桜 清正×行長 |
全く会えないという訳ではないけど、この、桃や桜の時季というものは、何事も派手に楽しむ主君が催す宴会や、それに伴い溜る仕事に、振り回されて自分がゆっくり出来る暇もなく、ましてや、二人で過ごす事なんて――暫く無かった。 『彌九郎』 『ん?なんや虎?』 『明後日、休みだったよな?』 『あ?ああ、ようやっと休みやわ』 『俺もだ。…花見をしないか?』 『へ?花見?……する!』 『なら明後日、迎えに行く』 いつもしかめっ面なのに、少し照れた笑みを浮かべた清正がそんな事を言ったのは2日前。 今日がその花見当日。 「なっんで、今日に限って雨やねん!」 雨 ここ最近天気の良い日が続いていたのに、どうせならもう1日位晴れてくれたって良いものを…。 恨みを込めて空を見上げるも、灰色の空からは大粒の雨がひっきりなしに降り注いでいた。 (虎、来いへんかも…) 花見は中止、雨の降り頻る中だ。 花見も楽しみだった。 だけど、一番心待ちにしていたのは――― 知らず頬が熱くなり、誰かが見ている訳ではないのに恥ずかしくなって、再び灰色の空を見上げた。 相変わらず空からは大粒の雨が落ちてくる。 「…止まへんなぁ」 いくら空を睨んだところで止む気配は微塵も無く、仰向くそのまま大の字で後ろへと倒れた。 「なんや、真面目に頑張ったやないか俺…」 (今日位ご褒美くれたかて、罰は当たらんやろ?) 「何を寝転がってるんだ」 突然掛けられた声に慌てて身を起こす。 目の前には、呆れ顔の清正が立っていた。 「と、ら?何で?」 (花見は中止やろ?) あまりに間の抜けた顔に、清正が溜め息を吐く。 「迎えに行くと言っただろ?」 『忘れたのか?』と言外に含め、眉間に皺を寄せて見てくる。 「忘れてへん!」 『でも、雨降ってるやないか』と見上げると、清正は外に目をやった。 「ああ、降ってるな」 全く残念そうでない清正の雰囲気に、何だか自分だけが楽しみにしていたようで腹が立つ。 むくれて見せると清正が目の端を緩めて笑った。 それがまた腹が立つ。 だけど、この雨の中約束を違えず来てくれた事に心の奥が喜んでいるのは事実で、でもそれを知られたくなくてうつ向いた。 (素直やないなぁ俺…) 横に置いてある、今日の為に用意した酒瓶を引き寄せる。 清正に喜んでもらいたくて、自分の好みとは違う清正好みの酒。 「そんなに楽しみにしてたのか花見」 花見は秀吉が行う宴会で沢山やったものだ。 そりゃ花も酒も飽きる程だったが、 「したかったんや花見!」 お前と!と言うのは言えなかったけど。 「行くぞ」 「へ?」 清正の言葉に顔を上げると、腕を引かれて立ち上がらせられた。 そのまま腕を引かれ玄関へ向かっていく。 「ちょ、虎、何処行くん」 「花見」 それだけ言うと、更に引き寄せられ、腰に手を回された。 「なっ?」 この雨の中に花見をするという発言も驚くが、この状況もヤバイ。 知られているとはいえ、家の者にこの姿は見られたくない。 必死に手から逃れようとするが、しっかりと捕えられていて、こうなったら、誰にも会わないように祈るしかない。 そう思っていたのに、願いも虚しく如安が通り掛った。 「殿?加藤様?」 如安も清正が来ている事を知らなかったのか、驚きの表情を現す。 「コイツ借りていくぞ」 そんな如安を意にかいさず、清正は腰に回した手に力を入れて如安の脇を通り過ぎた。 「加藤様!殿は明日出仕ありますから、早めに返してくださいね」 (そういう問題!?) 全くの物扱いに文句を言おうとするが、清正の空いている手で口を塞がれた。 「明日は此方から出仕させる」 何の問題もない。といった様に笑う清正に如安が溜め息を吐く。 「仕方ないですね。後で着替を届けさせます」 如安の答えに満足そうに頷くと、玄関に停めていた籠へと乗り込んだ。 そこでやっと解放される。 「っ…なんやねん!人を物扱いしおって!」 「お前が口を挟むと話がこじれるからな」 見透かすように言われた言葉に、次の句が告げられず、黙った。 そのまま籠に揺られ、暫くすると籠が止まる。 「降りるぞ」 促され籠から降りると、其処は見慣れた清正の屋敷だった。 「此処…」 戸惑う自分の腕を取り、清正は屋敷に入る。 そして普段過ごす部屋とは違い奥へと連れて行かれ、そこで見たものは―――満開の桜の木。 「っ…なんで?」 以前もこの部屋まで来た事はあるが、桜の木などなかった筈だ。 「昨年此処へ植え替えたんだ。ちゃんと咲くか分からなくてな…此処なら部屋にて花見が出来るだろ?」 そう言う清正の顔を見上げると、少し目元が赤く、照れているように思える。 「うん…」 (もしかして、この時季は雨が降りやすいから…かな?) 自分にとって都合の良い考えだが、少し照れたような清正を見ると、あながち間違いでもないかもしれない。 (虎も楽しみにしてくれとった…) 何かとても嬉しい。 ジタバタしたくなる感じ。 抱えたままの酒瓶を抱え直し、良し!と気合いを入れる。 「虎!花見、始めんで!」 「ああ、そうだな」 それから簡単なつまみを運んでもらい、桜を眺めながら酒に口をつけた。 酒を飲んだ清正が何かに気付き笑みを浮かべて此方を見てきたが、気付かないふりをする。 しかし、その視線が外される気配がない。 「〜〜…なんや?花見んかい!」 「花よりも、彌九郎を見ていた方が楽しいと思ってな」 結局、それから桜を見る事は無かった。 終わり。 |
ネタ出し司岐。 書いたの佐々木。 最後のオチは司岐と朱斗矢が考えてくれたのMIX。 なんと、今回ちゅ〜さえ無い話ですよ!? 20070328 佐々木健 |