冬のある日、君と
正則吉継








Q、擽ったくて、肩を竦める瞬間っていつ?





A、大好きな人と一緒にいて「あぁ…今、この人もきっと同じ気持ちかも」って思った時。







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本屋で買い込んだ資料は、思った以上の量になっていたらしい。
出掛ける前から荷物持ちを甘えていたものの、正則の手にぶら下がる紙袋の大きさに、やっぱり申し訳ない気持ちが沸き上がってしまう。

「…ごめんね、正則。どこかでお茶でも飲もうか?」

手持ち無沙汰な両手を握りしめ、窺うように視線をあげる。
正則は少しだけ考える素振りをみせたが、ゆっくりした足取りは五歩を数えても止まらない。
ただ、ほんの少し眉を寄せて、首を覆うタートルネックを摘み、

「うむぅ…休憩するんは、家に帰ってからのがえぇのぉ…」

どこも人混みと暖房で熱い、と何となくげんなりした表情を浮かべるだけだ。

(…ウソツキ)

人混みや暖房が苦手なのは、正則じゃないのに。
優しい嘘に、胸の奥がきゅうっとなる。

「家に帰ったら…紅茶とカフェオレとココア、どれが飲みたい?」
「ん?うむぅ〜…どれも吉継と一緒に飲めば旨いしのぉ」

うんうんと唸る姿はクマみたいだ。

「ふふ…じゃあ、家に着くまで考えておいてね?」

片方だけ空いている大きな手を見つめ、こっそりと踏み出す足を並べてみる。
正則の靴の横に一回り近く小さな自分の右足がくっつく姿は、何だかちょっといじらしい。

(…もう少し、甘えちゃおうかな)

息を詰めて、そっと正則の手を握る。

「うおっ!?」
冷えた指に驚いたのか、大袈裟な位肩を揺らした正則が、戸惑いを含んだ瞳で見下ろしてきた。

「よ、吉継、手が…」
「…うん。このまま帰ろ?」

いつもは恥ずかしくて出来ないけれど、今日は少しだけ本音を口にしてみたい。

「ダメ?」
「―――!」

上目遣いで乞うと、痛い位の強さで手の平に返事が返ってきた。

(冬で良かった…)

いつの間にか、お互いの掌の温もりが一つの温度になっているのがわかる。
身体の真ん中がふわふわするのを感じ、吉継はそっと肩を揺らした。

















終わり。

短い上に当初の小物もフェードアウトしました。


20090307 司岐望