おまじない
正則吉継







片想いを成就させたいなら…。

雨の日に、新しい履物を履いて出掛けましょう☆





「紀之介〜っ」

聞き慣れた呼び声に、裏庭の見える障子から吉継は顔を覗かせた。

「どうしたの、こんな雨降りに」

バシャバシャと水溜まりを踏ん付けて走って来たのは、やっぱり思った通りの人物で、首を傾げて促せば、正則が足元を指差してみせた。

「新しい草履履いて、会いに来た!」
「新しい…?」

見下ろした先には、泥はねだらけの大きな足。
どんな勢いで走って来たのか、全身が濡れ鼠状態な男に、吉継が苦笑を漏らす。

「明日でも良かったのに」
「今日見せたかったんじゃ!」

子供のように笑う正則に、吉継も思わずつられて頬を緩ませる。

「拭くもの持ってきてあげるから、縁側で待ってて」
「?」
「お茶、一緒に飲んでくれない?」
「おう!」






吉継が持ってきた手拭いで身体を拭き、用意してもらった小袖を着る。

「寒くない?」

着替え終わったところに、吉継がひょこっと顔を覗かせた。

「おう!走って来たからの。丁度エエ感じじゃ」
「で、この泥だらけの草履はどうするの?」

新しいの用意しようか?と訊ねる吉継に、正則は首を傾げる。

「うむ〜。雨の日に新しい草履を履けとしか聞いておらんでのぅ…」

誰かに言われて来たような口振りに、吉継も首を傾げた。

「誰かに言われたの?」
「ん?おまじないじゃ!」
「おまじない?」

首を傾げて訊ねる吉継が可愛らしく見えて、正則は事の真相を話してしまった。

「これで、紀之介と両想い確実じゃ!」
「ふ〜ん…」

若干温度の下がった吉継の声音に、正則はウッカリ話してしまった事に気付く。

「あ、あのな…」
「そんなおまじないで、恋が実るなら、世の中苦労しないよね」

にこりと笑んではいるけど…笑ってない。

「そそそそうじゃな!ま、まあ、ものは試しというか…」
「残念。そのおまじない。眉唾だったみたいだね」
「そうじゃの…」








そんなおまじないに頼らなくたって、既に片想いじゃないんだから。









終わり


きっとそのおまじないは小西辺りが吹き込んだんだよ。

20080110   司岐望&佐々木健