加藤君の恋人A 清正×行長 |
支度を済ませ、大谷家の屋敷に足早に向かった。 「紀ぃ兄!」 「あれ?虎之助、どうしたの?」 突然の訪問にも関わらず、驚いた様子のない吉継に清正は確信する。 「紀ぃ兄、素直に答えてくれ。コレはどうしたら元に戻る?」 懐の行長を掌に乗せ、吉継の目前に差し出した。 目の前に現れた小さい行長に、吉継は二回瞬きすると、目を見開いた。 「え?なに?コレって彌九郎?」 普段あまり驚かない吉継の驚き様に二人は首を傾げる。 「あれ?紀之介さんがやったんやないの」 清正の掌の上で正座して尋ねると、見開いた目を再び数度瞬きして吉継が顔を近付ける。 「喋った…本物の彌九郎なの?」 好奇心と戸惑い交じりの演技にも思えない吉継の反応に、 「紀ぃ兄がやったんじゃないのか?」 清正が先の行長と同じ質問をする。 「私が?こんな事出来る訳ないじゃない……二人して、私を疑って来たんだ」 目をすわらせて見てくる吉継に行長が苦笑いをし、清正は目を反らす。 そして、行長は昨日の行動を吉継に話す。 「なるほどね…まあ、それだと疑われても仕方ないか」 それから、ずっと腕を上げているのも疲れるので、机の上に行長を座らせ3人で思案する。 「だけど、こんな事って人間が出来る事なのかな?」 手を顎に添え、考え込む吉継に残り二人は「紀ぃ兄(紀之介さん)なら出来ると思った」とは言えず黙り込む。 「術士か?しかしこの様な事が出来る術士が居るとも思えんな」 「居たって、俺を小さくしても何の得にもならへんやろ」 行長の言葉に妙に納得する清正と吉継。 「なんや、その納得具合は…」 「だってねぇ…。だけど、本当小さくなっちゃったもんだね」 話を逸らす吉継。 「俺かてビックリや。目ぇ覚めたら周りのもの全てが巨大やってん。ただでさえデカイ虎が、余計にデカなっとたわ」 小さいながらも大きく手を広げ話す行長を見ていて、吉継の肩が段々震えてくる。 「紀ぃ兄?」 清正が声を掛けると、耐え切れないといった風に、笑い出した。 「紀之介さん!笑い事やないで!」 「うん…解ってるけど…ふふふふっ」 お腹を抱えて笑い出してしまった。 ショックな行長と、気持が解らないでもない清正。 数分笑い続けた吉継は、「お腹が痛い」と言って笑い治めた。 「まあ、もしかしたら楽観視したら明日には戻るかもしれないし…一応、此方でも調べてみるよ」 「ああ、頼む。相談出来る相手も限られているからな」 「人に言いふらさんといてな!」 「言わないよ。言ったところで誰も信じてくれないって」 確かに。 清正は再び行長を懐に入れ、吉継の屋敷を後にした。 吉継と別れ、ひとまず邸に戻り、今邸に居る者を集めた。 「見世物やないぞ!」 「そういう意味で集めた訳ではない。いつ戻れるか分からぬであろう。今後の為だ」 庭には邸の者達が何事かと集まり始めている。 「皆、落ち着いて聞いてくれ…やく…小西行長が小さくなった」 言葉と共に手に乗せた行長を前に出す。 集まった邸の者達が清正の掌の上の小さい行長を見る。 行長は苦笑しながら頭を掻いている。 一瞬の静寂の後――― 『ええっ〜〜〜〜〜!?』 邸が揺れた。ぐらぐらっと。 そして、全員が息を深く吸い込み、次の瞬間 『カワイイ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!』 再び邸が揺れた。ぐらぐらぐらっと。 「小西様!こっち向いてください!」 「あ、あんな小さくなるなんて!」 「可愛すぎる!」 「もう一人とか居ないんですか!?」 「触り……近くで見たい!!」 何故か妙に受け入れられている小さい行長。 こんな非現実的な出来事なのに…まあ、現実になってしまっているのだから、拒絶されるよりはマシだろう。 行長を手に乗せたまま、清正は家臣達を見回す。 皆、顔を上気させ行長に釘付けだ。 (ちょっとマズイな…) 清正はすぅっと行長を懐に入れた。家臣達からどよめきが起きる。 『ああ!!』 続いて皆が文句を言い始めた。 「隠さないで下さい!」 「殿だけズルイ!」 「ふ、懐にっ…」 「ヤバイ…アレはヤバイ…」 「チラっとだけでも見せてください〜」 懐に入れられた行長が体勢を立て直そうと、モゾモゾ動く。 鳥肌が立ちそうになるのを気合いで封じると、声を張り上げた。 「やかましい!」 これは俺のだ!という本音は何とか飲み込んだ。 清正の一喝に家臣達は静かになる。 静かにはなったが、皆不満そうだった。 清正が出仕して、残された行長は、何処に居ていいものか悩み、清正の文机の上に座っていた。 「はぁ〜ホンマ、どないしてこない小さくなってまったんやろ」 考えても本当に思い当たる節がない。 うんうん悩んでいると、部屋の外から声が掛る。 「小西様、よろしいでしょうか?」 「あ、ああ、エエよ…」 此処は清正の邸であって、居る者達も清正の家臣達だ。少し対応に困ってしまう。 障子が開くと、裁縫が得意な女房が現れた。 「殿より、小西様の着物の用意をするように、とたまわりました」 笑顔でそう言うと女房は、ちゃかちゃかと行長の採寸をして、「では、少しお待ちくださ いませ」と去って行った。 それからは邸の者が何やかんや言いつつ、部屋を訪れ、対応に疲れてしまった。 「お話しませんか?」 「お茶お持ちしました」 「お腹空いてませんか?」 「まんじゅう持ってきたんですけど」 「晩御飯は何が食べたいですか?」 等など。 ようやく訪ねてくる者が居なくなって、やっとノンビリ出来ると机の上でコロンと転がった時に、また障子の向こうから声が掛る。 「小西様、お召し物が出来上がりました」 一着二着用意してくれたのかと思いきや、床に並べられた着物は十着はあった。 普通の小袖に袴、羽織まで用意してあり、夜着や、中には南蛮人が着ていたような服。何故か女性の袿まで。 よくこの短時間で準備したものだ。と感心してしまう。 「こない用意してもろうて、おおきに…せやけど、これは…」 袿を広げると、女房は嬉しそうに答える。 「きっとお似合いですよ」 いや、それってあんまり嬉しくない…。 まあ、それは着ないとして、用意してもらった着物に袖を通した。 続きます。 作品倉庫へはブラウザを閉じてお戻りください。 |
いい加減変な話やな…。 20061210 佐々木健 |