正則×吉継





「散歩に行かんか?」

仕事の途中に掛けられた言葉に、少しの息抜きも必要だと誘われるままに外に出た。






「随分と暖かくなったよね」

正則に誘われて散歩に出た吉継は、厳しかった冬の寒さを思い出しながら春の暖かさに口許を綻ばせる。

「日差しが強い時は暑い位じゃ」

仕事の途中に誘ったものだから、断られると思っていた正則は、吉継が意外にもすんなりと付いて来てくれた事だけで既に有頂天で、軽い足取りで吉継の隣を歩いていた。

桜はもう葉桜となり、道には桜の花びらが敷き詰められている。
時折吹く風が桜の花びらを舞い上げ、木からも花びらを浚い、桜吹雪を作り上げていた。

「満開の桜も良いけど、これも素敵だよね…」
「そうじゃのぅ」

目の前の光景に目を奪われ感嘆の息が溢れる。
道端に生えるつくしや、見事な山吹等、植物達は春を楽しんでいるようだった。

暫く景色を眺めながら歩いていると、正則が吉継の手をひいた。

「こっちじゃ」
「何かあるの?」

尋ねても、正則は昔から変わらない悪戯小僧の顔で吉継を引っ張っていく。
吉継は苦笑混じりの溜め息を吐くと、素直に正則に付いていった。

手を繋いで歩く事が何だか子供に戻ったようで、正則が連れて行こうとしている場所が楽しみになる。




「これじゃ」
「あ…」

濃い緑の中に柔らかな藤色が見える。
棚は有るものの、誰の手入れも無いせいか下に下がるだけでなくあちこち思い思いに藤の花が咲いていた。

「藤…もう咲いてるんだ」
「城に有る藤棚はまだ咲いてないがの」

正則の言葉に思い出してみれば、確かにまた葉しか見ていない気がする。

「そうだね。此処は随分手入れされて無いから、逞しくなったのかもね」
「そうじゃのぅ。じゃが、この方が自然でエエの」

綺麗に揃えられた藤棚は確かに圧巻だが、人の手が加えられていない藤は本来の美しさを持っていた。

「これを見せたかったの?」
「おう!紀之介は最近部屋に籠りがちじゃからの」

年々外に出る機会が減っている吉継に、外は暖かく、美しいものになっている事を伝えたかった正則。
そんな気遣いが擽ったくも嬉しい。

「…ありがと」

正則に向かって微笑むと、気恥ずかしいのか、頭を掻いてくしゃりと顔を歪めて笑った。

「そうじゃ!茶屋で桜餅が出とったでの。食いに行くか!」

やっぱり花より団子な正則に、吉継が吹き出す。

繋いだ手をそのままに、二人は茶屋へと歩き出した。






―――春に、貴方に、恋に酔う。






終わり。


春は沢山花がありますねぇ〜。
今年は暖かかったり寒かったりで、花が咲く順番がぐちゃぐちゃですが、先日藤が綺麗に咲いていたので、思いつき文です(汗)

20070416   佐々木健