「魔女っこ吉継」につけて頂いたお話とその続きです。 現代版・為広×吉継 |
「着てくれませんか?」 「沸いたか?」 一言で斬って捨てられたが手の中には可愛らしい衣装。 「平塚先生」 若い看護師に呼び止められたのは家に帰る支度を終えた時だった。 「どうかした?」 急患でも入ったのならばもっと慌てているだろうし、別に急ぐことも無いだろうと笑顔で応対する。 「平塚先生良かったらこれ…」 そう差し出されたものを反射的に受け取る。 「何?」 「差し上げますから、今月末に彼女さんにでも着てもらってください」 胡散臭いほどの笑顔でそんなことを言う看護師を見つめて、そういえばと思い直す。 最近いいことがあったのかと聞かれて思い人を手に入れられた。 そう返したときから彼女が出来たということになったらしい。 袋の中を覗けばどこかの店で売っていそうな衣装だった。 これをなんで俺に寄越すかね…。 真剣にそんなことを考えながら帰路についた。 「吉継さん」 一緒に暮らしているわけではないが、俺の部屋の方が彼の勤めている大学に近いからかよく来ている彼を呼び止める。 「その言い方止めろって何回言わせるんだ?」 不機嫌そうにそれでもコーヒー片手になにかの論文を読んでいた彼は視線をくれた。 「これ、今日看護師に貰いまして」 そう言って袋からあえて出さずに言葉を紡ぐ。 「着てくれませんか?」 「何で私が?っていうか何を?」 興味を持ったのかテーブルに手にしていたものを置いて近寄ってくる彼の耳の後ろにひとつキスを落とす。 「何してる」 引き剥がすように髪を引っ張られて不機嫌な顔とぶつかる。 綺麗な顔は中性的な顔立ちだった。 「着てください」 「沸いたか?」 中身を見てもいないくせにそう切り出した彼に笑ってしまう。 「いいじゃないですか、お願いします」 「…」 「なんでもしますから」 この人に対してだけは媚びる言葉も甘い言葉も惜しげもなく出てくるのが不思議だった。 「なんでも?」 「明日休みなんで、好きなもの作りますよ?あと行きたいところとかお供します」 少し揺れたなと感じたからそう言えば何か思いついたらしくふわりと笑われる。 「よし、じゃあ。明日は一緒に買い物いって映画でも見て、ファーストフードでも食べよう」 俺がファーストフードをあまり好きではないのを知っていていうのだからこの人には叶わないと思う。 結局先に惚れたほうが負けなのだ。 「いいですけど、夕飯は買い物で買った材料で俺が何か作る。でいいですか?」 「構わないよ」 「じゃあ、着てきてください」 袋を手渡して微笑めば微妙な顔をされる。 中身を見ないで了承なんてするのが悪い。 覗き見した中身は確かに彼に似合いそうなかわいらしいものだった。 「…為広、お前病院でなんだと思われてるんだ?」 中身を見たらしい彼が言う。 とは言っても隣の部屋に居るから声しか聞こえないが…。 それは俺も思いましたとは言えずに 「なんでしょうね?とりあえず貴方に着て貰えといわれたので」 そう返せば返ってくる言葉はなかった。 「着方…よく分からないんだけど」 20分ほどたってから出てきた彼はどこからどうみても可愛らしい魔女だった。 思わず笑ってしまったのがいけなかったのか、優しく微笑まれた。 「為広、私にこんな格好させて、ただで済むと思ってるか?」 「愛の力は偉大だ。と関心してしまいました」 今なら何を言われても許してしまいそうだと思う。 色素の薄い髪に黒いマントに帽子。 コルセットのように腰に巻かれた飾りは腰の細さを強調している。 長い手袋にニーソックス。 似合いすぎていて思わず押し倒したくなるほどだった。 「変なこと考えてるだろう?」 優しげな笑みのままそんなことを言われる。確かに考えてないといえば嘘になるのだ。 とりあえず写真には収めておきたいと考えているのだから。 手の持った細い杖から新体操のリボンのような細い薄い布が出ていた。 それが動く度にふわりふわりと動いてそれがまたその異界の雰囲気を一層濃くしていた。 「貴方のような魔女になら、心臓なんていくらでも差し出しますよ」 「それは元から私のものだろう?」 当たり前だとでも言うように微笑みながら言う彼が、暫く頭から離れなかった。 |
きっと今日なら どこでも行ける 君とならばどこへでも 【逃避行】 |
「おはようございます。吉継さん」 ゆっくり眼が開いて焦点が徐々にあっていくその瞬間が好きでベッドに座って覗き込むようにしてまだ寝ている彼の耳元に囁く。 「…普通に起こせ」 気だるそうにゆっくりと開く眼が嬉しくて思わず笑う。 「おはようございます」 額に口付けて確かめるように頭を撫でる。 「…為広、起きれない」 「このまま一日過ごしても、構わないんですが」 「出掛ける約束だったろ」 「覚えていますよ」 もう一度額に口付けてから体を起こした。 「何見ましょうか?何しましょうか?今日はなんでも言うことを聞きましょう」 「とりあえず、朝飯は?」 「パンにスクランブルエッグに焼いたベーコンとサラダ、よろしいですか?」 「おいしそうだね」 嬉しそうに言う彼を連れて居間へ向かう。 「デートって言っていいですか?」 「デート?」 トーストを頬張る彼に言う。 パンを咥えたまま言う彼はどことなく幼い。 「デート。間違いじゃないですよね?」 「まぁ、いいけど…」 「待ち合わせとか、しましょうか?どっかで」 「一緒の家から出るのにか?」 「どうですか?」 「一緒に出ればいいだろ?わざわざ外で待ち合わす意味もないし…お前がしたいなら、いいけど」 「ありがとうございます。じゃあ、駅前の時計台の下に10時に待ち合わせましょう?」 「わかった…」 少し押せば流されてくれる。 それは誰にでもそうなのかもしれないけれど、そういう優しさが嬉しいのだとこの人は分かっているのだろうか。 まぁ、仮にも恋人なのだからそれなりに思われているのだろうけれど、時折不安になることがあるのはきっと明確な言葉を貰ったことがないからだろう。 告げたのは俺で頷いてくれたけれど言葉は貰っていない。 「…広、為広」 ふっと呼ばれていたことに気が付いて視線を上げる。 「どうした?疲れてるんなら、今日止めるぞ?」 「なんでもないですよ」 「無理するなよ」 「無理くらいいくらでもして見せます。貴方が惚れてくださるならね?」 笑って言えば泣きそうな顔で俯かれた。 「吉継さん?俺はね、傍に居たいんですよ。そのためならなんでもします」 「馬鹿だな」 言って上げられた顔は笑っていた。 「食べたら下げて置いてください。俺は用意してきますから」 「為広」 「はい?」 「今日は敬語、やめろ」 「何故です?」 「…なんでも言うこと聞くんだろう?」 「そうでしたね。これは失礼いたしました」 「為広」 「でも、私はこれでも譲歩した方ですよ?」 前に一人称だけでも俺に戻せと言われた。 それを仕方なく受け入れたのは少し前のことだ。 仕方なく許したのは必死になって言われたからだ。 あそこまで必死だったのは今までに無いほどだったから。 「じゃあ、…いい」 俯く顔を上げて軽い音を立ててキスをする。 「俺もいい加減甘い。…今日だけ、だよ?」 「女にするみたいに機嫌とるな」 不機嫌そうに言われて心外だと苦笑する。 女にこんなに媚びることをしたことはない。 男なんて論外だ。 「違う。貴方の機嫌しか取りたくない」 唇を舐めて傍を離れた。 「…キス魔が」 呟かれた言葉は聴かなかったことにした。 「待たせたか?」 わざと時間をずらして出かけたので先についていた俺に吉継さんが近づく。 「今、来たところだよ」 笑って言えば少し眉間に皺がよった。 「少なくとも10分は待たせたはずだがな」 時計を見れば確かに約束の時間から10分ほどたっていた。 家を出た時間を考えれば間に合うかと思っていたけれど思った以上に焦らしてくれる。 「貴方を待つのは好きだからいいんだ」 「それにしてもお前…」 そう言って視線がやり場に困るように彷徨う。 格好がおかしかったのだろうか? 行く場所がそんなに改まった場所でないと思っていたからジャケットに薄手のマフラーを巻いている結構カジュアルな格好のはずだが。 目の前の彼は出掛けに着せた薄手のコートを羽織っていて細身のズボンが印象的だった。 「変?」 自分を見直してみても普通だと思うのだがどこかおかしいのだろうかと聞いてみる。 「変…っていうか…」 珍しく躊躇っている彼の顔に顔を近づける。 「近い」 一言で斬って捨てられるから笑ってしまった。 「行きましょうか?最初どうしましょう?買い物?映画?」 「言葉」 「行こうか。映画が先?買い物が先?」 「映画、何やってるのかわからない」 「じゃあ、先に買い物して雑誌でも見て決め…ようか」 思わず出そうになる敬語を何とか出さないように手を取って歩き出す。 「何で手を繋ぐんだ」 「デートでいい。と言ったでしょう?」 「言葉」 「今のは平気でしょ」 「人目が気になるから手を離せ」 「俺は気にならないから、いや」 「俺がいや」 「じゃあ、仕方ない」 笑って手を離せば少し不満そうな顔をされる。 「映画館、先にしようか」 「何で?」 「手を、繋いでいたいから」 そんなことを言って映画を先に見に行くことにした。 「何がいい?」 「適当に、…面白そうなの」 「難しいですよ。アクション?恋愛?」 「…言葉」 「恋愛じゃ男二人寒いかな」 流行のアクションを見ることにして、チケットを買う。 自分の分を払おうとする彼を制して先に二人分のチケット代を払ってしまう。 チケットを受け取って場所に向かうときにそっと耳元で囁く下手すると触れるほど近くで。 「今日はデートだと、言ったでしょ?」 ばっと耳を覆う姿が可愛くてキスしたくなる。 彼に言われたキス魔は間違いではなく。確かに自分はキスが好きなのだろう。 薄暗い席で隣の彼の手をずっと握りながら、映画の内容など少ししか入ってこない自分に少し呆れた。 たかが手を繋いでいるくらいで心臓が高鳴るなんて随分初心な反応をしていると自分で思う。 「おもしろかった?」 「…お前とは、二度と来ない」 見終わって聞けばそんなことを言われた。 「何故?」と聞けば赤面して俯かれた。 「吉継さん?」 「手」 「あぁ、いやでした?」 「ばかりが気になった…」 「意識しちゃいました?」 茶化すように言えばますます赤面して俯かれる。 どこの中学生だと思いながらも自分も赤くなってしまっただろう頬を手で隠して視線を下に向けた。 お昼に丁度いい時間になったからと約束だったファーストフードの店に向かう。 あまり好きではないから滅多に来ない店でメニューを見ながら考える。 レタス多いのがいいかなぁ… 「メガマックのセットとチーズバーガーのセットを」 考えていると吉継さんの声がオーダーを頼んでいた。 メガマック? メニューに大々的に載せられていた絵はとてもじゃないが食べれそうにないものだった。 これを彼が頼むわけがなく。 サイドメニューを頼みながらこちらを見たのはせめてもの情けかも知れない。 「俺はサラダで、あとコーヒーをアイスで」 「じゃあ、サラダ二つとアイスティー二つ」 「…吉継さん?」 「コーヒー、お前飲みすぎだろう?」 嫌がらせかと思えば彼なりの気遣いだったらしい。 頭半分ほど下にある彼に少し屈んで言えば目の前に居た店員の子と目が合った。 近すぎかと思って姿勢を正して代金を払う。 少し待つと品物が出てくる。 それを吉継さんが持つ前にとって奥にある席に向かった。 「誰が食べるんですか…これ」 少し嫌そうになったのはその大きさに呆れたからだ。 「お前以外に居ないだろう?」 「俺がこういうの苦手だって知っててやるんだから性質悪い」 「でも、これ一応罰ゲームだろ?」 「分かった。けど、夜覚えておけよ」 「さぁ、最近物忘れが多いからね。もう忘れたよ」 「思い出させて差し上げます」 開ける前から戦意喪失しそうだがなんとか開けて食べ始める。 こんな厚いのをどうやって食えというのか…。 「旨いか?」 「…好きじゃない」 「残さず食べろよ?」 「…分かってますよ」 やっとの思いで食べ終わると楽しそうに見ている彼の視線を感じた。 「頑張ったね」 そっと頭を撫でられた。 目を細めて撫でるのは彼の癖だ。 「生徒にもしてる?」 「さぁ?どうだったかな」 相変わらずに楽しそうに笑いながら彼がトレーを持って席を立つ。 されると言われなくて良かった彼の生徒にまで嫉妬しそうになった。 先を行く彼を追うように席をたった。 「次はどこに?」 「夕飯の買い物して帰ろうか、少し疲れた」 言った彼は確かに少し疲れてるようだった。 「色々楽しかったな、次は遊園地にでも行く?」 「貴方が許してくださるならね」 「言葉」 「敬語、嫌い?」 「…」 「…行こうか、今日は時間もあるしカレーでも作ろう?」 言いたくないならそれでいい。 ゆっくりでいいから彼を知っていければいい。 だから、昔のような理不尽な別れが来ないことを祈りながらそっと彼の隣を歩き出した。 終わり |
無駄に長くてすいません。 無用なところが長い気がします。そして途中で切れてる気がします。 待ち合わせの吉継さんは為さんに見惚れただけです(え) 敬語が嫌いなのは昔を思い出すからです。 そういえば現パロの吉継さんは目が悪いです。 目細めるのもそのためで本人気が付かなくて、為広が気付いたって設定があります。 どうでもいいですね。設定書き出してすいません…。 あと、どうでもいいですけど。映画館で為広さんは手を握ってただけです。 最初手にキスさせてたなんてそんなヨコシマなこと考えてません!! ていうか。為広さんがオープンすぎてどうかと思います。大人なんだから!! こんなんで良いのでしょうか?すいません。為さんが変態で…。 本当にすいません…。 前とか後とかの文章削ってしまって構いませんので、リクありがとうございました。 |
砂上の夢の恭様から頂いてしまいました! 無理やりに渡した魔女っこに文章付けていただいただけでも、感謝感激なのに、その後キリバン踏んで、続きまで書いて頂いてしまいました! 為吉〜vv 為ちん。良いなぁ〜。うん。(妙に一人納得) 大谷さんも可愛い〜可愛い〜か〜わ〜い〜い〜(しつこい) 本当、有難う御座います〜vv 20071109 |