春一番
正則×吉継







雪も溶け後は山頂に残すだけとなった頃。
今日は一段と風が強く、辺りの砂を巻き上げ、時折小石が戸に当たる音がする。

「春ももうすぐかな」

春一番が吹くと春がやってくる―――春は優しい季節だと思うが、この強風では、竜巻等起きなければ良いが。と心配になる。
後で領内を回ってもらわなければ、と吉継は考え、それらの事を家臣達に申し付け、部屋へと戻ると、外から声がした。

「き〜にょ〜す〜け〜…ぺっ。口に砂が入った!」

あの声は市松だ。
いつから自分は『きにょすけ』になったんだか。

吉継が戸を開け、声のした方を見ると、砂が目に入ったのか、涙目を擦る正則の姿があった。

「いらっしゃい市松。目擦っちゃダメだよ」
「きにょすけ〜」

だから『きにょすけ』じゃないって。


汲み水をやって、目に入った砂を洗い落とさせ、うがいをさせる。

「ふぅ〜。やっとすっきりした」

まだ目は赤いものの、痛みはなくなった正則が一心地ついた。

「今日は風が強いからね」

吉継が茶を出すと、正則は温度を確かめる様に一口飲み、あまり熱くない事を知ると、一気に飲み干した。

「何でこんなに風が強いんじゃ?」
「春を告げる春一番の風だよ」

難しい顔をする正則に吉継が微笑む。

「春〜?じゃあ、もう暖かくなるんか?」
「さあ。明日は冬並の冷え込みだと思うよ」
「ぬう。それのどこが春なんじゃ」

また難しそうに唸る正則に、もう一杯茶を煎れると、吉継も一口茶を飲んだ。

「春もまだ準備中なんだよ」

おどける様に笑う吉継に、正則がすりすりと寄っていき、後ろから包み込む様に抱き締める。

「じゃが、寒い方がエエな。こうして紀之介を抱き締められるしの」

吉継を少し後ろに引き、自分の胸に寄りかからせ、肩に顎を乗せた。
そんな正則に、小さく肩を揺らしてクスクス笑う。

「なんじゃ?」

小さく笑う理由が知りたくて、少し腕に力を入れて答えを求めると、

「うん…ただ、幸せだなって」

それだけ言うと、擽ったそうに肩をすくめ、正則の腕に手を重ねた。

「きにょすけ〜!!」

むぎゅ〜☆

「だから!きにょすけじゃないって!」









貴方と共に過ごせる今が、とても幸せです。










終わり。


何気なく、幸せなマサヨシが書きたかったんです。

20070216   佐々木健