自分がこんなふうになるなんて思ってもいなかった……


金色の世界





その日、行長は熊本城に遣いに行っていた……はず、だった。

「……遅い」

城主である清正は来るはずの行長が未だ姿を見せないことで、不機嫌だった。
今日はいつものように突然の訪問とは違い、正式な会談のため供を連れていないはずはない。
少しくらいのことなら問題など何もないはずなのだ。
それなのに、まだ来ない。

あまりにも遅いので先程出した迎えの者もまだ帰らない。

「何か、あったのか…?」

自分も迎えに行けばよかったと後悔していると、勢いよく襖が開かれた。
己の腹心の一人、庄林隼人が肩で息をして立っていた。

「隼人…」
「た、大変だぞ!小西殿が族に襲われた!!」
「なっ……!」
「随分と派手にやり合ったみてぇでよぉ…族も小西殿の家臣の奴らもみんな死んでやがった…」
「行長は!?」

焦りを隠せない清正は隼人に掴みかかり返答を促す。が、隼人は目を反らし黙り込んでしまった。

「おい、隼人!どうなんだよ!!あいつは…」
「………死体は見つかってねぇよ」
「そ…か」
ほっとして安堵の息を吐き出した清正だったが、次の言葉に顔から血の気が引いた。

「だが、行方がわからない…襲われた場所が場所でな、先日の豪雨でかなり足場が悪くなってたとこなんだ」
「………!」

清正は絶句した。
そこなら自分にも覚えがあったからだ。
そこは宇土と熊本を行き来するには必ず通らなければいけない所なのだが、如何せん常日頃から足場の不安定な山裾だった。
下は深い谷で、落ちたらまず無傷では済まないだろう。

「おそらくはあの谷に落ちたんだろうから今捜索隊を…っておい、待てよ!」
「……っ離せ!!俺が探しに行く!」

隼人の静止を振り切って、清正は飛び出した。
馬を連れ出し谷へと駆けて行く。
唖然としてそれを見ていた隼人には、行長が無事であるよう願うしかなかった。



「痛いわぁ………」

谷底で、行長は呟いた。

油断、していた。
まさかこんなことになるとは、夢にも思っていなかった。

いきなり山賊に教われ、足場の不安定な場所で戦い、その最中に己の足場が崩れこの有り様だ。
随分と気を失っていたらしく、日が西に傾いている。
なんとか身体を起こそうとしてみたが、何箇所も骨がやられているらしくまったく動かない。

「あかんなぁー……」

行かなければ、あいつが心配してるだろうから。
嗚呼、何故身体は動かないのだろうか。
瞼が重い。

「ねむ…い……んか、なぁ…?」

目の前が、暗い、暗い、真ぁっ暗。
嗚呼、己はここで死ぬのだろうか。

「……っ、い…やや…まだ、死にとうない…!」

涙で視界が霞んだ。


いきなり目の前に金色の世界が広がった。
それは、とても暖かく優しい色で。
とても、大好きな色。

「とらの、いろ…やぁ…」
「気がついたのか、この阿呆が」
「う…っさいなぁ…ちゅ、うか、くんの…おそ……いわ…」
「…悪かったな」




この状況で、まだ悪態をつける行長に感心しないでもなかったが、とりあえずは意識がはっきりしていることにほっとした。

「動かして大丈夫か?」
「ち…と、むり…かも…し、れん……っ!」
「無理するな。かなりひどい傷だ」

子供をあやすように優しく頭を撫でてやると安心したのか、行長は意識を手放した。


後から来るであろう家臣達を待ちながら、清正は眠っている行長を抱き抱えていた。

そして誓った。


絶対に守る、と。



(暖かく優しい金色の光)



(虎が傍にいてくれるから)



(僕は今、生きていられる)








終わり


佐々木様、リクありがとうございました!
不覚にもテスト期間をはさんでしまい、大変遅くなってしまいましたが、これでよかったでしょうか(汗)
佐々木様のみお持ち帰り可能です。
それでは、また感想やリクなどいただけると嬉しいです。




ガラクタの空-夢一夜-の晴雫棗さまから頂いちゃいました!
ネタが無いのでって言ってらしたので、こんなのは如何でしょう?と提案だけしたら…頂いちゃいましたよ!?
えええ!?良いんですかぁ!?と言いつつ。貰ってしまう佐々木。
二人とも可愛いですよね〜vv
素敵なお話に仕立てて頂き、有難う御座いました!

20071009