ひとこいしい
正則吉継







熱い…

寒い…

辛い…



寂しい…




…傍に居て…。









息苦しくて目が覚めた。
真っ暗な闇の中自身の息遣いだけが聞こえ、重い身体をなけなしの体力を使い起き上がる。
静まり返った部屋。
独りだと実感させられる。
風邪をひいて熱を発する身体は横たわる事を要求するけれど、孤独を実感させられるこの部屋から逃れたくて廊下に出た。
しかし、厚い雲に覆われているらしい天は何も見せてくれなくて。

…それでも、この空はあの人に繋がっているから…。

何も聴こえなかった部屋とは違い、外は微かに揺れる葉の音と遠くに聴こえる梟の声がする。
何より聞きたいあの人の声は聞こえないけれど、それでも少しだけ孤独感が薄れる気がした。
ほんの少しだけだったけれど…。

「駄目だな…風邪なんて…」

病気を得ると人恋しくなるとは、間違い無いらしい。

「市松……会いたいよ」

我が儘な願いを口にしてしまう事で、余計に悲しくなってしまった。
立っている足から力が抜け、手を突く事も出来ずにその場に倒れる。
異変に気付いたらしい五助の声が遠くに聞こえた。









目を覚ました時にはもう夜が明けていて、屋敷の者達が忙しそうにしている気配がしたけれど、いつもより騒がしい気がする。
何かあったのだろうか?
そういえば、私はどうして此処で寝てるんだろう?
夜に風にあたりすぎた為か悪化させてしまったらしく、働きの悪い頭で昨夜を思い出す。
そういえば五助の声がした…後で五助に叱られてしまうなぁ…。なんて思っていたら、その五助の怒鳴り声ともとれる声が聞こえてきた。

「お待ち下さい!殿は風邪を召されております故…」
「五月蝿い!それじゃったら余計に独りにはしておけんじゃろ!」
「福島様!」

市松だ。市松が来てくれた。
驚きと嬉しさで飛び起きたかったけれど、眠る前より悪化した病状では手を伸ばすだけが精一杯だった。
そこに襖が勢い良く開き、会いたかった人物が姿を現す。

「紀之介!大丈夫か!?」
「いち、まつ…」

伸ばした手を急いで取ってくれる。

「…随分熱いのぅ…」

布越しでも発熱の熱さが伝わったのか、市松の眉が寄せられる。

「た、だの風邪だから、大丈夫だよ」

安心してほしくて笑みを浮かべたけれど、市松の目からは疑いが除けなかった。
でも本当に市松の姿をみたら、幾分か元気になれた気がする。
自分はこんなにも現金な性格だっただろうか。と何だか笑えてきてしまった。
心配そうな市松の後ろ、開け放した襖の向こうにまた心配そうな顔をしている五助に、謝罪と感謝の視線を投げれば、小さく「食事と薬湯の用意をしてまいります」と一礼して去って行った。
程無くして用意されたお粥と薬湯を受け取った市松が晴れ晴れとした笑顔で傍に戻って来た。
食欲は無かったけれど少しは食べないといけないなと起き上がろうとすると、そっと手を貸してくれる。
そんな何気無い優しさに涙が出そうだった。
でも…。

「ワシが食わしてやるでの」

この言葉にそれも止まった。
はぁ…全部食べるまで解放してもらえそうにないかも…。






そう思ったけれど、約半分はふうふうと冷ましたお粥を無意識に自分の口に運んで市松が食べてしまった。












終わり


ビン様から頂いたリクエスト。
全く答えれてないよ!?

あんまり看病出来てなくて、すみません(滝汗)

こんな出来ですが、どうぞ貰ってください〜。


20090131   佐々木健