君夜
清正×行長





嫌な夢を見た。





最近同じ夢を見る。
嫌な夢だ。
アイツが何処かへ行ってしまう。
呼び止めてもただ笑顔で手を振る。
追い掛けようにも動けずに、呼び掛けは叫びに変わる。
そこでいつも目を覚ます。


ただの夢だ。


そう自身に言いきかすも、焦燥感は拭えずに朝をむかえ、夜にはまた同じ夢を見る。


隣にはアイツが居るのに。








「でな、ホンマその猿の行動が景勝はんに似とるんよ」


昼間にあった出来事を行長が身振り手振りで話をする。そんな様子を酒を飲みつつ清正は耳を傾けていた。
そんな穏やかな時間が流れ、夜も更けると、行長の目に眠気がおびてくる。
瞬きが次第にゆっくりとなるのがわかる。

「もう寝るか?」
「ん〜…虎は?」

はっきり言って眠りたくはないのだが、自分が寝ると言わないと、行長は付き合おうとする。

だから、

「ああ、俺も眠たくなった」
「じゃあ、…寝よぅ」

横になると、行長は直ぐに眠りに入った。
清正は眠る姿を暫く眺めると、次第に眠たくなっていった。
連日の夢見の悪さに睡眠不足で、眠りたくはないが、体は睡眠を欲する。

眠る行長の髪を撫でた後、清正は目を閉じた。





―――じゃあな。虎、さいならや。



―――彌九郎。



―――彌九郎!





布団をはね退ける様に起き上がる。

まただ。
またあの夢だ。

清正は顔に掛る髪をかきあげると、横で眠っている行長へと顔を向けた。
しかし、眠っていると思った行長は目を開き、真っ直ぐと清正をとらえている。


自分が起き上がった時に目を覚まさしてしまったのだろうか。


何と声を掛けて良いのか解らず。思案していると、行長が口を開いた。


「虎、最近そんな事ばっかやろ」

はっきりとした口調に今起きたものではない事が解る。

「そんな事?」

行長の言葉を認めたくなくて、清正は解らない振りをした。そんな清正に行長の目が鋭くなる。

「とぼけても無駄や。いっつも、夜中にうなされて起きとるやろ」

視線は睨みつけるような形だが、言葉には心配している事が滲んでいる。

「…知っていたのか」

言い逃れは出来そうにない事を感じた清正は溜め息を吐き、行長はそれまで睨みつけていた視線を外し、起き上がる。

「知ってるわ。うなされて、飛び起きた後、俺見て溜め息吐くの。知っとったけど、虎、何も言うてくれへんもん…言うてくれへんから、俺も何も言えへんかった」

だが、いい加減限界だと。
何の相談もしてもらえないと、行長は悲しげに視線を落とす。


こんなにも心配をかけていた事に気付かなかった。
その事に清正は恥じる。
しかし、夢の事。あまりにも女々しいと思い言えるはずなどできなかった。

「俺って、そんなに頼りにならん?」
「そんな事はない…」


行長の存在が清正を落ち着かせている。


長い沈黙が続き、その沈黙が行長を不安にさせ、勘違いを引き起こす。

「も、いい」

視線を落としたまま立ち上がる。

「彌九郎?」
「じゃあな、虎、…さいならや」
「!?」

ゆっくりと背中を向ける行長に、先程の夢が重なる。

このままでは夢が現実となってしまう。

一歩ずつ遠くなっていく行長の腕を清正は掴んだ。

「いっつ…」

咄嗟に掴んだ為、力の加減が解らず、掴んだ腕に、骨に当たるゴリっとした感触が伝わる。

「虎、放しぃや…」

捕えられた腕の痛みを堪え、努めて冷静を装う。

「離さない」


離さない。

離れないで。


「何でや!お前には俺なんて必要あらへんのやろ!」
「そんな事無い!」

掴んだ腕を引き寄せ、抱き締める。抵抗はないが、身体は拒絶を示すように強張っている。

「お前が必要なんだ…お前が居てくれないと困るんだ」

清正の言葉に行長の強張った身体から力が抜けた。

「夢を見たんだ。彌九郎が居なくなる夢を…夢から覚めると、隣にはお前が居て、そして安心する。女々しい事だと思って、言えなかった…」

告白を大人しく聞いていた行長が清正の夜着の袖を掴み、顔を胸に押し付ける。

「…アホぅ…勝手に居なくならせるなや…」





暫くそうして抱き合っていると、行長が顔を上げた。

「夢見が悪いんやったら、特別におまじないしたるわ」
「おまじない?」

清正を見上げる瞳にはもう憂いはない。

「せや。よう効くで。目ぇ瞑り」

それを信じる訳ではないが、行長の言う通りに目を閉じる。
目を閉じた事を確認すると、行長が小さい声で何かを囁き、清正の額に口付けた。







俺はずっと虎之助の側に居るよ。













終わり。


福山○治の「おでこにキッス」の歌詞見てて。
この歌、聴いた事は無いんですけど(爆)
最初、清正と行長の役割は反対だったんですけど、なんか、それだと行長、精神不安定人間になっちゃいそうだったので、たまには。
まあ、清正は普段偉そうですけど、行長より年下ですしね。
色々と不安になっちゃう時もあるんですよ。


20061215   佐々木健