感謝
清正×行長







夜も更け、気温も下がり心地良い眠りにつく清正を覚醒に導く者が居た。
隣で寝ていた行長だ。


「虎、虎!起き」

「…ん…」


普段より側に居る事の多い行長の気配が安心させるのか、清正はなかなか目覚めない。


「虎ぁ。起きてぇな」


そんな清正の体を揺すり、起こそうとしている。
体を揺さぶられ、流石に意識が覚醒へと向かい、一度固く目を瞑ると、ゆっくり目を開いた。


「…彌九郎…どうした?」


眠りを妨げられた事で少々機嫌の悪い清正に行長は上から覗き込みつつニッコリと微笑む。


「今日、誕生日やろ」

「誕生日?」


言っている意味が判らず清正は顔をしかめた。


「誕生日。今日は虎の生まれた日やろ。それを誕生日っちゅうんや」

「だから、どうした?」


言われてみれば今日は自分の生まれた日だが、それで夜中に起こされる意味が解らない。といった風に清正は溜め息を吐き再び眠ろうとする。
それを行長が再び阻止した。


「寝るな〜!誕生日はお祝いするん。生んでくれた事に感謝する日なんよ!」

「…お祝い?」


歳は新年と共にとるもので、生まれた日を祝うとは聞いた例しがない。
妙に必死に清正を現実世界に繋ぎ留めている行長を恨めしそうにながめると、


「くだらん事を言っていないで、お前も寝ろ」


上から覗き込んでいる行長を腕の中に閉じ込めた。


「っ!?くだらん事やない!」


腕の中でジタバタと行長が暴れる。

何故生まれた日ごときでこんなに必死なのかが理解出来ない上に強い睡魔が清正を襲い、清正の瞼が閉じていく。
清正に聞かせる事を諦めたのか、行長は大きく溜息を吐くと、清正の胸に顔を埋め祈る様に小さく呟いた。


「感謝したいんや…虎が生まれてきた事…俺と出会ってくれた事に…感謝したいんや…」


小さな呟きだったが、清正の鼓膜を刺激し、一気に覚醒する。


「彌九郎…」

「誕生日…おめでと…生まれてきてくれて、おおきに」


清正が完全に目覚めた事に気が付いた行長は、流石に恥ずかしくなったのか、清正の夜着の衿を掴み、胸に顔を押し付け、顔を見られない様に懸命になっていた。


「彌九郎」

「なんや。もう用事はあらへん。はよ寝や」


赤いであろう顔を必死に隠し、巻くし立てる行長に愛しさが募る。




―――生まれた事、生んでくれた事。その事に感謝を―――




「有難いな…こんな風に祝ってくれるとはな…」

「くだらん言うたん誰や!」


とっさに顔を上げ抗議する行長との距離を縮め、


「すまない。理解の遅い石頭なもんでな」


精一杯の感謝を込めて口付けた。








―――貴方が生まれてきてくれた事に感謝します―――













終わり。



あ〜。
清正の誕生日だよ。って事に昨日司岐としゃぶしゃぶ食べながら思い出しました。
まあ、旧暦を新暦に直すと違いますが、一応、今日って事で☆

お誕生日おめでとう!

一時間半で書いたので、短い…。

20070624   佐々木健