ただいま
清正×行長





急遽クライアントから設計の変更を受け、思わぬ遅くまでの残業となってしまった清正は日付が変わる直前に自室へと帰り着いた。
行長へは『遅くなる』の一言しかメールを送っていない。
キリの良いところで切り上げるつもりでいたのだが、集中してしまったせいか、こんな時間になってしまった。





玄関を開けると、リビングからテレビの音が聞こえる。
キッチンのテーブルには食事の用意がされていた。

清正の好物の唐揚げ。

しかし、一人分にしてはかなり多い。

(アイツ…食べてないのか?)

リビングのテレビはついているものの、行長の姿は見えず、いぶかしく思いながらリビングへ足を踏み入れると、ソファに埋まる様に行長が転がって眠っていた。

(俺を待っててくれたのか…)

普段清正の前では自由奔放に振る舞う行長だったが、実にいじらしい面も持っている。
そんなところも清正を惹き付けて止まない。
ソファの前に座り、顔を覗き込むが、目を覚ます気配はなく、清正は行長の頬に掛る髪を後ろへと流し、

「ただいま」

唇には届かないから、頬にキスを落とした。






ソファで眠る行長にブランケットを掛け、用意してくれた食事をとる。
起こそうかともおもったが、行長も連日の残業で疲れている事は知っていたので、自発的に目を覚まさなければ寝かせておく事にした。
食事を終え、風呂を済ませて出てきても、行長は眠っていたので、起こさない様にそっと抱き上げ、寝室へと向かう。
薄く開かれた唇に口付けを落としたい衝動に駆られるが、流石に目を覚まさせてしまうであろうから、我慢した。
行長をベッドに横たえ、自らもベッドに入ると、行長がすりすりと寄って来る。
そこで漸く目が覚めたらしい。
完全に開かない瞳で、清正を見つめた。

「う…にゅ?…清正帰っとったん?」
「ああ、ちゃんと連絡すれば良かったな…」

先に休んでくれとメールしていれば、と言外に含めれば、まだ寝惚けたままの行長が首を振る。

「俺が勝手に待っとっただけやし……あれ?飯は?」
「さっき頂いた。お前もまだだったろ?」
「ん〜…食おうかな…」

それを聞いて清正が身を起こす。

「?…清正は寝とってエエよ?」
「いや、付き合わせてもらう。作ってもらった礼をしなければな」






作ってあった味噌汁を温め直し、飯をよそってやると、トロンとしたままの目の行長はもそもそと食べ始めた。

「…――」
「眠いのか?」
「んー…口が動かへんだけ…」
「(子供かよ…)ほら、飯粒ついてるぞ」
「ん…どこ…?」

見当違いの場所に手を当てる姿に思わず笑みが上る。

「違う。そっちじゃ…ほら」
「ん」

手を伸ばし口端に付いた米粒を取る。
それをそのまま口に運ぶ清正に行長は顔が熱くなり、下にうつ向いた。

「〜〜恥ずかしい奴…」
「もったいないだろ」

見せ付ける為も含まれていたが、至極全うな事を言うと、返す言葉が見付からない行長がジト目で睨む。

「う〜…せや、言い忘れとった」
「?」

何か伝言でもあったのであろうか?

「…おかえり」

一緒に住んでいるからこその会話。
気恥ずかしいのか、目を合わさず言う行長に笑みが溢れる。

「ああ、ただいま」






終わり


新婚さんみたいなキヨコニ(笑)
司岐がラブい話が読みたい!と騒いでいたので、のそのそ書いてみた。
無駄にラブいな。

20070518   佐々木健