秋風
正則×吉継





そよそよと風が吹く。そんな朝、吉継は屋敷の縁側に腰掛け、庭の落ち葉掃きを眺めていた。まだ秋が始まったばかりだというのに、かき集められた落ち葉は結構な山になる。
その山を眺めて―――思い付く。

―――そうだ!焼き芋しよう!

それから、芋を用意し、落ち葉に火をつける。
小さな火が段々と大きくなり、落ち葉を燃していく。





暫くその焚き火を眺めていると、煙が空を舞い、風と共に流れて、落ち葉の山が小さくなっていった。





そうしてもう火が弱くなりはじめた頃

「き〜の〜す〜け〜!」

来た。食いしん坊万歳!福島正則登場。

「なんじゃぁ。煙たいぞ!」

風の向きが門に向かって吹いてるのだから、仕方がない。
煙が目にしみたらしく、涙目になった正則が現れた。そんな正則を吉継が縁側に座ったまま笑顔で出迎える。

「いらっしゃい。市松」
「おう。もう焚き火なんぞしとったか?」

吉継を見て、破顔した後、訝しげな顔で、もう灰だけになりかけた焚き火を見やる。
その様子に肩を竦めて、

「ははっ。落ち葉がいっぱいになっちゃったから、ついでに芋を焼いたの」

吉継の言葉に目を輝かせる。

「焼き芋!?」

明らかに態度が一変した正則がおかしくて、肩を震わせて笑い出す。

「分かりやすいなぁ。市松は。でも、いつも、あともう少しで完成って時に現れるよね」

言われた事が解らず、首を傾げる。

「ほら、前に栗茶巾作ってた時」

以前、栗茶巾を作っていた時、さつま芋をこして、栗の甘露煮を包もうとしたら、少し前に訪れていた正則が栗の甘露煮の大半を食べてしまった事だった。
お陰で栗茶巾ではなく、芋茶巾が出来上がってしまった。

「あ〜…あれなぁ。あれはスマンかった。でも、芋茶巾も旨かったぞ」
「今回は先に手を出せないように、焼き芋。…あっそろそろ良いかな」

立ち上がろうとする吉継を制して、正則が立ち上がり、側に置いてあった棒で、すっかり炭になった落ち葉の中から、芋をコロコロと出していく。
すっかり焼けている。中まで火が通ってそうだ。

「結構数があるのぅ」
「市松が来るような気がからね」
「そういえば、大抵突然来てるが、あんま驚かれた事がないのぅ…」

何とも不思議。
でも、まあ、相手は大谷吉継。こんな事は色んな不思議の一つに過ぎない。
だから、そんな事気にしちゃいけない。
正則は気にもしていない。

焼き芋を自分達が食べる分を取り分けると、後は屋敷の者に渡す。
そして、吉継の前には皿と箸が用意されていた。

「箸で食うんか?」
「だって、この手じゃ剥き難いし」

包帯が手の指一本一本に巻かれている。例え剥く事が出来ても、汚れてしまうし、素手のように簡単に洗って終まい。という訳にはいかないものだった。

「ワシが剥いちゃる」

皿の上に移動された芋を取り上げると、無骨な指が焦げた芋の皮を綺麗に剥いていく。剥き終えると、箸も取り上げ、芋に刺し、返した。
そんな様子を、キョトンと眺めて、

「ありがと。でも、何か、行儀悪くない?」
「焼き芋は箸で食うよか、かぶりつくのが礼儀じゃ」

直接持てないなら、刺してしまえ。そんな感じ。

「そう言われると、そんな気がするね」

いつも顔半分を覆っている布は外され、包帯はしているものの、口元は開いているから、雰囲気だけでなく、視覚で分かる吉継の笑みに、正則も満足そうに笑い、焼き芋にかじりついた。

「おお!旨いの!」
「うん。思ったより甘いし」
「紀之介が焼いたからじゃ」
「な〜に言ってんの。眺めてただけだし。あ、市松。ココ付いてる」

と自分の右口端を指すが、正則は左口端をさする。
その様子が妙にオカシイ。

「反対だって」

やっと気がついた正則は、ニマっと笑うと吉継に顔を近付けていく。それに伴い、吉継の顔は後退していく、ついでに体も。心なしか顔もひきつり気味だ。

「何かな?」
「とって☆」

正則の周りが桃色の気が覆っているような。

吉継は小さく溜め息を吐き、左手で上体を支えると、正則の右口端に付いた焼き芋カスを舐め取った。正則はこの機会を逃すまいと、肩を捕え口付けを仕掛けるが―――口に触れたものは、箸が刺さった芋だった。

「…ひのふへ(紀之介)」
「全く。油断も隙も無いんだから」



口端を舐めてもらっただけで、満足しなくちゃいけません。







終わり

スイートポテトが美味しかったので。


20061025   芋スキー佐々木健