」
「…大晦日ですぅ」
「明日にはまた一つ歳をとる事になるな」
「はぁ…」

秀家が話をしていくが、行長は早く逃げ出したいといった状態だった。

「余も、今年は背が伸びたのだぞ」

得意満面に話す秀家に、行長は顔も身体も強張る。

「そ、そう言えば少し大きならはれましたなぁ」
「明石!!」
「は!!」

パパンっと手を叩くと横の障子がスパーンと開き、宇喜多家臣の明石全登が尺を持って現れた。

「さあ背比べだ!!」
「あの…八…秀家様の方が高くならはったら…」
「彌九郎が余の物になるという事だな」






まだ秀家の父直家が存命の頃取り交わした約束。

『八郎が彌九郎より背が高くなったら、彌九郎が嫁になる』

子供の戯れ言と安易に約束したのだが、何年経っても秀家は覚えていて、実行しようとしている。






行長にとって、秀家は子供の頃から見ているから、弟か息子のような感覚で、可愛いとは思えど、恋愛対象にはならない。

『彌九郎より背が高くなってますように』
『追い抜かれてませんように…』

二人の正反対の祈りをよそに、明石は背中合わせに並んだ秀家と行長の身長を比べた。

「どうだ!?」
「秀家様の方が……一寸程低いですね」
「なに〜!?」
『た、助かった…』
「それじゃ、ウチは失礼させていただきますぅ」

落ち込む秀家を置いて、行長は颯爽と逃げた。
良い年明けを迎えられそうな行長の顔は晴れ晴れとしていた。

「秀家様…いい加減諦められては如何です?」
「余は諦めないぞ!」











初詣には、身長が伸びるように祈る!!








終わり

これも書いた時は大晦日ww

20100524   佐々木健