〜Squall〜 清正×行長 (清正←行長) |
―――恋をしている――― |
―――悲しいくらい――― |
―――苦しいくらい――― |
三成屋敷。行長は三成の書類整理を手伝っていた。 一生懸命書類整理をする三成とは、対照的に行長の手は殆ど動いていない。 それだけでも三成はイライラしたが、元から手伝ってもらう気は無かったので、自分でやれば済む事だ。 そう、手が動かないのは構わない。だが、さっきから散々行長は溜息をついているのだった。 はぁ〜… 元よりそう気が長くない三成は、とうとう、それでもちょっとだけキレた。 「何だ、溜息なぞ。無理して付き合って貰う事じゃない。帰れ。普通に邪魔だ」 「ツレナイなぁ、佐吉っちゃんは。そんなに島はんと二人っきりになりたいん?」 「な…っ!そんな事はっ!」 一気に三成の顔に朱が走る。 それを楽しそうに眺めるも、再び暗い表情をして溜息をついた。 「はぁ〜…」 「〜〜っ、だから、一体何なのだ、お前はっ!?」 「佐吉っちゃん〜…」 「何だっ!」 「俺、恋に落ちたかもしれへん…」 いい加減切れた三成だったが、行長の言葉に怪訝な顔をする、いたって本人は真面目な様子で、人の感情に疎い三成でも、相談に乗って欲しがっているのが解った。 仕事の途中だが、悩んでいる行長をそのままにしておく事も出来ず、三成は話だけでも聞いてみる事にした。 「…恋?……誰にだ?」 「直球に聞いてくれんなや〜」 ほんのり頬を染めながら、行長がもじもじするが、三成はこの手の話に慣れていない。 「〜〜っ…どんな人だ?」 それでも、考えに考えて、三成は言い方を変えてみる。 「あんな…普段ぶっきらぼうなんやけど…たまにな…あの晴れたお空さんみたいな笑顔をくれんねん」 夢を見るような表情で語り始め、三成は、それは美しい女性なのだろうなと考える。 「でな、こん間、雨に降られてもうて、着替え借りてな……やっぱ大きかってん。余った袖見てたらな。胸がキュ〜って…」 ?何かがオカシイ。 「ちょっと待て。お前が着物を借りたのだよな?」 「うん?そうやで」 「(??彌九郎自体そんなに小柄ではないよな…どんなデカイ女だ?)」 三成が考え込んでる、そんな時。屋敷の外からデカイ声が聞こえてきた。 「佐吉!佐吉はおるか!?」 ―――清正だ 清正の声に行長が肩を竦め、三成は舌打ちしそうに顔をしかめる。 「虎之助か…忙しい時に…」 特に暇な時自体ない三成だが、悪態をつく。 出ない訳にはいかないので、立ち上がろうとすると、紅い顔の行長が三成の袖を掴む。 何だ?と視線をやると、困った表情をして、三成に頼み込んだ。 「さ、佐吉っちゃん!…俺、おらん事にしといてな!絶対な!」 「?…ああ、分かった」 多分、喧嘩でもしたのだろうと、勝手に思い、外に出ると、三成を見た清正は不機嫌そうに三成の元にくる。 「何の用だ?」 「…彌九郎を見なかったか?」 まさに居ない事にしろと言われている人物の名が挙がるのに、三成は驚いたが、特定の人物以外の前では表情筋の乏しい三成の表情は変わらなかった。 「此処には来て居ないが、何かあったのか?」 隠れる行長と探す清正に、少し興味を持った三成が尋ねると、清正は少し困った表情をする。 「紀ぃ兄も市松も見ていないと言うしな…あとは此処かと思ったのだがな」 口元を押さえて考え込む。 その様子に三成は溜息を吐くと。 「俺の質問に答えてないではないか。まあ、上がれ。茶位は出す」 「珍しいな…お前がそう言うなんて」 「嫌なら帰れ」 「いや、頂こう。丁度喉が渇いていたところだ」 そんなやりとりを、三成の部屋から少し障子を開けて行長が覗く。 清正は長居はしないと、縁側に座り、三成は準備をすると、清正を残し、場を離れる。 「(佐吉っちゃん!何で虎を引き留めんねん!あかん…こんまま見とったら、気付かれるわ…でも)」 縁側に座り、庭を眺める清正の横顔から目が離せない。 その横顔を見ているだけで、胸が煩いくらいドキドキしてしまっている。目を合わせるなんて到底無理。 そう、行長は清正に恋をしているのだった。 気付かれる前にと、後ろに下がろうとしたとき、すぐ後ろにあった衝立にぶつかり、それが倒れそうになる。倒してはいけないと慌てて支えるが、その際ガダンっと音がたってしまった。 「(あっか〜ん!)」 流石にその音に清正が三成の部屋へ視線を向ける。 誰も居ないはずの部屋からの物音。元来神経質な清正がいぶかしがらないはずがない。 「誰か居るのか?」 清正の呼びかけに、行長の心臓が跳ねる。 「(どどどどどないしよ!せや!)にゃ〜」 猫のモノマネ…。 「…猫?アイツ猫を飼ってるのか?」 気になった清正が部屋へ近付く。行長はじりじりと後ずさるが、もう間に合わない。 「(あかん!絶体絶命や!)」 清正が障子へ手を掛けたその時、 「何をしている」 茶の準備をして戻ってきた三成が声を掛ける。 「(助かった〜…)」 「お前、猫を飼ってるのか?」 「猫?」 事情を知らない三成は首を傾げる。 「(せや、佐吉っちゃんは知らんのやった!)にゃ〜」 その声に三成が悟る。 しかし、三成は嘘を吐くのが苦手だった。 「あ、ああ。近所の猫が猫を産んでな…」 猫は猫しか産めませんよ。 「(佐吉っちゃ〜ん!めっちゃ不自然や!)」 「どんな猫なんだ?」 「あ、ああ。…茶色っぽい猫だ…」 話す時は目を見て話す三成が目を反らしている事と、あまりにはっきりとしない話し方に清正は思い付く。 「その猫、彌九郎という名じゃないのか?」 言うと同時に障子を一気に開いた。 清正と視線があった瞬間、顔が一気に紅くなり、逃げ出そうとする行長の腕を清正が捕まえ、その手を外そうと抵抗を示す。 「…っや!!は、離し!」 「これ以上不可解な行動をされて堪るか!今日こそハッキリさせるぞ!」 清正のキツイ言葉に行長がビクっと肩をすくませる。 行長を引きずる様に連れ出す。 「い、いやや!…さ、佐吉っちゃん!助けてぇな!」 「何が何だか俺には理解出来ないぞ!揉め事なら、早々に解決しろ!」 三成としては、何が何だか解らない。行長が清正から逃げる理由も清正が怒っている理由も。 引きずられるように行長は佐和山の屋敷を後にし、山の途中にある大木に体を押し付けられた。清正は相変わらず怒気を含んだ気が覆っている。 行長を睨むように見つめる清正と、清正を見ようとしない行長。 沈黙が辺りを支配する。先に沈黙を破ったのは清正だった。 「何か言ったらどうだ」 「…何も言う事あらへん…」 俯いたまま此方を見ようとしない行長に清正が溜め息をつく。その溜め息が行長を悲しくさせる事を清正は知らない。 「では、一つ聞くが、何の理由で俺を避けている」 避けたい訳じゃない。 「避けてなんか…」 「いるだろ」 言葉を遮られ、とっさに顔を上げた行長は目前の清正と目が合う。途端心臓が早鐘を打ち出す。目を反らそうにも、清正の目が許さないと語る。 「…さ…避けたい訳やないんやっ…」 鼓動が煩い。吸った息が吐けない。視線が揺らぐ。全身が急激に冷えていくような。もう頭の中はグチャグチャで――― 「!?っおい!何を泣いて!?」 清正が肩を揺らすが、茫然としたまま、行長の目からは涙が流れ続ける。 「ゴメン…ゴメンな…虎…俺、虎の事が…好きやねん…」 ぐらりと体が傾く。 「彌九…!」 そのまま意識を失った。 行長が意識を取り戻すと、視界に天井と三成が映る。 「目が覚めたか」 「佐吉っちゃん…」 三成は一つ安堵の溜め息をつくと、冷たく濡れた手拭いを渡す。 「…なに?」 「意識を失っている間も泣き続けていた。腫れてるから、冷やしておけ」 手拭いを瞼に充てると、熱を持った目元が冷え気持ちが良かった。 「…虎は?」 「虎之助がお前を此処に連れてきた」 それだけ言うと、三成は部屋から立ち去った。 部屋に一人になり、気が落ち着く。 清正は帰ったのだろう。安堵と悲しみが混ざった。そんな気分だった。 障子が開き、人が入ってくる気配がした。 「佐吉っちゃん?」 「…彌九郎」 清正――― 体が固まる。止まった涙がまた溢れ出す。手拭いに吸い込まれ、暖まっていく。 消えてしまいたい―――そう思った瞬間、唇に暖かく柔らかい感触を感じた。 視界を遮る手拭いが外される。 これ以上ない位近くに清正が居る。その事実に行長は声も出ない。 その様子に清正は笑みを浮かべると、再び唇を合わせる。 何が起きているか理解出来ない行長は目を見開き、清正が離れたと同時に起き上がり、部屋の隅に逃げた。 「な、なななな!」 「お前だけがその気持ちを抱えていたのではない」 「!?」 部屋の隅に逃げた行長をを追い、逃げ場を塞いで目を合わせる。 「俺も彌九郎を好いてるという事だ」 「う…」 「嘘ではないぞ」 清正は今まで行長が見た事もない位優しい笑みを浮かべている。 「うぅぅ…」 また泣き出す行長をそっと抱き締めた。 ――部屋の外 「全く、人騒がせな奴らだ」 言葉とは裏腹に三成の表情は穏やかに笑っていた。 |
―――恋をしている――― |
―――恋に落ちてる――― |
―――もう隠さない――― |
終わり! 何だ。この乙女小西!(笑) 福山○治のSquallを聴いて出来た話だから仕方が無い。 20061005 佐々木健 |