新年
正則吉継






やっぱり、無理なんてするもんじゃなかった。
場所は大坂城前。新年の挨拶の為、大谷刑部少輔吉継は敦賀からやってきたのだが…歩けるうちは自分の足で登城しようと思ったのだが、体力の落ちた吉継には、この大坂城の大きさは、無茶だった。

(足が動かない…)

辛うじて立ってはいるものの、気を抜いたら座り込んでしまいそうだった。

(情けないな…)

付いて来ていた五助は、籠を連れて来ると道を引き返している。

(五助にも迷惑掛けちゃったな…)

五助には散々無理はしないで、籠で行ってくれ。と言われたのに、自分の意見を押し通してしまった。

(でも、一年の初めだからこそ、自分の足で登城したかったんだ)

まだ五助は戻って来ない。
それだけこの大坂城が大きいという事だ。
天守は見えるけれど、どれだけ歩いても近付く気がしない。

(はぁ〜…大きいなぁ)

晴れた空に大坂城天守。
いつの間にか座り込んで見上げていた。
もう新年の挨拶は既に終わっているだろう。
そんな事を考えている時、知った声が聞こえてきた。

「ぬお〜!此処は何処じゃ〜!」
「…市松の声だ」

声が聞こえた少し後、声の持ち主福島左衛門太夫正則が、角から現れた。
どうやら迷子らしい。いつまで経っても迷子になってしまうそうだ。
迷子正則は、座り込んでいる吉継に気付くと、

「紀之介〜!」

走り寄ってきた。
まるで飼い主を見付けた犬の様だ。と吉継は微笑む。その笑みは覆面によって見えなかったけれど。

「市松。もしかして迷ったの?」
「うお?いやな、迷った訳じゃないぞ?道が分からんくなったんじゃ!」

それを世間は迷子と言うのだが、正則は迷子ではない。と主張する。
そんな正則を見ていて、吉継は気持ちが浮上していくのが分かった。

「ところで、紀之介は何で、こんな所で座っておるんじゃ?」
「疲れちゃって、歩けなくなっちゃったんだ」

自嘲の笑みが浮かぶ。

「そんな事か!」

でかいからの〜と言いながら、正則が天守を見上げ、座り込んだかと思うと、吉継を抱き上げた。

「うわ!?」
「ワシが抱えて行けば、道も分かって一石二鳥じゃ!」

そう言って正則は、天守とは反対方向へ歩きだす。
慌てたのは吉継。

「市松!反対だし!それに、五助が…」
「うお!反対か!」

とても、人ひとり抱えているとは思えない程軽やかな足取りで、くるりと向きを変え歩いていく。
此処から離れては、五助が心配するから、何とか止めないと。と思ったのだが、

「あの、だから…」
「紀之介を新年早々抱えられるなんて、良い一年になりそうじゃ!」

幸せ満面の笑顔で言われてしまい、吉継は言葉が出て来なかった。

(五助。ごめん…)

力強い腕が心地好くて、幸せだな。と吉継は感じてしまう。
軽い足取りで階段を登る正則が、何かを思い出したのか、吉継の顔を見る。

「そうじゃ!言い忘れとった」
「なに?」

吉継が首を傾げると、へらりと締まりのない笑みが返され、それからまた顔を引き締めた。

「明けましておめでとうじゃ!」

引き締めた表情に、吉継は心臓が跳ねるのを感じる。
それを誤魔化す様に、正則の首に腕を回した。

「明けましておめでとう。今年も宜しくね」
「おう!今年だけじゃなく宜しくじゃ!」






その後、吉継を迎えに来た五助は、吉継が居なくて探しに探しまわったらしい。








終わり


相互リンクしてくださっているサイト様に送ったマサヨシ。
なぜキヨコニで書かなかったんだろう?(笑)
こんなものを押し付けられた皆様、スミマセン。
これからもSGをよろしくお願いいたします。

ちなみに、この話は司岐と佐々木が大坂城に行った時「大谷さんは途中ダウンしたよね」「正則は絶対迷子になったよ」と話していたのが元です。

五助が余りに可哀想だな。
きっと、通りがかった飯田覚兵衛を捕まえて一緒に捜索です。
SGの覚兵衛は可哀想の代名詞です(おいおい)

20080104   佐々木健