催眠術
正則×吉継








『なんや。面白いもん見つけたで、紀之介はんにやるわ』





そう彌九郎が渡してきたのは一冊の本だった。

「催眠術…ね」

ぱらぱらと捲っていけば、分かりやすく図解で催眠術についてが書いてある。

面白そうではあるけれど、誰で試せばいいんだろ?
疑り深い人物では効き目がなさそうだし…。
そんな事を考えていると、

「紀之介〜!」

あの声は…。
市松がやってきた。

「いらっしゃい」

襖を開けて見れば、市松が大きな風呂敷包みを持って立っていた。

「おう!紀之介!土産じゃ!」
「ありがと。市松」

風呂敷いっぱいに何を持って来てくれたんだろ?
あ、そうだ催眠術…。市松なら掛かりそうかも。

「ん?どうかしたんか?」
「ううん。何でもないよ」

市松に催眠術か……でもどんな催眠術を掛ければいいんだろ?
目の前で市松が持ってきた土産を広げている。
栗、柿、蜜柑、餅、酒…やっぱりというか、食べ物ばかりが並んでいる。
その中の一つを手に取って渡してくれる。

「紀之介!この柿は美味いぞ!」

よく熟れていて、まさに今が食べ頃だと思う。

「へぇ。本当美味しそうだね。…ねぇ市松…私の事…好き?」

突然の私の問いに市松は慌てに慌てている。

「ぬお!お、おう!大好きじゃ!」

それでも、ちゃんと答えをくれる。
それがとても嬉しい。

「ありがと。私も大好きだよ」

普段あまり口にしない想いを素直に告げれば、市松が両手を広げて迫ってきた。

「!!きにょすけ〜!」
「抱き着くのはだめ!」
「ぬお!!」

ピタリと止まった。
抱き着くのは駄目。
だって心の準備がちゃんと出来てないから。
いつもより速く動く心臓の音を知られたく無い。
でも、ピタリと止まった市松の情けない顔を見てると、申し訳ない気持ちも湧いてきたり。
少し視線を落とせば、そこには彌九郎がくれた催眠術の本。





折角くれた物だけど…。














大抵の望みを叶えてくれる市松。催眠術に掛けなくても良いか。









なんて思えてしまった。















終わり。

惚気!?惚気なの大谷さん!?


20081222 佐々木健