琥珀の思い出 清正×行長 ※流血表現・性的表現有ります |
木々の間から覗き見える薄曇りの空に、十三夜の月がぼんやりと浮かび上がる。 ひっそりとした美しさを持つ明かりから視線を外し、清正は脇に立つ木肌に指を這わせた。 (……あった) 探る指の腹に感じる、微かな十字の窪み。地面から6尺程度の高さの、刃物でつけたような疵だ。 普通の迷い防ぎならば、あと2尺は低くても構わない筈なのに、明らかに意識しなくては付けられない印なだけに気にかかる。 柔らかな朽葉を踏み締めながら、清正は噂話を思い出した。 ――鎮守の杜に、白い鬼が出る。 市井の情報源を持つ家臣から、そんな報告を受けたのが三日ほど前の事。 山に囲まれ水辺があれば、何某かの魑魅魍魎が住まうものだと冗談混じりに一笑してみたものの、元来の性格が生み出した疑念は、笑い飛ばすには少々現実的なものだった。 「さて。何が潜むのか…」 森の奥を眇め、口端を歪める。 時は、山崎での戦を終えたばかり。もし、今から出会うのが妖ではなく、人の身であったとするならば。 「秀吉様に、害を成すものか否か」 腰に帯びた刀だけが、その答えを見つけるのだろう。 さくり、と清正の足元が微かに沈む。 必ず会えるという確証はなかったが、一歩進む毎に高揚する自分に、清正は気付いていた。 次の目印を追いながら、ゆっくりと奥を目指す。 きっと、この印が途切れた場所に何かがあるのだ。 物悲しい梟の声が、夜風にざわめく森の一部となって枝葉の重なる闇に溶ける。 鳴き声を追うように、清正は空を振り仰いだ――瞬間。 「…――っ」 視界の端、薄暗い空間に霞むほの白い何かに気付き、思わず息を詰める。 (一体……) どちらだ、などと自分でも馬鹿げた問いとは思ったが、明らかに異質な癖に妙に馴染んでいるこの感じに、清正は判断が下せない。 風下を確認しながら、柄を握る指に力を込める。 近づくにつれ、それが薄物を被る人間であることを認めても、元よりの暗さ故、相手の容姿までは判らない。 (女か?それとも、年若い小姓か?) 細心の注意を払い木陰に身を潜めると、その人物が何かに祈っていることに気が付いた。 (悪意は無い……) 殺気を抑え、詰めていた息を吐く。 空気越しに伝わる、自分の知る題目とは違う抑揚に、知らぬ事とは言え、百度参りか何かに居合わせてしまった罪悪感を感じ、清正は誰何の声を飲み込んだ。 切望か贖罪か。 何れにしても、案じていた者でないことは確かだ。 清正は、刀に添えていた掌から力を抜いた。 ――その時。 雲の切れ間、次第に明るくなる世界に、白い鬼の素顔が曝されてゆくのが分かった。 「…――!」 高い鼻梁、細い顎、伏せられた長い睫毛……。 痛いほど眩しい十三夜の月に照らされた横顔に、清正は瞠目した。 (――まさか) 懐かしさと憧れを併せ持つ、清廉な横顔。 それこそ幻かと目を擦り、小さく息を飲む。 想像もしていなかった状況に、清正の鼓動は跳ね上がっていた。 (まさか、本当に……) この五年間、ちゃんと会いたくても会えなかった人物が、清正の目の前に居る。 苛立ちと困惑を交えた想いを込め、清正は静かに祈り続ける人物の名を紡いだ。 「――…彌九郎」 さして大きな声ではなかった呟きであったが、自然物の音の支配が強いこの場所ではやけに大きく聞こえ、声が聞こえたらしい彌九郎が弾かれるように此方を振り返る。 その顔には怯えか怒りかが上っていた。 「彌九郎」 もう一度名を呼ぶと、肩が揺れ、此方を認識した彌九郎の顔が嫌悪に似た表情に変わる。 長浜で出会って以来五年の歳月が経っていた。 一度も会わなかった訳では無い。 秀吉の毛利攻めの際、毛利の傘下に組していた宇喜多が秀吉の下に走った。 その時の使者を努めたのが彌九郎で、秀吉はそれまでの彌九郎とのやりとりを知られない為か、全く知らない人物として彌九郎と対面していた。 宇喜多との講和が成った後、彌九郎は秀吉に士分として召し抱えられたが、殆んど宇喜多勢と共に居た為、話すどころか、まともに顔を会わせる事すらなかったのである。 今目の前に居る彌九郎は五年前と変わらない様に見えた。 しかし、纏う空気が違う。そんな気がした。 それが何なのか解らなかったが―― 「彌九郎、俺だ…虎之助だ」 苦々しい視線に、清正はひょっとして自分が判らないのではと、彌九郎の知る、幼名を口にしてみる――が、その表情はどうだ。 太陽のような、あの笑みを浮かべてくれるどころか、益々眉を顰めるではないか。 (人違いじゃ、ないはず) ゆっくりと立ち上がり、羽織っていた薄物を小脇に抱えているのは、紛れも無く彌九郎だ。 戸惑う清正の掌に、岩肌の様にひび割れた木肌が食い込む。 見据えるだけで応えない姿に、清正が苛立ちを覚えた時、薄く開いた青年の唇が、微かに音を零した。 「――最悪や」 酷く、苦い表情が、水底のような世界に浮かび上がる。 清正を襲ったのは、眩しかった月明かりが、厚い雲に遮られたような感覚だった。 (何と言ったんだ) その言葉の意味を理解しようとした時、薄闇の中、がさり、と朽葉を踏み締める音が響き渡った。 「…――っ」 背を向けて走り出す青年の、薄物が闇に翻る。 「彌九郎!」 頭の中は真っ白で、彌九郎が何を言ったのか理解出来ず、しかし、足は勝手に振り返りもせず走り去る彌九郎を追い掛けた。 ―――何故?どうして? 月明かりしかなく、それさえ木々によって遮られ、足場も確認出来ない為か思う様に速度が出せない。 それは彼方も同じ様で、僅かながら距離を縮めていく。 あと少し―――というところで、目の前が白で覆われた。 「っ!?」 「全く…しつこいですなぁ。加藤虎之助清正殿」 諦めにも似た溜め息と共に名を吐き出される。 その声には温かさの欠片も感じられなかった。 (どうして…) 投げ付けられた衣に残る、甘い彌九郎の匂い。 昔と変わらぬその香りが呼び起こす面影との食い違いに、清正は衣を頭から被ったまま呆然と立ち尽くした。 「彌九――」 「しつこい」 「な…っ!」 苛立ちを含んだ言葉に、腹の底が熱くなる。 乱暴な仕種で目隠しを取り払うと、視線のぶつかった青年が不快そうに眇るのが見てとれた。 「この…っ、何に腹を立てているかは知らないが、その言い草は何だ!」 ばさり、と投げ捨てた衣が、足元の闇に白く蟠る。 面倒臭そうにそれを見つめていた青年の唇が、微かに歪んだ。 「アンタ、ウザイねん」 その言葉にカッときて、力任せに殴り掛る様に突き飛ばす。 後ろの木に背中を打ち付けた彌九郎の顔が痛みに歪んだ。 「つぅっ…」 彌九郎を受け止めた木が枝を揺らし、ざわざわと痛みを共に抗議するように思え、清正は少し冷静さを取り戻す。 「す…」 謝ろうとした時、彌九郎がククッと喉を震わせ、 「ホンマ…まだまだお子様やな」 付き合いきれへんと嘲笑し、肩に付いた幹の皮を払った。 (これは、試されているのか?) 何とか都合良く解釈しようにも、彌九郎の清正を軽蔑するような雰囲気はあからさまで明らかである。 「この際だから言うておくわ。俺の名は小西彌九郎行長になったさかい…ああ、でも関係あらへんな」 「関係無い?」 「俺に構うなっちゅう事や」 一体、何でこんな事になってしまったのか。 「――っ」 馬乗りに伸し掛かる男の重さに、行長は奥歯を噛み締めた。 「くそ…っ」 いくら下生えが柔らかであったとしても、強かに打ち付けた後頭部や背中はじんと痛む。 くらくらと感じる眩暈に悪態をつくと、勘違いをしたらしい清正が怒りを込めた視線で見下ろして来た。 「あんたのさっきの台詞…覆してやるよ」 酷薄そうな笑みが、唇に浮かぶ。 (まずい…) 追い詰められた動物が牙を剥くような気配に、彌九郎――行長は青くなった。 このままでは、とてもまずい。 「この…っ、よせ、退けっ!」 馬乗りになったまま袂を探る清正を、必死に押し退けようとするが、びくともしない。 「くそっ!」 「――っ!」 落ち葉を鷲掴み、目潰しのように投げ付ける。 はらはらと目の前を落ちてゆくそれらの向こうで、清正がくつり、と嗤うのが分かった。 「無駄だ」 低い声音が、闇に響く。 (本気だ――) 清正の、行長を押さえ込む力は尋常じゃない。 沸き上がる恐怖と、事態を招いた自分の失態に冷や汗が浮かぶ。 「アカン…アカンのやっ!」 子供のように首を振りながら、行長は先程までの遣り取りを思い出していた。 高松城を落とし、戦後の処理もそこそこに早急な撤退の最中、織田信長、本能寺にて死す―――その報を受けた。 信長の弔い合戦をするという秀吉を乗せ、いまいち状況を把握出来ぬままに山崎の地を目指し船を進める。 その後も荷の運搬等をして、後方で控えて居ると、明智光秀が敗れたという報を聞いた。 実際に会った事はなかったが、噂にて聞き及んでいたあの信長を討った光秀が、またあっさりとこの世から居なくなってしまった事に、人の命等何と儚いものだろうと思う。 成り行きで武士になってしまった自分には、未だ実感が湧かなかった。 先日の高松城では、水に浮かぶ城に船からの攻撃を指揮し、刀や槍の訓練はしたものの、実際に敵と刃を交した事は無い。 いつか、自分もその様な日が来るのだろうか―――人の命を奪う事が出来るのか―――そんな事を考えていたら、戦場となったこの地を歩いていた。 幹に付けられた刃傷、落ち葉を染める血の朱―――幾人もの人が此処で命を絶たれ、名も無き骸となった。 この人達にも、帰りを待ちわび、二度と帰らぬ者に嘆き悲しむ人達が居る。 せめて、少しだけでも悲しみが薄れ、救われる様にと祈りを捧げた。 ―――自分の祈りでは大した効果はないだろうけど…。 そんな日々が過ぎ、今日―――此処に虎之助こと、清正が現れた。 マズイと思った。 秀吉に召し抱えられたとはいえ、自分は未だ宇喜多家の者でもあって、宇喜多家の重臣達からは秀吉の間者だと疑われている部分がある。 その事もあって、羽柴家の者とは距離を置いている。 何度か清正が此方を物言いたげに見ている事は知っていた。 それを気付かない振りで通していた。 今清正に接触するのは自殺行為であったし、清正の目には自分への恋情が含まれている。 それに応えられないキリシタンである自分。 それが、二人きりという状況で出会ってしまった。 ―――最悪だ。 この場から逃げれば清正も諦めるかと思い駆け出したが、清正は追ってくる。 こうなってしまっては―――嫌われてしまえば良い。 そう思い、彼に悪態を吐いた。 傷付いた顔に痛みを覚えたが、構わず続ける。 突き飛ばされ、木に打ち付けた背中は痛かったが、人を傷付ける代償だと、しかし、その後こうなるとは予想にもしていなかった。 「退け…っ!」 「――っ!」 行長の爪が、肩を掴む清正の甲に、ぎり、と食い込む。 容赦なく爪を立てたつもりだったが、清正の力は一向に緩むことは無く、行長は射抜く勢いで清正を睨み付けた。 「退け、虎之助っ!」 滑稽とも思える強がりに、清正の唇が薄く歪む。 「クッ…――その名前を、アンタが呼ぶのか…?今更、もう遅いんだよ、小西彌九郎、行長殿っ」 「い…っ!」 両手を頭上で力任せに纏め上げられ、自分が投げ付けた薄物できつく一括りにされる。 思うように身体が動かせぬ恰好に、行長の恐怖が倍増した。 「や…、放せっ!」 拒絶の言葉が、木々の合間に虚しく響く。 清正の胸に眠っていた自分は、この五年でどれだけの存在となっていたのか。 吐き捨てるように自分の名を呼ばせてしまった事に、胸が後悔で一杯になる一方、清正から感じるそら恐ろしい何かに、身体が無意識に縮こまる。 先程まで他人の為に祈っていた場所で、己の心配をしなくてはいけなくなった現状に、行長の頬が引き攣った。 「――思う存分、俺を嫌えば良い」 含み笑いを混ぜた清正の台詞が、暗い熱さを孕んで降り注ぐ。 待ち受ける仕打ちに、行長の唇が微かに震えた。 「や…っ!」 清正の大きな掌が、行長の白い喉を掴んだ。 「か…はっ!」 気管を絞められ、空気を求める口が開く。 息苦しさと恐怖で強ばる身体を清正は目を細め見やると、噛みつく様に口付けた。 舌を差し入れ歯の裏側を舐め、震える行長の舌を捕えると、無理矢理絡めとる。 絞めていた首を少しずつ解放すると、空気を求める行長が清正を求めているような錯覚を起こさせた。 「ぁ…んんぅ…」 鼻に掛る声と首筋から香る甘い香りが清正の理性を奪っていき、欲望が溢れだす。 ―――太陽の様な笑みをくれた行長はもう居ない。 その事実に清正は絶望した。 しかし、五年間温めてきた行長への想いが欲望という形で表面化する。 (嫌っていたって構わない) ―――この身体が欲しい――― (この清廉な容姿の彼を犯し、汚して壊してしまえば、己の想いは救われる) 凶悪な想いが清正を誘惑し、絶望を甘い物へと変えていった。 「――っ、は…っ」 行長の唇の間に出来た唾液の糸を、未練を裁ち切るように舌で舐め取る。 怯える瞳に涙を浮かべる行長を、清正は嗜虐的な気持ちで見つめた。 「――叫べよ。俺みたいに、のこのこやって来た物好きが、助けてくれるかもしれないぞ」 「――っ!」 行長の肩が、びくりと震える。 万が一第三者が現れたならば、それは救いの主などではなく、凶事を齎す者だ。 「あ…」 己の立場と清正の想いは、間違っても同じ秤に掛けられるものじゃない事を、行長は十二分に理解していた。 しかし―― 「や…っ、アカンっ!止せっ!」 無意識に零した拒絶の言葉は、一体どちらを指していたのか。 行長は、己の胸中すら掴めぬまま、清正の下から抜け出そうと必死になった。 「アカン…っ、お前だけは、アカンのや!」 「――っ!」 藻掻く姿と「お前だけは」と云う台詞に、清正の腹の底がカッと熱くなる。 今までに無い抵抗を示した行長の衣服を、清正は躊躇う事なく寛げると、 「嫌がっても、無駄なんだよ…っ!」 秘処へ押し付けた熱の塊を、全身を使って、ぐぅ、と割進めた。 「――い…っ、あ、あああっ!!」 力任せに身体を割られ、行長の喉から悲愴な叫びが迸しる。 焼けた異物に貫かれる異常な感覚に、行長の身体は硬直した。 「――っ!!」 覚悟していた以上の衝撃は、碌に慣らされぬどころか、無理矢理も甚だしい仕打ちの所為に違いなかった。 ぶちっ 本来男を受け入れるべき箇所ではない上に無理矢理押し込んだ為、行長の秘処が裂ける。 「いっ――!!」 目を見開き、声にならない叫びをあげ、自由にならない身体で逃げる行長を清正は腰を捕え、更に奥へと身体を進めた。 「ちっ…」 裂けた箇所から流れる血が潤滑を助けるも、行長の中は狭くきつい。 その事が己を拒絶し、否定されていると感じる清正は悲しいのか、悔しいのか―――分からなくなる。 ―――あの日見た煌めいていた琵琶湖を二人で見たかった――― 奥まで進め、清正は詰めていた息を吐いた。 「ア…カン…アカンのや…」 うわ言の様に呟き、痛みに震える行長の見開かれた瞳からは止めどなく涙が流れ、苦しそうな呼吸が繰り返される。 哀願の制止にも耳を傾けず清正は本能のままに行長を突き上げ始めた。 「やあっ!あぁっ…あっや…!」 突き上げられる度に痛みが行長を苛むが、次第に痛みの中に快楽を見い出す自身が信じられない。 「はっ!?…あ、あぁ…んんっ…」 溢れる声に艶が混じり、行長自身が立ち上がり始める。 「っ…感じる、のか…ふっ…ハハハっ」 「やっ、ちが…!」 行長を見つめ、乾いた笑いをあげる清正に、駄々をこねる子供のように行長は首を振った。 しかし、快楽を見付けてしまった躯は行長の意に反して形を成していく。 「アカン…違う違う違う!」 身体を繋げている現状、快楽を見付けてしまった躯の変化、清正に対しての己の言動、何を否定したいのか――― 「あ、んっ、違…っ」 答えを見つけられないまま揺さぶられ、行長は歪な笑みを張り付ける清正を、滲む世界の向こうに見つめて、ただひたすら首を振った。 「ひぅ…っ、違、やぁ…ん、んっ」 行長の頬や髪が、溢れる涙と柔らかな腐葉土で、ぐしゃぐしゃに汚れてゆく。 「く、そ…っ!」 行長の腰を抱え直した清正が、休む間を与えない荒々しい律動を繰り返す。 「ん、んっ、んっ、あぁ…っ」 真白い物を思う存分犯す心地良さと、愛しいものを虐げる己自身への怒りを、清正は転嫁するように行長の中へと埋め込み続けた。 「く…っ!」 結合した部分が熱を持ち、互いの痛みが麻痺した箇所から、今まで知り得なかった快楽だけが滲み出す。 完全に立ち上がって震える行長を、清正は土で汚れた掌で握り締めた。 「ひぅ…っ!」 「…くっ、反吐が出る…っ!アンタ、誰に犯られてるのか、判ってるのかっ!」 亀裂が入った器は、どれだけ美しくても、もう水を満たすことは出来ない。 (もう、沢山だ…っ) 「く、ふ…――」 清正は、可笑しくて笑い出しそうになるのを堪えると、ぐぃ、と鈴口に爪を立た。 「ひっ、あぁっ!」 限界の近かった行長にとってそれはあまりの衝撃で快楽と痛みがグチャグチャに交ざりあう。 びくびくっと腹筋が痙攣を起こし、勢い良く白濁の液を清正の手の中に放った。 吐精の余韻に行長は意識が遠くなり、それでも最後の気力を振り絞り、清正に真っ直ぐ視線を合わせ、消えるような声で、 「堪忍、な…」 それだけ言うと、糸が切れた人形の如く意識を手放す。 清正は意識の無い行長とは別に未だ収縮を繰り返す秘処の奥まで貫くと、精を吐き出した。 「はぁっ…はぁ…」 緩慢な動作で清正自身を引き抜くと、白濁の液と血液が混じりあった糸が伝う。 『堪忍、な…』 行長の言葉が清正の頭に響く。 「な、んで…」 言葉が続かず茫然とし、力無く横たわる行長を見やった。 (俺が汚し、壊してしまった…) 戒めている腕の薄布を取り去る。 きつく縛ったのと、行長の抵抗により手首には赤黒い痣が出来ていた。 その痣が清正の胸を締め付ける。 「彌九郎…」 返事は返らない。 薄布で行長の顔に付いた泥を拭う。 幾筋もの涙の跡と血の気の無い白い顔が月明かりに照らし出された。 「堪忍、な…」 清正は行長の言葉を反復する。 初めて出会った時の行長が琥珀色の思い出となって蘇った。 (あんなにも色鮮やかだったのに―――) 清正は行長を抱き起こし、きつく抱き締める。 「彌九郎…彌九郎…」 行長の肩に顔を埋め涙を流した。 ―――もう還れない琥珀の思い出――― 終わり |
遅くなってしまった上に続きものの中間になってしまいました(滝汗) しかも、全然リクエストに添えてない…。 本当スミマセン。出直してきます! というか、この話を書いてて、清正が可哀想でならなく、お陰でこんな結果に…。 無理矢理って難しいんですね。 20070530 佐々木健&司岐望 |