記念日 清正行長 |
「どうして、二人っきりで鍋やねん」 リビングのこたつの真ん中には熱い湯気を上げるキムチ鍋を挟み、行長が煙の向こうの清正に問いかけた。 「二人で鍋を食べてはいけないという決まりはないだろう?」 行長のこの質問は実は何度目かであって、清正の答えも毎回同じであった。 「せやけど、鍋っちゅうもんは皆でわいわい突いた方が美味いやんか」 これも本日数度目。 「今日は正則も吉継も出掛けてていないだろ」 同じくこれも数度目。 行長がなぜここまで皆で鍋というのに拘るのかというと、それは鍋だと必然的に野菜を摂らされるから。 ここで好き嫌いのない正則(胡瓜除く)と野菜しか食べない吉継が居ればあまり野菜を食べずに済む。そんな算段だった。 「それやったら、他にも人居んねんから…」 「駄目だ」 清正は誰かを呼ぶつもりは毛頭なかった。 実は正則と吉継が出掛けているのにも訳があった。 清正が頼んで今日は出掛けてもらったのである。 本日、清正にとってかなり大切な記念日だったりする。 その記念日とは…【二人が一緒に暮らし始めた記念日】だ。 清正と行長は付き合いは長いが、一緒に暮らし始めたのは今からちょうど一年前。 二人が出会ったのは清正17歳。行長23歳の時だった。 清正が定食屋を営む母の手伝いをしていた時、メニューの焼肉定食に釣られてやってきた行長。 そんな出会いだ。 そして色んな事があり…今に至る。 …説明を省きすぎた。 まあ何と無く付き合い始め、建築士を目指した清正に親戚の秀吉夫妻がマンションを建てる事になり、清正に依頼がきて今のマンションが出来上がった。 このマンションも清正は行長と一緒に住む前提でかなり自分の趣味に沿った造りになっている。 そうして、出来上がったマンションへ行長を連れて来れば、行長も一目で気に入ったらしいのだが…何故か行長は清正の部屋の上の階に部屋を借りた。 この出来事、今となっては「そんな事もあったな」と良い思い出になっているが、あの頃の清正にとってはかなり悲しい出来事であった。 そうして色んな事があって、清正は行長との同棲に成功したのだった。 同棲のきっかけともなったのは、行長の食生活。 朝:コーヒー。昼:焼肉定食等の外食。夜:外食又はコンビニ弁当。という食生活の悪さに清正が流石にこれはいけないと思って大して振るえない腕を掛け料理を作った。 そうして出来上がったのは微妙な出来の肉じゃがで、行長の感想も「微妙」の一言で、それからも清正は隣の料理上手な正則に習ったりして料理を作ってはみるのだが、これまた微妙の連続だった。ちなみに母には恥ずかしくて習えなかった。 そんな折、行長が面倒臭そうに夕食を作ってくれた。 清正が好きな唐揚げと勢いで頼んだオムライス。 行長は料理が出来ないと思っていたから、これらの料理には驚いた。そして、食べてみて更に驚いた。 「…美味い」 「せやろ」 自信満々な声音だったけれど、その表情は少し照れくさそうにしていて、そんな行長に清正はまた惚れ直してしまったりもした。 そして、行長の食生活はどうなったかというと、多少は良くなったような気がするが、やはり野菜嫌いはなかなか治らないらしく、今日も同棲したきっかけを思い出した清正は初心に戻って行長の食生活を見直そうと鍋にしたのである。 更に記念日であるから、二人きりに拘った。 いい加減誰かを呼ぶことを諦めた行長が箸を持ち、鍋をつつき始め、少し窺うように清正を見る。 「なあ、これ出汁もお前が作ったん?」 「いや、キムチ鍋の素…」 「せやったら安心やな」 何とも失礼極まりないが、1年経っても清正の料理の腕は大して上がらなかったのだから仕方がない。 「明日はお前が作れよ」 「あ?面倒やなぁ」 行長の面倒くさがりも相変わらずで、 「唐揚げが食いたい」 「清正はホンマそれ好きやなぁ」 清正の唐揚げ好きも相変わらず。 「しゃあない。明日は腕奮ってやるさかい。残業とかしたらしばくで」 「楽しみだな」 「任しとき」 相変わらずな二人の相変わらずな日常。 終わり |
…すみません。 何だか意味の解らない話に…。 20090222 佐々木健 |