おかえり
正則×吉継






朝鮮より、やっとの思いで帰ってきたというのに、叔父貴はもうこの世に居らず、獲た物は苦い思いばかりで、失ったものが多すぎた。一番会いたい人物はこの場には居ない。
とにかく逢いたい。
そんな思いだけで向かった。





門番達は、武者姿の人物を目にしたとき、大層驚いたものの、その人物を認めると、慌てて門を開く。敷地内に足を踏みいれると、丁度外にこの屋敷の主の姿が目に入り、此方に気付き、その顔には一瞬驚きの表情を乗せた後、すぐに柔らかい笑みを寄越した。

瞬間勝手に体が動き、抱き締める。

抱き締められた人物は、相手の肩に手をやり、労るように叩いた。

「おかえり。お疲れ様市松」

―――紀之介のその言葉だけで、今まで感じていた疲労感が何処かへいってしまったような気がした。





部屋にあがり、正則が具足を外すと、吉継が声を掛ける。

「でも、まさかそのまま此処に来るとは、思わなかったよ」
「紀之介に会いたかったんじゃ。悪いか?」

子供の様にむくれる正則に、吉継は、そうじゃないよ。と笑う。

「もう、帰ってくる頃だろうから、そっちに行こうと思ってたんだ。すれ違いにならなくて良かった」

―――それは、つまり…会いたかったのは自分だけではない。という事になる?

「紀之介〜!」

抱きつこうとした瞬間、障子の向こうから声がした。

「風呂の準備が出来ました」
「有難う。市松、まずお風呂入っておいで。汗臭いから」

笑顔で痛いとこをつく吉継に正則はおとなしく「…はい」と答えた。


風呂場に向かおうと立った正則は、名案を思い付き、目を輝かせて振り返る。

「紀之介も一緒に入らんか?」

しかし、返ってきた冷たい目に、小さく、

「寝言じゃ」

障子を開けた。

「そうだね。背中位は流してあげようか?」

「ほ、本当か?」
「今回だけ、特別ね」






吉継に背中を流してもらっている正則の顔は…緩みに緩みきっていた…。

―――夢のようじゃ〜。



「こんなもんかな。後はゆっくりして…っ!」

立ち上がろうとした吉継を突然抱きかかえ―――湯船に落とした。続いて正則も湯に入る。

「市松!」
「エエじゃろ。一緒に入ったて」
「全然っよくない!」

慌てて出ようとするのを腰を抱える事で阻止し、向かい合わせに座らせる。

「もう…知らないからね」
「後悔するなら、始めからせん」

呆れ顔の吉継に、ニンマリ顔で返す正則。その顔に何だか腹の立った吉継は正則の両頬をつまみ、引っ張る。しかし、余計に腹の立つ顔になったので、手を離した。

「はぁ、また巻きなおさなきゃいけなくなっちゃった」

ほぼ全身に巻いてある包帯を、結構な重労働だ。と溜め息を吐く。

「ワシが手伝ってやろか?しかし、全身に巻いておったとは、計算外じゃ。折角透けるかと思ったのに」

風呂場だから、いつもより軽装な吉継の小袖が透けたら…と思った正則は残念そうに呟く。それに対し完璧な笑顔を作ると、

「市松、今日ご飯抜きね」

と言い放った。

「そんな!ワシゃ腹ペコじゃ!」
「そんな事知らないよ」

腹ペコ正則は吉継にすがりつく。

「むぅ。なら、紀之介を食う」
「お腹壊すよ」
「安心せぇ。腹は丈夫に出来とる」

―――ああ言えば、こう言う正則には本当呆れてしまう。

「じゃあ、ご飯あげるよ」
「…それは助かるが、遠回しに拒否されとるんかの?」
「さあ?」
「紀之介ぇ〜」

本気で涙目で訴える正則がおかしくて吉継は吹き出した。








終わり


起きたまま寝言を言う正則。
一緒にお風呂に入る事に成功!(おめでとう!/笑)

この間の功名ヶ辻見てて、朝鮮から帰った正則が憤慨していたのは、三成が大谷さんを連れてきてなかったからだよ!とアホな話をする佐々木&司岐。
お陰でこんな話。
いや、本当は暗い話の予定でしたが、三成の事になると、両者とも違うベクトルで譲らない部分があるので、収集着かなくなるので〜馬鹿っぽい話で…。

段々大谷さん、正則に押され気味。

20061014   佐々木健