可愛い人
秀家×行長







大坂より帰還すると、屋敷の者より、行長が訪れている事を聞いた。
不在なら、また出直すと言う行長を、丁度今日帰るからと引き留めたらしい。


帰る日を伝えたのと、予定通り帰る事が出来て良かったと秀家は心から思った。
行長の待つ部屋へと足早に向かい、庭に面した角を曲がると、廊下に腰掛けている行長の姿が目に入った。


此方に気付いた様子はなく、此方からも行長の表情は見えない。 うつ向いている姿に、もしかして、と思う。ゆっくりと近付き、膝を折って覗き込むと、行長は目を瞑って、眠っていた。


起こそうかと思ったが、行長が寝ている姿をあまり見たことがない秀家は、そのまま眺める事にする。


昼下がりの陽が髪を照らし、暗い茶の髪色を明るくしている。
伏せられた瞳に掛る睫は長く、豊かな表情が消えている為、整った顔を一層際立たせていた。
一つ、少しだけ開かれている唇が年齢の割りに幼く見せている。




―――やはり、彌九郎は綺麗だな。




そうして、見飽きる事はないが、充分に寝ている行長を観察した秀家は、昼間といえど、冷たくなった風に、体を冷やしてはいけないと、行長を起こそうとした。
その時、 行長の体が後ろに傾く―――このままでは頭を打つと、急いで肩を支える。予想していたよりも軽く支えられた事に多少なりとも驚く。
身長は未だ超せていないが、体格の差は埋まっていた。


幼少時は、大きな存在だった行長が自分の腕に収まっている事実が嬉しかった。


秀家は抱き留めた体を自身に寄り掛らせると、顔に掛った髪を優しく払い、未だ眠り続ける行長の髪をすいた。





暫くそうしていると、腕の中の行長が身じろぎをする。
どうやらお目覚めのようだ。


「ん…う…」


まだ焦点が合わず、ぼんやりしている行長を覗き込み声を掛ける。


「おはよう。彌九郎」

「!?…は、八郎さま!?」


目前に現れた秀家の顔と声に一気に覚醒するものの、状況が解っていない行長は、自身の手に触れた秀家の着物を掴む。


「彌九郎、積極的だね」


笑い掛けると、目を瞬かせ、キョロキョロさせた後、漸く自分が秀家に抱き締められていて、自分は秀家の着物を掴んでいるという状況を理解し、把握した途端、顔が紅潮して、わたわたしはじめた。


「あああ、なんっで…俺?」


何故抱き締められているのか?

その疑問に答えると、やっと少しだけ落ち着き始めた。しかし、秀家は行長を離さない。
行長は廊下に腰を下ろしていて、秀家は正座をしている。よって、普段自分より下にある顔を見上げる形になるのが、余計に落ち着かない。


「あの〜八郎様?」

「ん?なあに?」


間近で見る秀麗な秀家の顔、しかも笑顔付きに行長は鼓動が跳ね上がる。


「は、離してくれへんのですやろか?」

「彌九郎って綺麗だよね」


会話が噛み合っていない上、秀家の唐突な言葉に呆気にとられ、


「な、何言うてはりますん?俺よか綺麗な顔して…」


行長の言葉が途切れる。正しくは秀家の唇に飲み込まれた。口付けは触れるだけで、直ぐに解放される。
目を見開き、言葉も出ずに、口がパクパクしている行長と、ニコニコと機嫌良さげな秀家 。


「本当、彌九郎ってば、可愛いい」


未だ抱き締められていて逃げ場の無い行長は、秀家の腕の中で真っ赤になりつつ、脱力した。



「綺麗なんも、可愛いのも、八郎様の方でっしゃろ…」







どっちが綺麗でどっちが可愛いのやら?









終わり



甘い感じの秀家×行長目指して、玉砕したような…。
ようなじゃなくて、玉砕だ(滝汗)

巽晃さま。
こんなんですが…すみません(汗汗)

20061104   佐々木健