蛍の光と河の音 清正行長 |
昔々のお話です。 左手を見れば、緑に萌える草原が。 右手を見れば、肥えた褐色の大地が。 どちらも果てなく彼方まで広がる、それは豊かな国がありました。 国の統治者は賢君と名高い男であり、その名を秀吉と言いました。 秀吉には優秀で気の利く沢山の子供がいましたが、 彼は他国との交易に都合が良いということで、 その働きぶりは目覚ましく、 しかしそんなある日、思いもよらない出来事が起きたのです。 「よっしゃ!今日もようさん儲かりました!」 ぱたん、と満面の笑みを浮かべて帳簿を閉じた彌九郎は、 外は既に闇が落ち、蝋燭の明かりが唯一の目印です。 足を進ませる度に露草の柔らかな葉が足首を撫でるので、 「到着っ」 さらさらとせせらぎが聞こえるその場所で、 「今日はおるかな?」 呟いた言葉に応じるように、 しかし、彌九郎が待っていたのは、蛍ではありません。 いえ、本来は蛍を見に来ていたのですが、 「…んー…ちょっと遅かったんかな」 彌九郎が肩を落とした訳は、とても簡単でした。 彌九郎は、対岸で自分と同じ様に蛍を見に来ていた人物に、 「…って、恋やあらへんし!」 違う違うと首を振る彌九郎ですが、その思いは一目瞭然。 気になる相手でなければ、得にもならない夜の散歩など、 しかも、その相手と言うのは――。 「…っ、彌九郎…!」 「!」 突然後ろから掻き抱かれ、彌九郎は驚きの余り息を飲むばかり。 そうです。 今自分を抱きしめている、この強い腕の持ち主こそが、 「虎之助…!?」 慌てて肩越しに振り返れば、 「何で!?」 問い掛けには、二つの疑問が含まれていました。 一つは、橋も無いこの河を、どうやって渡ってきたのか。 戸惑うように凝視すれば、虎之助は腕に力を籠めてきました。 「…会って、触れてみたかったんだ」 ひたり、と頬に触れた髪の冷たさに、彌九郎の心が震えました。 水を吸った着物は湿り気を帯びていて、 「アホやなぁ…」 呆れたような、擽ったいような、 そうです。虎之助も、同じ想いを持ってくれていたのです! 「虎…」 冷え切った虎之助を抱きしめるのは、今度は彌九郎の番でした。 燭台を落とさないように唇を寄せ、蛍にも聞こえないよう、 「家で、暖めたるから…」 「――っ!」 掠めるように交わされた口づけに、虎之助が肩を揺らしました。 見ているだけだった憧れの存在が、腕の中にいるだけでなく、 武者震いのような感覚が、家へと近付く度に虎之助を襲います。 「彌九郎…あんたに、逢いたかった…」 部屋に入り、寝所の明かりに照らされた彌九郎は、 無意識に喉が鳴り、彌九郎が可笑しそうに口端を緩めます。 「なんや、丸ごと食べられてまうみたいやなぁ」 「!」 気づいているのかいないのか。 彌九郎の台詞は、一言一句が虎之助を煽る危険な言葉ばかりです。 虎之助も、彌九郎の髪に指を差し込みながら、負けじと囁きます。 「…あんたの味、俺は知りたい…」 「虎…」 彌九郎の白く細い腕が、逞しい虎之助の背に回りました。 蝋燭に照らされた二人の影は、壁に一つになって映し出され、 翌日、彌九郎は虎之助と秀吉の元へ赴きました。 一緒に生きて行く事を選んだ二人には大きな障害があり、それは、 「…多分、大丈夫だろ」 虎之助の呟きに、彌九郎は居心地悪そうに辺りを見回します。 「うん、まぁ、本当の兄弟ってわけでもあらへんし」 絢爛豪華な装飾に目をチカチカさせながら、 そうです。 彌九郎と虎之助は、秀吉の息子だったのです。 早くから家を出ていた彌九郎と、 しかし、それでも一緒に居たい気持ちが勝り、 「待たせたの!」 「!」 不安を胸にした二人の前から、機嫌の良い男の声が響いた瞬間、 小柄なその男は、二人の父でもある秀吉です。 詳細を既に聞いていたのか秀吉は、顎髭を扱きながら二回、 「んー…うむ、そうじゃな。仕事続けてくれるんなら、 「!?」 結構簡単に許して貰えました。 色恋事に寛容な秀吉に、二人は心から安堵し、 |
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如安「しかし、その後の二人は仕事もせずにイチャイチャ、 小虎「あい!」 行長「如安!目茶苦茶教えるな!」 めでたしめでたし??? |
おしまい。 投げやり上等(笑) 20090707 司岐望 |