明けましておめでとう
高虎秀長










12月29日―――

今年最後の診療日。
それももう後一時間で終えようとしている。

今年…今年こそ…。

「斉藤さん。斉藤雄二さん」
「はい」

ケホケホと渇いた咳をする患者に薬の飲み方の説明をしていく。
今日でもう休診となってしまうから、診察や投薬に訪れる人数がかなり多い。
慌ただしく薬の準備をしていたら、あっという間に診療時間を過ぎていた。






◇     ◇     ◇     ◇     ◇





「今年も一年間お疲れ様でした」

大部分の照明を落とした院内で、この豊臣医院の院長である秀長先生が看護師や事務員に一年間の労を労う。

「高虎も一年間お疲れ様でした」
「秀長先生もお疲れ様でした」
「有り難うございます」

にっこりと微笑まれ、頬が熱くなる。






◇     ◇     ◇     ◇     ◇





皆が帰ったのを確認すると、まだ診察室で事後処理をする秀長先生に近付く。

「秀長先生…」
「あ、高虎?どうしたんですか?」

クルリと椅子を回転させて振り返る姿に、用意していた言葉が出てこなくなってしまう。

「高虎?」

小首を傾げる姿が幼く見える。

「あ、あの!明後日…お、大晦日の日は忙しいですか?」
「大晦日ですか?」

しまった…こんな聞き方はしない。と決めていたのに!大晦日に忙しくない人なんてそうそう居ないから…。

「特に用事は無いですよ」
「え?」
「年末年始はゴロゴロしてみようかと思ってたんで」

今年は兄夫婦は海外旅行に行っていて、年始の挨拶も無いんですよ。と笑う秀長先生に、心臓が早鳴りしてしまう。
これは、チャンス?

「そ、それなら!俺…私と除夜の鐘を突きに行きませんか!?」
「高虎と除夜の鐘を?」

…そうだよな…何が楽しくて職場のしかも男と除夜の鐘を突きに行くんだか。だよな…。

「楽しそうですねぇ。除夜の鐘突いてみたかったんですよね」
「良いんですか!?」
「高虎こそ良いんですか?他に誘う人も居るでしょうに」
「いえ、是非秀長先生と行きたかったんです」

どうしよう?秀長先生と年越しが出来る!
いまにも飛びはねたい位に嬉しい。

「ふふ…高虎は変わってますねぇ」

大晦日の約束を取り付け、病院を出てから、嬉しさが爆発して、「やったー!」と万歳した所を犬を散歩させるおばさんに見られてしまった…。





◇     ◇     ◇     ◇     ◇







12月31日大晦日―――


秀長先生を迎えに行くと、玄関の外で立って待っていた。

「すみません。寒かったですよね…」
「いえ、丁度出てきたところですよ」

恋人同士ならここで抱き締めてしまうんだろうけど、まだそんな関係じゃないから、助手席のドアを開け乗ってもらうだけが精一杯だった。
でも、今日はずっと一緒に過ごせる事に浮かれる気持ちが勝った。
今夜行く神社へと向かう途中で美味しいと評判の蕎麦屋で早めの年越し蕎麦を食べる。

「美味しいですね〜」
「そうですね」

良かった。ちゃんとリサーチしておいて!
テーブルの下で小さくガッツポーズをする。






神社は実は恋愛成就でも人気のある神社で、だいぶ人が集まってきていた。
自然と秀長先生との距離が近くなる。
どうしよう!?このまま肩を抱いても良いだろうか?
だ、ダメだよな…。
それでも段々と人が増え、どんどんと距離が近くなってくる。

「秀長先生…大丈夫ですか?」
「やっぱり人多いですねぇ。高虎は背が高いから、ちょっと羨ましいです」

すぐ近くで見上げてくる秀長先生に心臓が跳ね上がった。

「じゃ、じゃあ…肩車しましょうか!?」
「か、肩車?」

ああああああああ!何を言ってるんだ自分は!?

「あ、すみ…」
「ぷっふふふ…面白い事を言いますね…」

冗談として受け取られたみたいだ…。

「でも、見晴らし良さそうですね」

今度お願いしますね。と言われて、また浮かれてしまいそうだった。


ゴーン…ゴーン…。


除夜の鐘が始まる。
暫くすると自分たちの番が回ってきた。


ゴーン…。


鐘を突いた秀長先生が晴々とした笑顔で戻ってくる。
除夜の鐘は煩悩を祓う為というけれど、俺は全く祓えそうになかった。
だけど、最愛の秀長先生と年明けを迎えられる事が嬉しかった。






除夜の鐘も終わり、周りでカウントダウンが起こる。


3・2・1…。


「明けましておめでとう。高虎」
「明けましておめでとうございます…秀長先生」


今年もよろしくお願いします。
二人で笑い合った。















終わり。

明けましておめでとうございます。
本年も演劇集団SPACE GANGをよろしくお願い致します!

患者の斉藤雄二さんはふと思いついた名前ですww

20090101   佐々木健