奇跡は瞬く間に
清正行長







年末年始。
普段は実家に帰省する行長が、今年は仕事の都合で残ると言う。
受験に追われた去年と違い、長い時間を一緒に過ごせる幸いに、清正はほんの少し浮足立って行長の後ろ姿を見つめた。








◇     ◇     ◇     ◇     ◇










「うー…っ、寒い〜っ」

部屋につくなりコートも脱がず、行長はありとあらゆる暖房を点け、猫の仔のように背中を丸める。

「はよ暖まらんかな〜…うー…」

下手をすれば、もぞもぞと火燵に潜り込みそうだ。
初詣で冷えた身体はすぐに暖まりそうにもなくて、清正はため息を零してキッチンを指差した。

「コーヒー、勝手に煎れるぞ」

幾度か訪れたことのある行長の部屋。
ちょっと待ってろ、とダウンコートを放り投げると、行長はもそりと腕を通して肩を竦める。

「なぁ、濃いめにして」
「あぁ」

請われるままに煎れたコーヒーから、香ばしい香りが立ち上る。
狭い火燵だ。隣に座ると、行長の足が自然とぶつかった。

「あ、せや。知っとる?今日、閏秒ってのがあんねん」
「閏秒?」

聞き慣れない言葉に首を傾げると、行長が子供のように笑みを浮かべる。

「1月1日、午前8時59分60秒」
「は?」
「時刻の修正って言うん?ちょびっと長いんや」

物知りやろ、と屈託なく笑う行長の足が、清正の足を蹴る。

「絶対に録音しよ。邪魔したらあかんで」
「しねぇよ…俺は、少しでも、一緒に居られるのは、悪くないと思うし」

思わず本音を呟く。
行長が、再び足を蹴った。

「――コーヒーが濃いめやった訳、聞きたい?」
「――…っ」

上目遣いで見つめられ、思わず喉が鳴る。
布団の中で行長の爪先が妖しく動き、弱い内股を器用に撫でてきた。

「おい…っ」

足首を押さえ付け、慌てて睨み付ける。
コーヒーを飲み干した行長が、再び肩を竦めてみせた。

「何やの。据え膳やと思わへんなら、もう寝るし」

つまらない、と言わんばかりの口調に、清正の指に力が篭る。
擽るようにふくらはぎに掌を這わせ、乱暴な所作で布団を剥ぐと、行長がびくりと身体を震わせた。

「うっわ、寒っ」
「…今の内だ」
「アホ…ぁ、ふ…ん…っ」

覆い被さるような体勢で、苦みの残る口腔を蹂躙する。
逃げる舌を柔らかく追い掛けると、捕まえていた足の先が宙を掻くような仕種を見せた――。








◇     ◇     ◇     ◇     ◇








「うぎゃーっ!9時半!」
「―――」

録音は出来なかったらしい。






















終わり

半実話ww

20090102 司岐望