湯巡り湯煙温泉旅行C
正則×吉継






「ワシの吉継と一緒に風呂に入ったなぁ!」

ズベっ☆

立ち上がり掛けた清正が畳に突っ伏して、行長が呆気にとられ、しかし、正則は本気で怒ってます。
そんな正則を吉継が横から、どつく。
どつかれた正則が柱に激突。

「正則!何馬鹿な事で騒ぐの!」
「じゃが…」

吉継に怒られ、怒気が抜けた正則だが、まだ言いよどむ。

「清正に謝りなさい!」
「うぅ〜…だって、ワシだってまだ見とらんのに…」

正則の小声に、清正と行長は『この二人、まだ清い仲なんだ』と思った。

「正則?」

一切の表情が消え、半目で正則を見据える吉継は人形の様で、恐ろしい。

「よ、吉継はん。別に…」
「行長は黙ってて」
「はい…」

声音は優しかったが、振り返った目は恐ろしく、行長は背を正して座った。
横を見ると、身を立て直した清正が、どうしようもないといった風に首を振っている。
まさに、触らぬ神に祟り無しだ。
まだまだ文句は言い足りないが、流石に冷ややかな吉継の目に、正則は清正に謝った。
そうなると、怒っていた事に尾を引かない吉継は、すぐに平素に戻り、後は和やかに食事を終えた。






食事を終えて、部屋に戻ると、正則が吉継にへばり付いた。

「吉継〜…」
「ん、なあに?」
「この部屋な。温泉引いた風呂があるんじゃが、一緒に入らんか?」

外にこの部屋専用の温泉がある。しかし、

「ん〜…今日沢山入ったから…疲れちゃった」

こんな時位一緒に入って下さいよ!(正則、心の叫び)

しかし、体の弱い吉継に無理させて、明日に響いてしまっては、折角の年初めを可哀想な事にしてしまうと自分にいいきかせて、正則は部屋風呂に一人向かった。




「お〜星が綺麗じゃのぅ」

露天風呂に入り、満天の星空を眺める。
冷たい空気に散りばめられた星達。

正則妄想…。

『うわぁ…綺麗だね』
『ちゃんと肩までつかっとらんと、風邪ひくぞ』
『心配性なんだから…正則も空見てみた?』
『ワシは吉継だけ見れたらエエ』
『もう……ばか…』

妄想終了☆

明日は一緒に夜空を見上げて風呂に入ろうと心に決めた。
暫くのんびりと湯につかって、部屋に戻る。と、その前に、寝室に寄ると、布団が二組ひいてあり、 布団と布団の間が15cm程開いているのを、ジリジリと縮めて布団をくっつけた。

「よし!」

グッジョブ自分☆と小さくガッツポーズをして、吉継の居る部屋へ戻ろうと襖に手をかける。
何やら部屋が騒がしいような気が…。

なんとなく、嫌な予感がする…。
きっと、多分、絶対、あの二人が居る…。

意を決して、襖を開けると――酔っ払い行長が、居た。
隅っこに清正も居たが。
行長は吉継にグラスを渡している。

「はい!吉継はん!コレ、飲んで!」
「ちょっと、行長飲みすぎじゃない?」
「年に一度の大晦日よ!無礼講、無礼講!」
「無礼講は違うだろ」

行長にツッコミを入れる清正が、正則に気が付き、少し申し訳なさそうな顔をした。
年越しを二人で迎えよう作戦は、どうやら実行出来そうにないらしい。
こうなったら、とことん飲んで楽しむしかない。

「しかし、ようこんな酒があったな」

テーブルの上には、日本酒や焼酎、ビールにスピリッツ等、色々ある。

「ああ、さっき買ってきたんだ。先にビールにするか?」
「おう。…行長は相当飲んでるな」

行長を見ると、吉継の肩を掴んで酒を勧めている。
珍しく、勧められるままに酒を飲んでいる吉継。
吉継は酒は強いものの、あまり量は飲まない。だから、吉継が酔ったところを正則は見た事がなかった。

「(あのまま行長が酒を勧めていけば…酔った吉継が見れるかもしれない!)」
「顔がニヤけてるぞ」

横の清正が気持ち悪そうに呟く。

「はは…いやな。行長の頑張り次第では、吉継の酔った姿が見れると思ってな」

正則の言葉に、清正が「ああ」と頷く。
清正も吉継の酔った姿は見た試しが無い。
どんな酔い方をするのか、興味が湧く。

『頑張れ行長!』

とりあえず心の中で行長を応援する二人だった。
そんな応援を受けているとは知らず、行長は上機嫌でビールをあおっている。
吉継もグラスを空にした。

「はい!吉継はん!おかわり〜!」
「もう、いいって…」
「大丈夫、大丈夫!飲んで、飲んで!」

有無を言わさず、もう一杯カクテルを作り、吉継に渡す。

『その調子だ!』

「…ところで、吉継は何を飲んでおるんじゃ?」

ビールを飲みながら、清正に尋ねる。

「たぶん、ウォッカのカルピス割りじゃないか?」

焼酎を飲みながら、適当に答えた。



そんなこんなで、見るとはなしに、付けていた紅白歌合戦も佳境に入った頃―――
清正も正則も程良く酔いが回って、行長は相変わらず騒ぎ…

「なんや、吉継はん!もう酔っ払ったかいな!」

その声に清正と正則が一斉に吉継に注目する。
吉継は空になったグラスを抱え、いつも白い顔が、ほんのり赤くなっている。
目は、とろんとして眠たげに見え、とにかく普段の吉継とは全く違い…色気が倍増されている。

「…暑い」

羽織の紐を解き、ゆっくりとした動作で羽織を脱ぐ。

「暑いんやったら、これも脱いぢゃり?」

『これ』とはもちろん、浴衣。
浴衣を脱いでしまったら、吉継は下着だけ。という状況になる。
正則は二人のやりとりを、息を飲んで見つめていた。
そんな正則を見つつ、『それは止めた方が良い』と祈る思いの清正だった。

「…うん。そうしよっかな…」
(いや!駄目だ!)

帯に手を掛ける吉継を、流石に止めようと清正が動くより早く正則が吉継を抱き締めて拘束する。

「い、イカン!これはチャンスじゃ。と思ったが、此処で脱いだらイカン!」

脱ぐならワシの前だけにして!が本音。

正則に抱き締められた吉継が腕の中で身をよじり、小さな声で「正則…」と呟き、コテンっと正則の胸に頭を預けた。
手は正則の衿を掴んで、吉継の口から漏れる熱い吐息が正則の肌を擽る。

「よ、吉継?」
「ぅん…なぁに?」

普段と違い舌ったらずな喋り方をし、ゆっくりとした動作で顔を上げた吉継は、正則と視線を合わせる。
その目元は赤みを帯び、うるんだ瞳に、正則は固まってしまった。

(食っちゃっても良いデスカ!?)

固まりから脱出した正則は勢いに任せて、吉継を力一杯抱き締める。

「や、ん…くるし…」

背をしならせ、酸素を求めて開かれる赤い唇。
普段の吉継だったら、ここで力一杯抵抗しているところだ。
完全に酔っ払っているという事だろう。
吉継は数杯飲んだだけだ。
こんなに酔うなんて、どういう事だろう?といぶかしむ清正が、行長に尋ねる。

「おい。何を飲ませたんだ?」
「ん?コレや。コレ」

そう言って、空の瓶を清正に渡す。

【スピリタスウォッカ】
世界一アルコール度数の高いウォッカ。
そのアルコール度数は96度。
500ml飲ませたらしい。

そりゃ、酒に強い吉継でも酔うはずだ。
というか、一本飲んだ吉継に拍手したい気持ちになる清正であった。

「吉継はんを酔わすには、コレ位ないとアカンやろ」

行長自身も吉継の酔った姿を見たかったらしい。
行長は酔った演技をして、吉継に酒を飲ませ続けたという事だった。

「しっかし、吉継はん。あない色っぽくなるとは思わんかったわ」

行長の感想に清正も頷く。

「これから、どうするつもりだ?このままだと、吉継は正則に食われるぞ」

まだ、この二人は、きっと、多分、いや絶対結ばれていない。

「…せやなぁ。こないな結ばれ方は、吉継はんも不本意やろしなぁ…」

二人が悩んでいる間も、正則は吉継にキスしまくって、吉継も擽ったそうに首をすくめては、笑っている。

「吉継…や、ヤリたいんじゃが…」
「?…なにを?」

吉継を膝に座らせ、神妙な面持ちで問掛けるが、吉継は理解出来ていない。
ちなみに、膝を跨ぐ形で座らせている為、浴衣の裾が捲れ上がって、白い太股が目に眩しい。

「何をって…せせせせセックスじゃ!」

そんなにどもるなよ。と心の中でツッコム清正&行長。

「…せっくす?」

解らないといった風に首を傾げる。
酔っ払い相手にも、ちゃんとお伺いをする正則も律儀だが、かなり危険な状況だ。
ここは正則を止めるしかない。

「正則、泥酔した隙を突いて、というのは卑怯じゃないのか?」
「!?うお!お前ら、居ったんか!?」

ええ、ずっと居ました。

「そないな事してみぃ。吉継はん。悲しむで」
「うっ…」

吉継と繋がりたい。
しかし、吉継を悲しませるのは、本意ではない。

良心と欲望の狭間で揺れる正則。
そして、一つの結論に辿り着いた。

「浴衣の中を、チラっと覗くのは…」

微妙な結論に辿り着いたものだ。
清正が深く溜め息を吐き、行長は机に突っ伏す。

「お前、それで収まるのか?」
「余計にストップ効かんくなるっちゅうねん」
「むぅ…」

吉継を見れば、正則の方に頭を預け寝息をたてていた。

「もう、大人しく寝かせてやれ」

清正の言葉に力無く頷くと、正則は吉継を抱えて布団のひいてある部屋へ入っていった。






正則が奥の部屋へ入ったところで、行長が清正の袖を引っ張る。

「思うねんけどな。釘刺さんでも、大丈夫な気がすんねん」
「何故だ?」

釘を刺さなければ、絶対正則は吉継を押し倒すであろう事は明白だ。

「だってなぁ。予想やけど…正則、吉継はんの裸見ただけで、イってまいそうやん?」
「…!?」

行長のあんまりな予想に、清正は絶句するが、何と無く、その意見に賛同したくなった。
正則と吉継が付き合い、一緒に住むようになって、半年以上になる。
その間も、正則はアレコレ考えては吉継にアタックするも、事におよべていない。
いわゆる、正則は欲求不満MAX状況だろう。
そんな正則が、あの状態の吉継の裸を見たら…まだ何にもしてないのに、イキそうだ…。
でも、それは男として、かなり切なく、悲しい状況だ。
実は清正も、まだ若い頃、行長と付き合い始めた当時に、近い状況になった記憶がある。
まあ、その時は根性総動員して止めたが。
あの頃は若かったなぁ…と想いを馳せた。
ちなみに、清正17歳、高校生の頃であった。

「しっかし、清正、自分の事棚に上げたな」
「何の事だ?」

言ってる意味が解らないなと清正が、ツマミを食べながら睨んでくる行長を見やる。

「『泥酔してる隙をつくなんて卑怯』なんて、人の事言えるんかい?」

行長は清正に泥酔した隙を何度も突かれている。

「あれは、お前が誘ってくるからだろ」

ニヤリと笑いを返す清正に、行長が噛みつく。

「誘ってへん!」
「いや…誘ってた」

酒にではなく、羞恥で赤くなった行長の唇を親指で辿り、唇が触れ合いそうな程に近付いた。

「誘ってるか、誘ってないか。それ位の判別は出来てる…」
「うぅ〜…」

笑みを型どったままの唇で、行長の唇を塞ぐ。
付けっぱなしのTVからは除夜の鐘が響いている。




年が明けようとしていた。




続く。  

やっと年明け!?

20070222(ニャンコの日)   佐々木健