雨濡れ
清正×行長



ただの雨というより、豪雨。
この九州の地は、このような豪雨が突発的によく起きる。
雨に濡れるのが好きな訳ではないが、何故か無性に外に出たくなった。
過去何度か同じ事をして、家臣達に心配をかけているのは知っているが、どうにもそんな気分なのだから、仕方ない。
あいつが知ったら、また怒られるだろうな。 と苦笑を交えつつ、屋敷を抜け出した。
誰も居ない。 皆それぞれ家に駆け込んだのであろう。農具が放置されてるのもある。片付けた方が良いだろう、とは思うものの、勝手に片付けては後に持ち主が困るだろう。
足元に泥が跳ね、着物も雨を吸って重い。雨に打たれる事で何かが変わる訳ではないのは知っている。
ただ、体に着物が張り付き、雨が肌を叩き体温を奪っていくだけだ。

ぶるる…

馬。
雨音で気付かなかったが、いつの間にか後ろに馬がいる。
突き刺す視線で誰なのかが解る。 怒ってるなぁと思う。まあ、いつも怒ってるようなものだけど。

「なんや虎、こない所で何しとんねん」

その言葉に清正が溜め息をつく。
その為か、少し怒気が抜けたように思える。

「それは此方の台詞ぞ。お前は何をしておるのだ」

何をしてるのか。 自分でも説明のしようがない。
ただ、雨に濡れているだけの事。

「何って、見ての通りや」

この言葉に清正の片眉が上がるのが笠を被っているにも関わらず解る。
清正が馬から降りて近付いて来る。その様子を眺めた。

「理由も無しに雨に打たれるのか?」

「理由が無かったらあかんのか」

手を捕られる。冷えた手に、清正の手は熱すぎるくらいに感じ、手を退こうとすれば、逆に手を引かれ、腕の中へ連れ込まれた。

「お前も濡れんで」

人事のように呟く。

「…このような事をしても罪は流れぬ」

当たり前だ。 こんな事で洗い流されるなら、苦労しない。
こんな事をしても、何の意味も為さない。

「俺は天国へ行きたかったんや。虎のせいで何も台無しや」

腕の力が強くなる。 苦しい。 しかし幸せをも感じる自分は、もう地獄にしか行けないのだろう。

「俺が地獄まで付き合ってやる」

ウソつき。
お前は生まれ変わるんだ。俺を置いて。

「来世には無理にでも連れて行くぞ」

何でコイツは言わんとする事が解るか。
雨とは違う暖かいものが頬に伝う。

「いつも虎は強引やんな…」

真っ直ぐ過ぎるコイツが本当に嫌いだ。
冷えた唇に熱いくらいの接吻、壊れてしまえと思う。



雷雨の中、ワイパー最速でも前が見えない時に考えた話。
ってか、雨ネタ多いかも。

20060824   佐々木健