身長
秀家→行長らしい。

廊下を歩いていると、突然右足に重みが掛かった。
下を見ると、よく見慣れたもの、といっては失礼だが、頭が目に入った。
彌九郎が仕える、宇喜多家嫡子、八郎だ。
その八郎が彌九郎の右足にへばりついていた。

「八郎様?」

名を呼ぶと、呼ばれた八郎が顔を上げた。
何とも不満たっぷりな表情である。
何か怒るような事があったのか?はたまた叱られたのか?と考えてみるが、八郎の表情は至って『納得いかない』といった顔だった。

「何かあらはったんどすか?」

普段は目線を合わせる為に膝を折るのだが、一向に右足にしがみ付いたままなので、失礼も承知で声を掛けると、への字に曲げていた口を開いた。

「どうしたら、背が伸びる?」

「はい?…背?八郎様は背が高くなりたいんどすか?」

「そうじゃ」

それを言ったきり、またも口をへの字に曲げて黙ってしまったが、袴を掴んでいた手が離れたので、彌九郎は八郎の正面に膝をつく。

「成長すれば、自然に伸びるもんやないですか」

「今すぐ大きくなりたいのだ」

「突然は大きゅうなりまへんえ?」

「大きくなりたいのだ!」

普段より子供特有の我侭を言う事はあったが、そう困難な我侭もなく、聞き分けの良い八郎が、どうにも無茶な事を言っている。
母親譲りの大きな瞳からは、今にも涙が零れそうだ。

「私でも、どうにもしてあげられまへん」

こればかりは時間の問題で、無理なものは無理だ。
しかし、どうして八郎がここまで『背が大きくなりたい』と思うのかが解らない。
彌九郎自身も幼い時、子供の不自由さに『早く大人になりたい』と思わなかった訳ではないが、そんなものは時が経たなければ無理だという事は、解っていたと思うし、聡明な八郎が解らない訳が無い。
暫く向き合っていると、八郎が目を合わせてきた。

「彌九郎はもう大きくならないのか?」

突然話が自分に向かってきた事に、彌九郎は頭を悩ます。
自分の身長、そういえば昨年に比べてあまり変っていないようで、どうやら止まったらしい。

「そうどすなぁ。もう大きゅうならへんと思いますえ」

その言葉を聞くと、八郎の顔に少し明るさが出てきた。

「じゃあ、私が彌九郎より大きくなる事は出来るか?」

彌九郎自身、背は低い方ではないが、八郎の父、直家が彌九郎よりも大きいので、可能性は有るだろう。

「はい。大きゅうなれますよ」





そんなやり取りをしたのは何年前だっただろうか。
彌九郎は行長と名を替え、肥後半国の領主となり、八郎も秀吉より一文字頂戴して秀家と名乗り岡山城主となった頃、秀家に呼ばれ訪ねた行長に、

「彌九郎の嘘吐き!!」

秀家が噛み付いた。

「は?何がどうしなはったんどす!?」

何がなにやら解らない行長は頭の中疑問符だらけだ。

「彌九郎の方が大きいではないか!」

その言葉に何の事か思い出した。記憶の片隅も片隅。忘れ去りそうな勢いだった事柄を。

「ま、まだ伸びはりますやろ?」

「昨年から全く伸びてない!」

成長して端正な顔つきになったとはいえ、やはり母親似の可愛らしい顔を膨らませて怒っている。

「え〜…でも、背が低い方でもあらへんし…」

「私は彌九郎よりも大きくなりたかったのだ!」

いまいち解らない。
なぜ、自分が基準なのだろう?と行長は思う。

「彌九郎の身長を抜いたら、抱こうと思ってたのに!」

秀家の言葉に行長は固まった。

暫く固まっている行長と、癇癪を起す秀家の光景が其処にあった。





終わり。


すっごいアホ話。
でも、秀家は身長は諦めたけど、小西の事は諦めてません(笑)
別に小西より大きくなっても良いんだけどね。
ウチの秀家は小西より小さい。
でも、お陰で可愛いもの大好き小西は秀家に甘いよ(笑)

20060829   佐々木健。