寒い朝には 正則×吉継(ちょっとだけキヨコニ) |
とある寒いお休みの日。 正則はいつもより少し遅い時間に目が覚めた。 腕の中には吉継が寄り添う様に眠っている。 寒いし、学校は休みだし、吉継も寝てるから、あともうちょっとだけ惰眠を貪ろう。 「(至福の時間じゃあ…☆)」 もぞもぞと潜る正則。 でも、そこはやっぱり正則。 多少の我慢は難しく。 「…ん、うん…?んん?」 正則の手が、ここぞとばかりに動き出したぞ!? 吉継の背から腰にかけて手を滑らせる。 もう少しで、お…。 「…正則…この手は何かな?」 ぎゅう☆ 「イッ…っ!」 躾がわりに、抓られました。 目を覚ました吉継はベッドヘッドに置かれた目覚まし時計を手に取り、時間を確認する。 「まったく…今何時…10時半か…起き…」 吉継が起き上がろうとするのを引き留め、正則が覆い被さった。 「もうちょっとだけエエじゃろ」 つねられた手は痛かったけど、そんなのは慣れっこ☆ 吉継と一緒に居られる事の方が大事。 ついでに、もうちょっとイチャイチャ出来たら、なおハッピー♪ 正則の提案に、吉継は考え込む。 寒いし、特に用事は無いし…。 「…ん〜」 「んで、この体勢じゃったら、やっぱこうじゃろ」 おはようのチュ〜をと思い、顔を近付け、もう少しで触れる。そんな時。 ぐう〜きゅるる。 「…ぷっふふふ…」 「〜〜なんで、こんな時にこの腹は鳴るんじゃ〜!」 嘆く正則と笑いが止まらない吉継。 「くっ…とにかく、ご飯食べよ?」 「嫌じゃ!吉継を食うんじゃ」 駄々を捏ねるが、その間も正則の腹は鳴ってたり。 「それじゃお腹は膨らまないって、作ってあげるから」 「う〜…ご飯食べる…」 肩を落とす正則の横を、吉継が滑るようにベッドを降りる。 余りのヘコミっぷりに「キス位は…」とも思いかけたが、うっかり流され気味だった先程の空気を考えると、それこそ丸ごと食べられてしまうに違いない。 「(うん。躾は肝心!)」 よし、と小さく気合いを入れる吉継を、枕を抱いた正則が不思議そうに見上げる。 「パンが良い?ご飯が良い?」 「…吉継が、食いたい方でえぇ…」 ぐうぅ。 早く満たさねば、飢え死にしそうな感じだ。 「ふふっ。なら、パンにするね」 ガウンを羽織った吉継、笑みを浮かべて退室デス☆ 冷蔵庫の中を見て、昨日の残りのローストビーフとレタス、卵、チーズを取りだし、ローストビーフのクロワッサンサンド、玉子サンドを作っていく。 ついでに海草サラダも。 作ってる間に、正則もおきてきて、席に着いて吉継の姿を眺めている。 「(吉継がワシの為に料理してくれとる…幸せじゃ〜)」 正則が起きてきた事を確認すると、手を止めて振り返った。 「コーヒーか紅茶、カフェオレとどれが良い?」 「ん〜カフェオレかの」 返答に満足そうに微笑むと、濃い目のコーヒーとミルクを用意する。 「もうちょっとで出来るから」 「おう。(しかし、もったいない事したのぅ。なんとなくじゃが、あの時吉継流され掛っておったよな?……本当ワシの腹の馬鹿!)」 幸せだけど、後悔中の正則。 へにゃり、と机に頬っぺたをつけて、低レベルな恨み事を思うものの、相手は自分の腹の虫。喧嘩にもならない虚しさを、一体どこにぶつければ良いのやら。 「うむ〜」 「先にカフェオレ出そうか?」 「う〜…」 「はい、お待たせ…って、 眉間のシワ、清正みたいだよ?」 「む?」 さらりと吉継が口にした失礼な言葉に、正則の瞳が輝く。 「そうじゃ!清正じゃ!」 「うわっ!」 急に顔を上げた正則に、吉継が悲鳴を上げる。 「もう!人がモノ持ってる時、急に変な動きしないの!」 あと数センチで、カフェオレボゥルに引っ掛かる所を回避した吉継が、小さく頬を膨らませる。 しかし、愛らしい新妻(正則的願望)に叱られた正則は、むしろ嬉しそうで。 「さぁ、飯じゃ!」 運ばれてきたクロワッサンサンドはもちろん美味しそうで、お腹の減った正則はすぐにかじりつきたく思うが、吉継が席に着くまでウズウズと待つ。 「先に食べてて良かったのに」 「それじゃあ、作ってくれた吉継に失礼じゃ」 正則、ちゃんと待てが出来る子です☆ それに嬉しそうに微笑み吉継も席に座った。 「じゃあ、食べよっか」 二人で手を合わせ「いただきます」と食べ始めた。 サンドウィッチにかぶりつきながら、カフェオレボウルを手で包み飲む吉継を見る。 上唇に付いたカフェオレを舐め取る舌が覗き、正則は煽られる気持になった。 ドキドキしながらも、正則の為に沢山作ってくれたサンドウィッチを味わいながら次々に平らげていく。 先に食事を済ませた吉継が、正則を眺めながら幸せそうに微笑んだ。 やっぱり、誰かに食べてもらえるって良いよね。 柔らかく瞳を細める吉継に気付き、正則が締まりなく笑みを浮かべる。 ゴクゴクと、喉を鳴らしてカフェオレを飲み干すと、正則は満足そうに手を合わせた。 「ご馳走さん!美味かった!」 「良かった。泣き虫は大人しくなった?」 「これで大人しくならんかったら、大問題じゃ」 何しろ、吉継手製の御飯なんじゃから、と真剣に頷く。 そして。 「ワシ、片付けたら、ちょっと出掛けるけど、心配せんでいいからな?特に、浮気の心配は無用じゃ」 「そんな心配しないよ。でも、どこ行くの?」 「うむ。ちょっと清正の所」 「……」 挙がった名前に、きっとロクな内容ではない事を感じる吉継。 正解です。 ピンポーン♪ 正則は203号室のインターフォンを鳴らすが、応答無し。 「出掛けたんかの?」 ピンポーン♪ やはり反応無し。 「じゃコレが最後じゃ」 ピンポーン♪ やはり出掛けたかと思い、部屋に戻ろうとした所で扉が開いた。 「…正則か…どうした?」 上半身裸で、下はスウェットといういでたちで、髪は少々乱れ気味。肌は少し汗ばんでいる。 表情は不機嫌そうだった。 「おお、居ったんか。ちと相談があっての」 正則は清正の様子を気にもとめずに笑顔をみせた。 「…相談…」 「おう!」 悪気の無い笑顔を見た、清正の眉間にシワが寄る――若干、気温が下がったのは気の所為か。 正則は、照れたように頭を掻くと、 「いや、少しばかりな?今後の、吉継との明るい未来についてっちゅうか、まぁ、その…玄関先で話す内容でもないんじゃが…」 ちらり、と中を見遣る。 しかし、清正はゆっくりと腕を組み、読めない表情で玄関の壁に裸の背を預けるばかり。 上がらせろと言うのは簡単だが、退く気のなさそうな清正に、強く出るのは如何なものか。 「(まぁ、聞くだけじゃからな)」 折角気張って来たのだから、やはり答えを知りたい正則。 場所の善し悪しは、智恵やコツの吸収には差し障り無いだろう。 うむ、と一人頷いて、半眼の清正に向き直る。 「のぅ、清正。ここぞ!って時に鳴る腹の虫を止めるには、どうしたらいいんじゃろうな?」 「――は?」 「じゃから、腹の虫じゃ!いや〜こう…吉継とな?今朝、布団の中で良い雰囲気になったんじゃが、ぎゅっと抱きしめて、吉継もワシの背に腕を…こう、ぎゅっとしてだ、もぅ、トロトロの接吻してくれ!ってな感じになっていたんじゃが、その瞬間、ワシの腹の虫が鳴きおって、雰囲気台なしじゃ!」 一部誇張表現を取り混ぜて、身振り手振りで語る正則。 そんな正則を清正がいぶかしむ様な表情で見やる。 「なんじゃ。信じとらんな?」 「いや、腹が鳴ったのは信じるがな…」 あの吉継がそんな行動に出るとはどうにも信じられない。 「腹が鳴ろうが続ければ良いだろ」 清正の投遣りな回答に、正則は唸る。 「それが出来んかったから、聞いておるんじゃ」 清正は溜め息を吐くと、 「そんなものは気合いで止めろ」 忙しいんだ。これで納得しろと言わんばかりにドアを閉めようとする。 正則は慌ててドアを掴む。 「ちょっ…」 そんな時、部屋の奥から声がした。 「清正!!」 行長の声だ。 相当せっぱ詰まった様な…。 正則が、閉められそうな扉に手を掛け、ひょこりと首を傾げる。 「お?行長、来とったんか」 「あぁ、その通りだ」 「うわっ!」 力任せに閉め出そうとする、少し余裕の無い清正。 ぐい、と扉から引きはがされた正則の耳に、行長の微かな声が聞こえた。 「も…イケズすな…っ」 「――っ!」 バタン☆ガチャリ 「おいっ!」 鼻先で閉められ、ご丁寧に鍵まで掛けられた扉に思わず縋り付く。 「おい、清正!人が正念場の心得を、頭下げて聞きに来たと言っとるのに!」 結局は、気合いだと? 「くそぅ、折角吉継と休日朝の甘〜い時間を、邪魔なく心置きなく過ごせると思った……」 そういえばさっき、清正の部屋に誰か居ませんでしたか? 「……あれ?」 居ましたよね、切羽詰まった感のある方が。 「あれ…?」 正則の背に、嫌な汗が流れる。 そういえば、清正の態度も余裕無かったかもしれない。 「…マズイ…ワシ、邪魔ものな『腹の虫』と一緒??」 そろり、と後ろ歩きで自室を目指す正則。 今日は一日、引きこもり決定です。 「…ただいま…」 「あれ?早かったね」 リビングで本を読んでいた吉継が顔を上げる。 「うん…まあ…ちょっとな…」 元気のない正則に吉継は首を傾げ、 「何かあった?」 「お邪魔虫はワシじゃった…」 「?」 正則の言わんとしてる事が解らず、しかし、そこで何か思いあたる事があった。 そういえば、昨日、行長が吉継に言った事 『明日明後日はようやっと休日出勤からの解放やぁ〜2日間のんび〜りするぞ〜!』 と上機嫌な行長、そして、隣に行って「お邪魔虫」 だと帰ってきた正則。 何か解った。 うん。 そりゃそうだ。 と吉継も納得した。 終わり。 |
寒い朝は布団から出たくないよねぇ〜。 20070220 佐々木健&司岐望 |