小さな恋の物語
正則→吉継
長浜時代の話です。







突然の天気雨に降られたり、風が強かったりと、徐々に冬の気配を漂わせ始めた頃。

「う〜。寒くなったのう」

雨に濡れた頭を、手拭いで拭きながら、福島市松正則が身を震わせる。

「風も強くなってきたしな…」

滴を拭いつつ溜め息を吐いたのは加藤虎之助。

「こういう時は、あれじゃ!人肌で暖をとりたいの」

ニヒヒと笑う正則を、多少白けた目で虎之助は見遣った。

「何を色気付いた事を……俺にくっつくなよ」

元服を済ませたばかりの正則は、少々背伸びした感もあるが、大人びた事がしたいらしい。
興味無しといった虎之助の態度に、正則が腕を突っつく。

「虎之助かて、好きな子くらい、おるじゃろ?」
「いない」

虎之助も全く興味が無い訳ではないが、現在は好きな女子など居らず、今は如何にして秀吉の役に立てるかどうかが目下の問題だった。

「市松は居るのか?」

興味を持ったにしろ、どうにも花より団子な正則に好きな女子が居るとは思えない。

「ワシか?…………そういえば、おらん」

予想通りの答えに虎之助もついに吹き出した。

「笑う事はないじゃろ!!」

ムッとして飛びかかる正則に、虎之助も笑いながら応戦し、喧嘩というよりじゃれ合い的に遊んで居ると、スパーンと襖が開き、目の下にクマを作った石田佐吉三成に物凄い目で睨まれ、そのあまりの迫力に普段なら食って掛かる正則と虎之助も流石に怯み、つい二人で「すみません」と謝った程だった。
大人しくします。と約束して、三成が去った後に暫くは無言の二人だったが、再び話が戻り今度は好みの女性像へと移る。

「そうじゃなぁ…色白美人で、いつもニコニコしてての。気が利く、奥ゆかしい人がエエのう。居らんかの?」

理想の女性に想いを馳せる正則に、何となくある人物が思い浮かんだ虎之助は思ったままを口にした。

「奥ゆかしいかは、解らないが…今の話だと、紀ぃ兄が近いよな」
「紀之介!?」

大谷紀之介吉継。色白で美人ともいえる柔和な顔立ち。怒らせると怖いけれど、いつも笑みを絶やさない。
しかし、女性ではない。
ただ単に言ってみただけの虎之介だったが、正則の反応に慌てて冗談だと言いかけたのだが…。

「じょ…」
「そうか!」

酷く納得してしまった正則は、虎之介の言葉も聞かずに駆け出した。

「冗談だと、言おうと思ったのだが…」

開け放たれた障子の向こう、遠い山が見事な紅葉に彩られているのを見て、あ〜紅葉綺麗だなぁ。と現実逃避を決めた虎之介だった。







◇     ◇     ◇     ◇     ◇







「紀之介〜!」

一方、虎之介の現実逃避も知らない正則は、野生の勘なのか一目散に吉継の元へ辿り着く。

「そんなに慌てて、どうしたの?」

物凄い勢いで現れた正則に、吉継は首を傾げるが、理想の女性像なる人物の小首を傾げる仕草に正則の胸は高鳴るばかりで、勢いそのままに願いを口にした。

「紀之介!女になって、ワシの嫁になってくれ!」

言った本人は晴れ晴れとした笑顔で、言われた相手は、内容が飲み込めず一瞬呆気に取られたものの、もとより回転の速い頭を持つ吉継は言われた内容を把握した。
そして、綺麗な笑みを浮かべ……正則の頭を鷲掴み、

「このまま頭潰されたい?」

恐ろしい言葉を吐く。

「!!」

そういえば、吉継にはこういった類の話題は禁忌だった事を思い出した正則は、笑顔から一転青ざめ涙目になってふるふると首を振る。
その様子に多少怒気を緩めた吉継に、正則の顔色が少し戻ってきた。
しかし、

「とりあえず、頭冷やしておいで」
「!?」

言葉と同時に正則の身体は地から離れ、近くの池に投げ込まれた。








小さな恋の物語?











終わり

正則は投げられて何ぼだよね〜ww
長い事台詞だけで放置してました。
そう1年以上ww

20091123   佐々木健