無花果
高虎→秀長






暑過ぎた日々も少し和らぎ、柔らかな日差しのもと、一通の書状を書き終え外を眺めていた秀長に、襖の向こうから声が掛かった。

「高虎です」

「どうぞ」

返事を返すと、襖が開き大柄な男性、藤堂高虎が部屋に入ってくる。手には大きな籠を抱えている。

「失礼します。秀長様、おねね様から無花果が届きました」

「義姉上からですか」

高虎の抱える籠の中を覗きこむと、熟した無花果が籠一杯に入っている。下になっている部分が潰れてそうだなと思い、秀長が苦笑する。でも、そんな所があの義姉らしいとも。

「食べ頃で美味しそうですね。丁度キリが良いので、いただきましょうか」

「では、剥いてきますか?」

通常なら自分で剥いて食べるのだろうが、念のため尋ねる。

「いえ、自分で剥きますよ。そこまで手間は掛けられません」

「(それらを仕事にしている者も居るというのに)…そうですか。では、茶を用意してきます」

「すみません。お願いします」

籠を置くと、秀長がいかにも嬉しいといった感じで、無花果を手に取り眺めている。








自身でやる必要はないのだが、他の人間を入れたくなくて、自分で茶の用意をして戻ると、縁側に腰掛けて、無花果の皮を剥く秀長の姿があった。その表情はとても楽しそうで、

「お茶、お持ちしました」

盆を置くと、茶と高虎の顔を交互に見やる。

「ああ、有難うございます…もしかして、高虎が煎れてくれたのですか?」

「はい。丁度手が空いてたので」

というより、誰にも頼まなかったのが正しいのだが、高虎の言葉を聞いた秀長は、目を細めて微笑む。

「それはそれは…高虎の淹れるお茶は久しぶりですね。」

「言って下されば、いつでも、お淹れしますよ」

「有難うございます」

そう言って微笑む秀長だが、高虎に頼む事はないだろう。そう思いながら、秀長を眺めていると、目の前に綺麗に皮の剥かれた無花果が現れた。

「はい。どうぞ」

高虎が突然現れた無花果に数度瞬きをすると、無花果の向こうで微笑む秀長の表情が暗くなる。

「無花果は嫌いでしたか?」

「あ、いえ、好きですが…」

「では、どうぞ」

高虎が無花果を受け取ると、秀長は籠から無花果を取り出し、また剥き始めた。

「…秀長様」

「はい。何でしょうか?」


「何処に家臣に無花果を剥いて、寄越す主が居るんですか!」

「え?おかしいですか?」

本当に解ってないみたいだ。頭を抱えたくなったが、手には無花果がある。

「ああ、でも、先程の高虎と一緒です。私の手が空いてたから剥いたまでですよ」

「(全然一緒じゃないですって)…では、有り難く頂戴します」

「はい。きっと美味しいですよ」

毒味ではあるまいのに、主よりも先に食べるのはどうかと思ったが、食べずに待ってると、また心配を掛ける事になりそうだったので、一口かじる。口の中に程良い甘さが広がる。

「美味しいです」

丁度剥き終えた秀長は、その言葉に嬉しそうに笑う。

「それは良かった。こう見えても私、美味しい物を見分けるのが得意なんです」

といっても、頂いた無花果はどれも美味しそうだったんですけどね。と笑う。

「本当に美味しいですよ」

「これ位しか取り柄がないので」

困ったような笑みを浮かべる秀長は、いつも、自分には兄、秀吉の様な采配は出来ないと言うが、堅実な采配を出来る秀長は、もっと自信を持って良いと思う。
だけど、戦場の張り詰めた空気の中にいるより、こんな風にのんびりとした空気が秀長には似合う。

「美味しいですねぇ」

「そうですね。秀長様の目利きも良いのでしょうが、それと、秀長様に剥いて頂いたから、余計に美味しいのでしょうね」

「そうですねぇ。人に剥いて貰うと、余計に美味しく感じたりしますよねぇ」

「いや、そういう意味では…」

「高虎の淹れてくれたお茶も、凄く美味しいですよ」

ニコニコとお茶を飲む秀長に理解してもらうには、なかなか難しいようだ。
そんな昼下がり(笑)







終わり。




やっちゃいました。
高虎×秀長!ってもまだ一方通行ですけど。
先日、風呂入って寝ようと思ったら、突然、秀長について調べたくなった。
そしたら、いつの間にか(笑)
秀長と高虎は16歳離れてるので、高虎相手の口調が子供向きになってる感じの秀長です。
秀長はのほほん系希望。

20060907   佐々木健