光と陰 清正×行長 性的表現有。苦手な人はお戻り下さい。 |
慶長5年9月15日―――関ヶ原の役―――西軍大敗――― ずっと共に居ると言ってくれた家臣達をも振り切り、行長は山中を走った。寂れた社を見つけ、中に誰も居ない事を確認すると、身を落ち着けた。 静かだ。自身の心の臓と、先よりは落ち着いた呼吸の音しかない。 ―――何故こんなにも一生懸命逃げているのだろう―――もう、自分の居場所など何処にも無いのに――― 自嘲的な笑みが自然と漏れる。 何も考えたくない。 肉体的にも精神的にも疲労しきっていた行長は意識を手放した。 壁の隙間から差し込む光で行長は目を覚ました。丸くなるような体制で寝ていた為、関節が少し痛む。 そして自身の体に何か掛けられている事に気付いた。 昨夜は意識を手放す様に寝てしまって、掛け物などした記憶はない。しかも、目の端に映るそれは、自身の持ち物ではない。――― 一体誰が? 恐る恐る振り返る行長の目に、柱を背に腕を組み座している人物が映った。 「!と…ら之助」 咄嗟に起きあがり、後ずさるが、すぐ後ろは壁で背中が着く。 「…やっと気が付いたか…」 感情の欠片も感じられない表情と言葉が行長に掛けられる。 ―――何故此処に居る?九州に居たはずだ。しかも、何故、此処に――― 自分は未だ夢でも見ているのか、しかし、ささくれだった板の床に触れる手はしっかりと感触を伝えている。 交差する視線、だが行長には清正が何を考えているか全く解らない。 「随分な驚き様だな。言葉も出ぬか」 無駄の無い動作で立ち上がり、ゆっくりと行長に近付く。 行長はそれを凝視する事しか出来ない。清正が直ぐ近くで止まり、見下ろす。壁から漏れる光が互いの表情を隠した。 ―――光が壁のようだ――― 何故清正が此処に居るのか、そんな事はどうでも良くなった。此処に来た理由だ。 「…こないなとこまで俺の首を取りに来たんかい。ご苦労なこった」 呆れと自嘲を含んだ笑みを浮かべ、表情の見えない清正を見上げる。暫くそうしていると、漸く清正が口を開く。 「首を取りに、か。…そう思うか」 「そうとしか考えられへんやろ」 無意識に今は膝に掛っているだけの清正の羽織を握り締めた。 「随分と後ろ向きだな」 再び腕を組み、右足に重心を掛ける。 「この状況で、どう前向きになれっちゅうんや」 ―――絶体絶命とはこの事だろう? 「では、お前は何故こんな所まで逃げ延びたのだ?」 膝を折り、行長と高さを合わせる。 しかし、二人の視線は合わさらない。行長は空を見つめ清正を見ない為だ。 「初めは…皆の為だった…俺が逃げな、皆も逃げ…」 皆を逃がす為に逃げた筈だった。 何故こんな所まで逃げ延びたのだろう? 視線が定まらない行長の肩に手を添えるが、その事さえも本人は認識出来ていない様で、清正は少し力任せに抱き寄せた。 行長の息を吸う音が、やけに大きく聞こえる。 「俺は…」 「生きたかったのだろう?」 ―――生きたかった?―――そうではない――― 「そないやない…そんなもんやないんや…死にたくなかっただけや…」 抱き寄せた体を更にきつく抱き締めた。 行長は清正の肩口から光を眺める。 「生きていたって、何処にも居場所なんかあらへんのになぁ…それでも、死ぬのが…怖いんや」 情けない奴だろ。と力無く笑い。清正は目を閉じ、その声を聞く。 暫くして行長は笑う事を止めた。 静寂が二人を包む。相変わらず行長は光を眺め、清正は目を閉ざしたまま。 ―――時が止まっているみたいだ――― 清正が閉じていた目を開く。 「俺がお前の居場所をつくってやる」 行長の体が強張り、抱き締められたその腕から逃れようと、身を捩る。 清正は少し開いた空間を埋める様に唇を塞ぎ、すぐに解放した。 「死にたくないなら、無様であろうと生きろ。生きる事を選ぶなら、手を貸してやる」 「な…ん…」 「どうするんだ?」 真っ直ぐに見つめる清正に、困った笑みが溢れる。 「なんや…虎は優しすぎや…」 再び唇を重ねる。触れるだけの口付けから、歯列を割り互いを欲する様に舌を絡めた。 「は…あっ、ん…」 行長の鼻に掛った声と湿った音が辺りを支配している。 もう幾度か吐精させられ、腕に力の入らなくなった行長は、床に爪をたて支えられている腰だけを突き上げた体制で、馴らす為にと時間を掛けて清正の指に犯されていた。 「ぅん…虎っ…も、えぇ、からっ」 ―――お前で満たして 「…そうか」 そのまま身を進めようとする清正を制す。 「顔が見たい…から」 「しかし、お前に…」 「えぇからっ」 柔らかな布団など勿論此処には無い。自力で立てなくなっている行長を抱え、膝に座らせる体制をとる事にする。 腰を支える清正の肩に手を掛け、潤んだ瞳で視線を絡める。 「…自分でやる…」 腰を支える腕が外されると、立ち上がっている清正のものを宛がい、腰を下ろしていく、しかし、先が入っただけで動きが止まってしまった。 「っ…」 清正も息を飲む。この状況は自身も辛いが、相手も辛い。震える体を何とか止め、一気に腰を落とした。 指とは比べ物にならない位の圧倒的な質量に、上げそうになる悲鳴を唇を合わせる事で飲み込んだ。 清正は思うまま突き上げたくなる衝動を、生理的に流れる行長の涙を唇で吸いとる事でおし止める。 呼吸は未だ整わないものの、少し落ち着いた行長は自ら動き始める。ゆっくりと、次第に快楽を求めようとする体が自然と動きを激しいものに変えていく。 「あっ、は…っ」 身を沈める事に行長の口から嬌声が洩れ、清正の額に汗が滲む。限界が近付き、膝が震えだすと、清正が腰を抱き、ギリギリまで引き抜き、落とした。 「やっ、ああー!」 自身の体重も掛り、最奥を突く。 「あっ、あ…」 しがみつく行長を更に激しく突き上げていく。止めどなく流れる涙が清正の肩を濡らしていく。 息を吸う喉が鳴り、身が反り、爪を立て清正の背中を傷つける。吐精と同時に清正を締めつけ、一際高く啼いた。 きつい締めつけに清正も息を詰め、行長の中に精を放つ。 飛ばしそうになった意識を何とか繋ぎ留めた行長は、肩で息をしながら清正の胸にもたれ掛る。そんな行長を清正は愛しさを込めて髪を撫で続け、暫くして顔を上げた行長と唇を重ねた。 ちゅっ、と音をたてて唇を離すと、行長が照れ臭そうに微笑むが、少し困った表情に変わった。 それに対し清正が口端を上げて笑む。 未だ行長の中にいた清正のものが、再び大きくなりはじめたのだ。 「あ、んっ…虎…?」 「悪いが、もう一度付き合ってもらうぞ」 耳の後ろを撫で耳元で囁くと、行長が首を竦ませる。その僅かな振動さえも、感じ易くなっている体は、快楽をよびおこす。 「!やぁ、ん…」 拒めなくなっている行長の背から脇腹へと手を這わせる事で更に追い詰めていく。 そして、散々啼かされた行長は、清正の精が注がれると同時に意識を手放した。 その際清正が「彌九郎…」と小さく名を呼んだ。 目を覚ますと清正の姿はなく、しかし、掛けられた羽織と腰の違和感に、確かに居た事を教える。 部屋の隅に清正の荷物がある事に気付く。 此処に戻ってくるという表れだ。 ―――最後の選択か… 朧な月が空の真上に上がった頃、清正は寂れた社へと預けていた馬を連れて戻ってきた。 扉の前に立つも、目の前の扉を開く事に躊躇する。 ―――奴はきっと…―――此処には居ない――― 音も立てずに、ゆっくりと扉を開ける。暗さに慣れた目は社の中も充分に見える。 しかし、其処に人は居ない。情交のにおいが微かにする事が、此処で確かに行長を抱いたのだという証しだった。 息を吐き、中に足を進める。視界の端に荷物と羽織が畳んで置いてあるのが映る。 もしも、逃げるつもりなら、持っていけば良いと思っていた。 ―――死を選んだか――― 荷を取り、外に向かう。 数段しかない階段を降りきったところで、清正は階段に腰掛けた。 もしかしたら、 もしかしたら、戻ってくるかもしれない。 僅かにも満たない希望で行長を待つ。 ―――もしも、俺の手を取るのなら―――どんな手段をとっても守りきるつもりだった――― 朧な月明かりに出来る自身の陰を見つめ、一筋の涙が落ちた。 終わり。 |
梶浦崇史さんから承ったリクエスト。 「清正×行長で、どちらか一方が相手の帰りを待つ等、切ない系」です! 微妙にリクエストをクリア出来ていない気が…!!? 微妙に濁しましたが、死にネタでスミマセン。 頼まれても居ないのに、H有りでスミマセン。 文章苦手な上、初Hを書く暴挙に出てスミマセン〜!! 実は、人生初のH話です。初体験です(笑) 難しい。 微妙な出来の代物ですが…。梶浦さんに、ふぉ〜ゆぅ〜!!(爆) 20061016 佐々木健 |