いつも一緒に
忠勝×直政









忠勝は優しい。
困った顔をしながらも、最後には俺のワガママを聞いてくれる。



でもね、本当はいつも不安なんだ。
その呆れ顔が。
その溜息が。
その細められた瞳が。
本当は、面倒だから俺のワガママを聞いてごまかそうとしてるんじゃないか…って。




そんな事、出来る人じゃないって知ってるつもりだけど、一人でいるとふと考えちゃう時がある。





だから、お願い。


矛盾してるかもしれないけれど。


いつも、俺と一緒にいて。









◇     ◇     ◇     ◇     ◇








「遅い〜っ」

バタバタと足を動かしながら、クッションに顔を埋める。
今日はクリスマス・イヴだから、早く帰ってきてね☆と、何度も念を押したのに。

「もー…一人で待つの、苦手」

つまらない、と思わず唇を尖らせる。
勝手知ったる忠勝の家。
稲ちゃんと協力して、今年は庭のデコレーションだって張り切り、料理も忠勝好みの和風を取り入れた、特製創作料理にしてみたのに。

「まだかなぁ…」

醤油ベースの骨付きチキンは、熱々を食べて欲しいからまだオーブンの中。
帰って来たら、急いで用意してあげたい。

「―――あ」

隣の家の犬が、一声だけ吠えるのが聞こえた。
尻尾がくるんとした可愛い豆芝のくせに、とにかく負けん気が強くて笑っちゃう。
しかも、ライバルだと思っているのが――

「帰ってきた!」

カチャリ、と玄関の鍵が開く音に飛び起きる。
パタパタとリビングを駆け、待ちくたびれて膨らみすぎた気持ちを表すように腕を広げる。

「直…っ!」
「お帰りなさーいっ!忠勝、また吠えられてたね☆」

ぎゅう〜っと首に抱き着いて、直立不動の頬に小鳥みたいなキスを落とす。
冷えた頬っぺたは、忠勝が寒い中を黙々と歩いてきた無口な証拠。
嬉しくて、早く暖めてあげたくて、俺はもう一度唇を落とすと、

「ね、ご飯すぐ食べる?それとも、寒かったから、お風呂にする?だったら一緒に――」
「お、おい!こら、飯に決まってるだろう!ケーキ屋にも寄ってきたんだから!」

最後まで言わせない慌てっぷりでぐいぐい引き離され、可愛いらしいピンク色の紙袋を渡される。
覗いてみれば、何だか見覚えのある店のロゴ。

「…これ、わざわざ買いに行ったの?」

不思議そうに思わず首を傾げてしまったのは、この店が俺の仕事場の近くだからって事じゃなくて。

「まぁ、その、ついでだ…ほら」
「?」

ゴニョゴニョ口ごもった忠勝が、俺と目を合わせないように視線を逸らしながら、少し小さめの紙袋を差し出す。

「そういえば、持ってないようだと思ってだな…」

忠勝から初めて物を貰う感動に、俺の心臓がぎゅうっとなる。

「開けて良いの?」
「あぁ」

断りを入れ、華奢なリボンをするりと外す。

「あ――」

中から現れたのは、細身の腕時計。
俺の唇から漏れた小さな声に、忠勝が心配そうな表情を見せた。

「気に入らなければ、返品出来るそうだが…」
「ダメ!ヤダ!返さない!」

胸元に引き寄せ首を振り、泣きそうになる顔を隠すように忠勝の胸に押し付ける。

「どーしよ…っ、俺、今、目茶苦茶嬉しい…っ!」
「―――」

遠回りしてまで、忠勝が俺のために買ってくれたこと。
俺の何気ない日常を、忠勝が気にしてくれてたこと。
全部が愛しくて、身体から想いが溢れてきそうになる。

「忠勝、ありがとう…っ」








鼻声になった俺の感謝の言葉に、忠勝が髪を撫でて返事をくれた。








俺の左手首から、不安が消えて行く音がした。















終わり

本当はキヨコニのクリスマスを書いていたのですが、佐々木がリタイアしまして、司岐がタダナオ書いてくれたよ!
忠勝が買ってきたケーキはファンシー酒井のお店です☆
現代版の奴らが買うケーキは大抵酒井作w

20081224 司岐望