催涙雨
左近吉継
 






7月7日七夕。

折角の夏のイベントだったが、生憎の空模様。
梅雨時だから仕方が無いとは思うのだけれど、分厚い雨雲の上に瞬いている筈の星が見えなくて、吉継はがっかりした。


何故こんな時期に七夕なのだろう?
もう少し晴れ間の多い時期だって良いはずなのに。


「【催涙雨】というそうですよ」


ずっと空を眺めていた吉継の後ろから声が掛かり、弾かれるように振り向くと、雨の気配を纏った左近の姿が目に入る。


「お帰りなさい。左近さん」


雨粒が伝い落ちる窓から離れ、左近に飛びついた。




だいぶ慣れたとはいえ、やっぱり雨は好きになれない。
だけどそんな不安も左近さんの傍に居ればすっかり無くなる。


そんな吉継の思いが伝わったのか、飛びついてきた吉継を優しく包み込んだ。


「ただいま帰りました」










◇     ◇     ◇     ◇     ◇
 








食事をしながら、先程左近が言った言葉を思い出し尋ねる。


「さっき…さいるいうって言ってましたよね?」
「ああ、催涙雨ですか」


だし巻き玉子を切り分ける箸を止めて左近が吉継を見る。


「どういう意味ですか?」


少し身を乗り出す吉継に優しい笑みを浮かべ、視線を少しだけ小降りになった外へと向けた。


「催涙雨とは、彦星と織姫が流す涙だそうですよ」
「…涙?」


左近の言葉に吉継も外に視線を向ける。
雨雲が詰める空は月の明かりさえ通さず静かに細かな雨を落とし続けていた。
彦星と織姫の涙―――


「…離ればなれが悲しいから?」


自業自得かもしれないけれど、他の者の意思にて引き裂かれてしまった二人。
悲しくない筈が無い。


「それもあるかもしれませんが、やっと会えた事を喜んでいるのかもしれませんよ?」


喜びの涙かもしれない。という左近に吉継は瞳を丸くする。
そんな顔を見て苦笑を浮かべた。


「まあ、何となく思っただけですけどね」
「そうですよね。今日は折角会える日だから、悲しんでばかりいられないですよね」





今日は特別な日だから―――






少しだけ雨が好きになれたかもしれない。






「来月の第一日曜日は七夕祭りに行きませんか?」
「行きます!」


旧暦の七夕。

その頃はもう泣かずに笑った彦星と織姫が居るかもしれない。









終わろ
 
今日雨降ってないよ!!!
朝は降ったけど。

20090707   佐々木健