お互いの距離
清正×行長






「…虎ぁ」

夕暮れ。城からの帰り道。
並んで歩いていた行長が、不機嫌そうに声を掛けてきた。
山の天気並に変わりやすい行長の機嫌に、平素と変わらず清正は声のした方へと顔を向け、

「どうした?」

頭一つ低い行長を見た。
キツい瞳で睨み付けてくるが、上目遣いのせいか、妙に情欲を誘う。

「理不尽や。と思わへんか?」
「…何がだ?」

突然、理不尽だと言われても、清正は何かした記憶がない。
何かしてしまっただろうか?と考えるが、思い出さなければならない様な過去に対して怒るような人間ではないことは清正もよく知っている。

「何で、お前はそない大きなってん!」
「はぁ?」
「昔は俺よか低い位やったんに!無駄に大きなりよって!」

いやいや、初めて会った時には既に同じ位で、更に俺はその時、成長途中だ。と清正は心の中でツッコミを入れた。
しかも、昨日今日で大きくなったわけじゃない。
なのに、どうして突然突っ掛かってくるのか?
普通に生活して大きくなったのだから、怒られる意味が解らない。しかし、行長は清正を見上げ拗ねた感じで睨み続けていた。

「お前だって、そんなに小さい方ではないだろう?」
「今はお前の背の話や」
「だから、何がそんなに気に入らないんだ?」

少し強めに問えば、行長は肩を震わせ、

「虎之助の、たわけ〜!」

くるりと向きを変えて走り出した。

「なっ…?」

たわけ?よりによってたわけ?いつも言うアホじゃなく?

清正が呆気にとられている間にも、行長はどんどん遠くに行ってしまう。
しまった!追いかけなければ!と清正も走り始めた。

「彌九郎!」
「虎之助のたわけ〜!」

またしても。たわけ?いい加減怒るぞ? 暫く走り、じわじわと距離を縮めて、手首を捕まえた。






「…彌九郎!何なんだ?」

振り返らせると、俯いてしまった行長の顔を覗き込む。
すると、スッと行長が近付き、唇が重なり、すぐに離れていった。
まさかこんな行動をとるとは思ってもいなかった清正は、パチパチと瞬きを繰り返す。

「虎は、いっつも不意に口付けてくるやん。…でも、俺からやと…背伸びしても届かへんもん」

だから、理不尽なんや。と耳まで赤く染めて再び俯いてしまった。





―――ああ、もう、何だってコイツは、こんなに可愛いんだか。



「言ってくれれば、いつだって屈んでやる」
「そんなん。意味…」





無い。と言う言葉は唇に吸い込まれた。










終わり


最近話が書けなくなってました。
リハビリで書いてみましたけど…無駄にラブいな。

20071009   佐々木健