月酒
清正行長










何だか寒い気がして目が覚めた。
目を開けてもそこは夜の闇しかない。
寒いと思えた原因が解った。


―彌九郎が居ない。


寝る時は一緒だった。
眠るのは彌九郎が先だった。
厠かとも思ったけれど、隣にあった筈の温もりは今はすっかり冷えている。


「…何処に行ったんだ?」


布団から抜け出せば、冷気が身体にまとわりつき、寝起きの熱を奪っていった。
襖に手を掛けたところで向こう側に彌九郎の気配を感じる。
気付かれないように。と思った訳ではないけれど、そっと襖を開ければ、廊下に座って月を眺める彌九郎が居た。


「何をしてるんだ」
「うひゃ!?何やぁ虎かぁ…驚かせんといてぇなぁ」


振り向いた顔は月影になってよく見えなかったが、少し間延びした口調に酔っているのが分かった。


「呑んでるのか」
「せや。月見酒」
「この寒い中、酔狂な事だな」


嫌味を込めて言えば、彌九郎がクククと喉で笑う。


「目が醒めてしもぅてん。虎も飲む?」
「此処でか?」


確かに完全に目が醒めてしまったが、せめてもう少し暖かい場所で飲みたい。


「中に入ったら、お月さん見えへんもん」


少し欠けた月は特に見ていて楽しいとも情緒があるとも思えない。
だが彌九郎は動く気がないようだったから、後ろから抱き込む形で座った。


「…俺で暖とるなや」
「冷えきってて、暖も何もないな」


彌九郎は完全に冷えきっていたけれど、隙間があるよりはぴったりと寄せていたい。


「何や、でっかい猫になつかれたみたいや」


クスクスと笑い出した彌九郎の首筋に噛みついた。










司岐が突然「清正不足に陥った!キヨコニ読みたい〜」と言い出したので、仕事中にも関わらず書いた物。
仕事しろよ佐々木。

20090208   佐々木健