甘い誘惑
清正行長








「…お前、何だそれ」
「へ?」

宇土からやってきた恋人が、俺の言葉に不思議そうに首を傾げる。
手には饅頭らしき包みが二つ。
行長のことだ。恐らくは、屋敷のどこかで誰かと会って、ついでとばかりに受け取ったのだろう。

「あー、これな。さっき森本はんから預かってん。二人でどうぞ、て」
「―――」

それ、ついでじゃねぇ。完璧にしっかりお使いだ。
だが、俺が気になったのはそれじゃなくて。

「おい」

読んでいた本を閉じ、行長を手招く。

「何?」

目の前までやって来た手を取り、視線が合うように座らせる。
榛色の瞳が、ぱちりと瞬いた。

「そない饅頭食いたいん?」
「いや…」

再び傾げられた顎を捕え、まじまじと見つめる。

「何やねん…それ以上見るんやったら、金取るで」

可愛いげのない台詞を紡いだ唇が、蕾のように小さく尖る。
その蕾は濡れたように艶やかで――

「…何塗ってんだ?」

先程から疑問に感じていた事を間近で問えば、行長は白々しい仕種で外方を向いた。

「何もあらへん、気のせいや」
「塗ってるだろ、何か」
「も、えぇやん!やめや、アホ!」

見られまいとじたばたする身体を腕に閉じ籠め、ならばとばかりに顔を寄せる。

「気になるんだよ」
「虎が気にする事やあらへ…っ」

悪態を塞ぐように、濡れた唇をぱくりと食む。

「…甘…っ」
「あっ、アホ!当たり前や!」

ぐいと押し返してくる行長の唇は、飴のような味で。自分に移った甘さに片眉を上げ、俺は腕の中を覗き込んだ。

「何だ、コレ」

べたつく唇を、ぺろりと舐める。
行長はほんの少し目元を染めたまま、怪訝そうな俺を睨んで呟いた。

「蜂蜜…」

蜂蜜?
何でまた、と口許を見つめれば、小さな傷が出来ている。

「荒れてて、痛かったんや」

蜜柑とか食われへん、と続ける行長に、思わず笑みが浮かぶ。

「舐めて治してやろうか?」
「うぎゃーっ!絶対に言うと思ったから、嫌やったんや!」

お見通しか。
しかし、この唇は正直言ってよろしくない。
まだ陽は高いのに、ふらふらと吸い寄せられてしまうのだ。

「彌九郎…」
「――!」

名を呼んで、再び唇を合わせる。

「ふ…っ、ぁ」

音を立てて解放すれば、さっき以上に口許を艶めかせた顔があった。

「…何すんねん」
「蜜蜂の気持ちになったんだ」

笑みを含んで囁く。

「ぷ…っ、でかい蜂やなぁ」

呆れたような苦笑いを零す蕾に向かって、俺はもう一度瞳を細めた。











終わり

司岐にょが唐突に書いたブツ。
ミツバチ清正www

SGの駄目さ加減がわかりますね☆

20090516 司岐望