St.Valentine’s Day
正則×吉継







「はい。正則、これあげる」

少し顔が赤い吉継。
上目使いで可愛らしいラッピングの箱を差し出す。

「おう。…これは何じゃ?」

正則が受取りながらも、箱の裏を見たりしていると、少しふてくされた体で吉継が答えた。

「もう…今日は何の日?」
「今日?2月14日…!!ば、バレンタイン!!」

正則の答えに吉継が頷き微笑む。

2月14日バレンタインデイ。
日本では好きな人にチョコレートを渡す日!
という事はこれはチョコレート!?
しかも、吉継からのだ。

「あ、開けてもエエか?」

箱を持つ手が喜びで震える。

「うん。良いよ」

正則の喜び様につられ、吉継も楽しそうに正則を見る。
斜めに掛ったリボンを解き、丁寧に包みを開いて箱を開けると、中からハート型のチョコレートが現れた。
そして、そのチョコレートにホワイトチョコで『Dear MASANORI』と書いてある。

「溶かして固めただけだけど…」

恥ずかしそうに吉継がうつ向く。
手の中のチョコレートも甘そうだが、目の前の吉継の方が何倍も甘そうだ。

「吉継〜!!」

がばっ!ぎゅ〜☆


「もう!朝っぱらから、何大声出してるの!」

ベチン!
正則の額に激痛が走る。

「イテぇ!……あれ?」

正則の腕の中にあるのは、吉継ではなく、枕で、チョコレートを渡して、はにかんでいた吉継は上から覗きこんでいる。

「あれ?」

腕の中の枕と吉継を見比べた。

「また、夢でも見たの?」

腰に手をあてて、呆れた様に溜め息を吐く。

「ゆ、め?」

ハート型のチョコレートも恥ずかしそうに微笑む吉継も夢でした☆

「早く起きないと、学校遅刻しちゃうよ」
「よ、吉継。今日は何日じゃ?」

上体を起こし、尋ねると、吉継が瞬きをして、

「今日?2月14日だよ」

それがどうしたの?といった感じだ。
全くバレンタインという事に気付いていないようだった。






しょんぼりと学校に向かう正則。
どうしたら吉継からチョコレートを貰う事が出来るのか?



休み時間に安治の元に向かう。

「のう。どうしたら吉継からチョコレートを貰えるかのぅ?」

唐突な発言に安治は怪訝そうに正則をみやる。
ちなみに安治、先日彼女と別れたばかりだ。
既にホワイトデイのお返しまで買っていたのに。

「…素直に言えば良いじゃないか」
「いや、そうじゃなくての…吉継から渡したいと思わせるんじゃ」

(この当日になってから考えるなよ!)
安治心の叫び。

「誘導してみたらどうだ?」
「誘導?」
「それか、貰うばかりを考えないで、自分からやったらどうだ?そうしたら、お返しは確実に返ってくるだろ」

自分は渡す相手の居ないブランドバックをかかえてるけどな…。
悲しいなワッキー。
負けるなワッキー。

もうすぐ授業が始まる為、この話は打ち切り。
教師が授業に遅れる訳にはいかない。




授業が始まっても正則はチョコの事を考えていた。

(むう…じゃが、吉継から欲しいんじゃ)

でも、確かに貰うばかりを考えていてはいけないとも思う。

(う〜…何にも用意しとらん…)

渡すんだったら、手作りにしたかった。
しかし、時間が無い。

「センセー!」
「危ない!」

生徒達の声が聞こえたと思った直後、額に激痛が走り、そのまま後ろに倒れた。
本日の体育。野球。
ボール直撃ノックダウン。

目が覚めたら、保健室のベッドの上でした☆
しかも、学校終わってたり。


保健医に病院に行って下さいと言われたが、行ってる場合じゃない!
無駄に丈夫な為、ボールが当たったのに、怪我一つ無い。
頭のネジは何本か落としたかもしれないが。


自転車を漕ぎ、スーパーじゃちょっと切ないので、ショッピングマートまで走る。
一生懸命な正則はバレンタイン当日にバレンタインチョコ売り場に男が買いに行くという、他人が見たら凄く切ない状況をやってのけた。
しかも、高級チョコ。
周りの痛々しい視線を受けつつ、正則は再び自転車をこいで自宅へと帰っていきました。






「ただいま〜!!」
「おかえり。遅かったね」

平素と変わらぬ吉継が迎える。
やはりチョコは期待出来そうに無い。
安治が言っていた誘導作戦も気絶していた為、できなかった。

(今年はワシがあげて、来年貰うという事も出来るしな!)
レッツポジティブ。
(しかし、いつ渡すかの…)
いざ!となると、タイミングが難しい。

「正則?どうしたの?」

なかなか上がって来ない正則に、吉継がダイニングから顔を出した。
買ってきたチョコを後ろに隠し、答える。

「今行く!」
(よし!飯食った後に渡すぞ!)

玄関の棚にチョコを置いてダイニングに向かった。
テーブルには吉継の作った料理が並んでいる。
基本的に野菜中心のメニューだったが、正則に合わせて多少肉(鳥肉)も使ってある。

「おお。美味そうじゃの」
「適当に作っただけだけどね」

食事を終え、後片付けをしていると、後ろから声が掛けられる。

「はい。正則、これあげる」
「へ?」

振り返ると、吉継が大きな箱を抱えていた。
ケーキボックスのようだ。

「こ、これは…」
「今日は何の日?」

吉継が窺う様に正則を見上げる。

「今日は…」

正則の手が震え、言葉もつっかえて出てこない。

「バレンタインデイでしょ」

代わりに吉継が答え、微笑む。
震える手で箱を開けると、ガトーショコラが入っていた。
実は吉継、バレンタインを忘れていたが、昼にテレビで知って、それから作ったものだ。

作るか買うかどうか考えたが、忘れていたお詫びも兼ねて、手作りに挑戦。
あげない。という選択は一応無しだった。
あげなかったら、暫くウジウジとしそうだったし。

「ケーキはあんまり作らないから、味は保証出来ないけど」

少し照れた様子は、夢でみた吉継とほとんど一緒で、

「吉継!」
「ん?」

首を傾げる吉継に、向かい合う。
感激が溢れてくる。

「ワシは世界一の幸せもんじゃ!」

がばっ!ぎゅ〜☆

「もう…大袈裟なんだから」

ちょっと違いはあったものの、妄想夢もたまには正夢になったりするんです。






ハッピーバレンタイン☆


終わり


たまには正則も幸せにしてあげないとねって。
慌てて作成。

20070214   佐々木健