童心
高虎秀長









夏も終わりに近付き、日中はまだまだ暑い陽射しを注ぐが風は涼やかさを持ってきた。


そろそろ衣替えの時期だな。


そんな事を考えながら高虎は廊下を歩き、秀長が執務を行う部屋を目指していた。


過ごしやすくなるのは嬉しいけれど…。
厚着になると、秀長様の肌が見れなくなってしまうなぁ…。


しょうもない事を考え、少し溜め息が漏れた。
広い庭が見渡せる執務室の障子は開け放たれている。

「秀長様…?」

中には誰も居ない。
ふと視線を落とすと、庭用の草鞋も無かった。


息抜きに散歩に出られたか?


暫く待とうかとも思ったが、きっと供も付けずに出て行ったであろう秀長を探そうと高虎も庭に降りた。
たかが庭だけれど、半自然の林になっていて、敷地は広い。
警護に抜かりは無いけれど、何かが起こってからでは遅い。
秀長が行きそうな場所を当たりつけて高虎は歩く。
強い陽射しを木々が遮り、時折吹く風は気持ちが良い。


確かに絶好の散歩日和。
季節の変わりを感じながら歩いていると、一本の大きな木の根本に草鞋が揃えて置いてあるのを見付けた。
慌てて其処へ行くと、上から声を掛けられた。

「高虎」

その声に高虎が仰ぎ見れば、探して居た人物、秀長が楽しそうに木の枝に座っている。

「秀長様!?何故木の上に」
「コイツが突然走り出してしまいまして追いかけてきたら、飛んだんですよ!」

秀長の膝の上には鶏。
そう。秀長が玉子から温めて孵化させた鶏。
鶏になった今でも秀長に付いて回ってる高虎にしてみれば羨ましい鶏。

「…飛んだんですか?」
「そうなんですよ。この木に。それで久しぶりに木登りに興じてみました」

子供の様に無邪気に笑う秀長に高虎は脱力する。

「高虎もどうですか?気持ちの良いものですよ」

楽しそうな声が聞こえ、再び木に視線をやる。
立派な枝振りだが、小柄な秀長ならまだしも、高虎の体格を考えると少し心許ない。

「いえ、私は…」

秀長に視線を戻した高虎は言葉を詰まらせる。



見てしまった。



着物の裾から覗く秀長の素足を…。



「あ…っ」
「どうしました?」

秀長の素足をうっかり見て固まってしまった高虎に気付かない秀長は、足をぶらぶらさせながら膝の鶏と遊んでいる。

「(可愛すぎます!鶏羨ましい!っていうか、足!さ、触りたい!)」

悶々としてくる高虎とは対照的に、秀長は清々しく、

「もうすぐ秋ですね〜」

と暢気に木の上を楽しんでいた。















終わり。

久しぶりの高秀。
妙なお目付け役が付いてしまった^^;
鶏…。
この鶏、名前はないよ。
秀長からも「鶏」って呼ばれてますww

20090831   佐々木健