面倒な一日
秀忠→利勝








年に何度かイベントめいた日はあるけども、2月14日という日は、本当に仕事にならないトップ3に入ると思う。

同僚の酒井は気持ち洒落たネクタイを身につけ、朝からそわそわと落ち着かない様子だし、青山に至っては、きっかけ作りとでも思っているのか、些細な用事を秘書課の華達に頼んでは爽やかな笑顔を振り撒く始末だ。

(…そんな気力があるなら、株価や利益を上げる知恵を出せというんだ)

堅調な企業として名高い徳川だが、さすがにこの不況の風は強く感じる。
各地区の営業状況に目を通し、来週行われる部店長会議の方向性を再確認するなら、温めていた内部改革案を提示する時期かもしれない。
パソコンの画面をロックすると、土井利勝は空になったカップを手に立ち上がった。

「お!やっとくれる気になったのか?」
「―――」

背中に投げられた無駄に明るい声音に、思わず溜め息が出る。
親の心子知らずとか言うが、この場合はどう言うのが適当なのか。
眼鏡を中指で押し上げ、利勝が若き二代目を見つめると、勘違いをしたらしい秀忠が満面の笑みを浮かべて横に並ぶ。

「なんだ、利勝。毎年思うが、本当にお前は恥ずかしがり屋だな。朝からこの時間まで焦らしたんだ。遠慮せずに渡してごらん?」

ん?と首を傾げる秀忠は、利勝の冷ややかな視線の意味を理解していないらしい。

「何も渡すものはありませんよ。それよりも、さっさと仕事して下さい。来週の会議の資料、しっかりと読み込んでもらいますから」
「はぁ?無駄だろ?どうせ資料読んだ所で、役に立つ数字じゃないって」

やる気の見えない態度に頭が痛くなる。
この男の選択で、大御所が築いた大企業が右にも左にも動くかと思うとどうにもやりきれない。

「社長――」
「大丈夫。俺とお前が居ればこっから先も無敵だ」
「―――」

どこからその自信が湧いてくるのか。
呆れたついでに二度目の溜め息をつくと、腕を組んでいた秀忠がおもむろにスーツのポケットから小さな塊を取り出した。

「仕方ないな、利勝は。そんなに不安がるなよ?ほら、俺の愛は揺るがないって」

可愛らしくラッピングされた菓子と噛み合わない台詞に、思わず眉根が寄る。

「さぁ!利勝の愛も俺に見せて――」
「わかりました!見たいなら、部屋で待ってて下さい!」

これ以上無駄な会話は意味がない。
ぐい、と秀忠の背を押して部屋に押し込んだ利勝は、空のままのカップを机に置き、三度目の溜め息を飲み込んだ。





「あぁ…やっぱり仕事にならない」













後ほど社長室に届けられたのは、堆く積まれた決済の束でした。













終わり。

酒井忠世と青山忠俊も名前だけ登場。

最初はもっとお馬鹿なノリで、タイトルはショコラティエってなってた。
チョコレート職人。
利勝の為に俺は愛を作ります。

20090214   司岐望


いい加減様々なイベントをキヨコニ・マサヨシで書いたため。何書く?
ってなったのです。
そこで佐々木がすかさず「秀忠利勝でよろしく」とのたまった☆
やったね☆
秀忠→利勝は永遠の一方通行!