風塵相愛





 
大國湯前の細道。
 今、二人の男を前に羽黒組の舎弟が整列し、頭を下げていた。
「佐竹の兄ぃ、葛葉の兄ぃ、ありがとうございやした!」
「まぁそんなに畏まらんでもえぇ」
「いえ! 兄ぃ達のお陰で、あっしらはこうして立ち直れやした! 礼はし尽くしてもし切れねぇ!」
「と、言ってるが?」
 促す先には、唯一のカタギ、葛葉ライドウ。
 組の男臭さを、そよとも受けない清雅な美貌。
 口を開けば玲瓏たる声が響いた。
「喧嘩を仲裁しただけです。礼には及びません」
「その仲裁で、隣の組の奴らと戦争おっぱじめずに済んだんだぜ?」
 補佐の言葉を受けて、佐竹が頷く。
「それに恩を売られて只で返したとなったら、羽黒組の沽券に関わるってもんよ」
「ライドウ・・・・・・ここは素直に聞いておけ」
 書生は黒い毛並みをちらりと見て、組の者に頷いて見せる。
「そうや。素直が一番や」
 嘯く佐竹に、猫が鳴く。
 前を歩いていた佐竹は、振り返りざま、流し目を寄越した。
「社会見学に連れてったるわ」
 




 羽黒組一行に連れてこられたのは、深川の遊郭。
「引手茶屋云うて、風呂浴びる前に入らなあかん店やな」
 佐竹は言葉を濁したが、ようするに客と見世との仲介役だ。
「まぁ今日は初めてやし、未成年はここまでや」
 特別に座敷を設け、佐竹はライドウと差しで話す。
 組の者は、そのまま見世に行ったか、シマに戻ったか、気配はない。
「僕は佐竹さんと話す方が楽しいです」
 さらりと云う少年の服には、あの猫の毛が・・・・・・。
「一丁前に云うなぁ」
 喉を鳴らして、酒を酌み交わした。
 

「なぁ坊」
 杯をことりと置いて、佐竹はライドウを見つめる。
「お前、帽子はとらんのか?」
「えぇ」
「緊張しとるんか」
「いいえ。ただ、取る必要もないかと」
 意味を汲みかねて、佐竹は沈黙で待つ。
 だが、ライドウは曖昧に微笑むだけだ。
 
 いつ襲われてもいいように被ったままなのか。
 何か誓約に縛られているのか。
 ただの礼儀知らずなのか。
 それとも佐竹の前では取れないのか。

 佐竹は、ライドウを視線で招く。
 よろめきもしない白い足を見つめ、裾を掻いた。
 ライドウが崩れ落ち、佐竹にしなだれかかる。

「葛葉ぁ」

 
「今日はワシだけ見んかい」
「・・・・・・」
「帝都が気になるのはワシもいっしょや。抱えてるもんは違うてもな。いつ何が起こるかわからんのが今のご時世や」
「はい」

「でもな、今夜はそんなん全部抜きや。・・・・・・ここは深川。夢見るところや」

「忘れさせたる」
 ライドウの眼を、大きな手がゆっくりと覆った。
「ワシだけ見ぃ」
 瞼をゆっくり撫でる。
「ワシだけ感じ」
 胸の尖りを転がす。
「なぁ、葛葉ぁ」
 




 裸身を絡ませ、息は荒く。
 こみ上げる衝動は、長く穏やかに。
 今夜は、相手を奪い壊すのではない。
 隠している何かを掬い上げるための戯れだ。

 佐竹は、伸びやかな脚を持ち上げる前に、帽子の鍔に手を置き、待った。
 やがて白い手が男の指にそえられ、座敷の隅へと投げ捨てられる。


「恩は恩で返さなな」
 佐竹は腹の晒しを使い、ライドウの眼を隠す。
 次いで、残りの晒しで少年を後ろ手に縛り上げる。
 自由を奪われ、ライドウの肢体が跳ねたが、

「今日のお前は、葛葉やない。佐竹のもんや」

 書生に戻れ、と。
 それならば自由を奪われようと、否、これは自由を得るための前座だと。
 佐竹はやんわりと吹き込む。

「佐竹も、今夜だけはお前のもんになったる」

 口移しで酒を酌み交わし、紅を吸う。
「ずるい人だ」
「お前ほどあくどうないわ」
「お綺麗な顔をして?」
「・・・・・・そうや」
 くすぐったく笑って、淫靡な饗宴は始まる。



 ゆるやかに、止まることはなく、朝が来るまで。

 月の雫は、晒しに吸い込まれた。











梶浦様のコメント。 

 佐々木健さまより、キリリク2255(にーにーGOGO! 佐ライ)でしたv

 
うおー! 佐ライたまらん!
 佐竹えろい! ライドウ天然えろ!(?)
 超力はいろいろなシチュエーションを楽しめるから大好きだ!
 でも、やっぱり梶浦はえろく書けません。すみません佐々木さま(吐血)
 返却はいつでも受け付けておりますので(涙)嗚呼、こんなに素敵なキリリクなのに!
 
 書いている間、佐竹さんの関西弁と任侠の色気に悶え悩みました。ぐぁぁ難しい! いや、筆は進むのですが・・・・・・いいの? これでいいのー!? と自問自答してしまい。うっかり縛りプレイですよ(欲望に忠実v)
 「漢」の字も使いたかったのですが、雰囲気が変わるかなぁと思い自粛。でも、気分は(以下略)
 次に書くなら、大見世でいちゃいちゃさせたいなぁ、ククク。
  
 佐々木さま、そして読んで下さった皆様、ありがとうございました!


風塵・・・@風に吹き立つ塵。極めて軽いものの喩え。
     A俗世間。その営み。
     B乱世


「酔狂カルテ」の梶浦様から頂いちゃいました!
あまりキリバンにもならないような数字で…。
太っ腹です!
しかも、申告だけしてネット落ちしてました佐々木…。
本当スミマセン。
まさか佐ライ!!
兄貴が!!兄貴が!!
有難う御座いました!!