しゃこ〜んの話も出さなきゃ!


「君に一目惚れ☆」(左近→三成)








とある日曜日、嶋左近はとあるマンションを訪れていた。
引っ越し先を決める為に。


駅から程良い場所にあり、人通りは多いものの、騒がし過ぎずなかなか良さそうな物件だ 。


嶋左近、職業、漫画家。現在、小学生向きと中高生向きの少女漫画を2本抱え、人気の漫画家だ。

だが、見た目はいかついオッサン。
顔の頬にある傷は、喧嘩等で出来たものではなく、〆切間近。いわゆる修羅場中に居眠りをし、机に置いていたトーンカッターでザックリとやって出来たものだったりする。


1日中部屋に閉じ籠っている事が多い為、気分転換に定期的に引っ越しをするのだった。


不動産屋に紹介され部屋をひとつひとつ見ていく。
そして、ベランダへと出た。
そこから見える景色は今居るマンションとは壁の色も違う、別のマンションのベランダだった。

「どうせなら、もっと高い場所がよかっ…」

言葉が途切れる。
左近が見ていたマンションのベランダに一人の人物が現れた。その人物に左近は目が釘付けになる。

肩に掛る位の、赤みをおびた茶色の髪。華奢な肩。そして何より、

「凄い美人さん…」

左近は恋に落ちた。
一目惚れだ。
漫画家故に漫画の様な恋に落ちかただ。

ちなみに、漫画家だが、視力は両眼2.0。

「だけど…あれって男だよなぁ…」

ちょっとショック。
出てきた人物は左近が見ている事など知らず、洗濯物を干し始めた。
その姿に左近はまたもトキメク。

「あの人なら、男でも良いかも…」

性別なんか、もうどうでもいい。
そんな感じで左近が眺めていると、その人物の隣の部屋から人が出てくる。

銀色に見える髪に肌も真っ白な人物。ついでに着ているシャツも白だから、白だけで出来たような。しかも、これまた結構な美人だ。男だが。
左近的好みは茶髪の方。

「…アルビノか?」

その白い人物が、洗濯物を干す人物に話し掛けている。流石に会話は聞きとれないが、返事と共に美人が柔らかく微笑んだのを左近は見逃さなかった。

「ヤバイねぇ…あの笑顔は反則だ」

そんなこんなで、左近はこの部屋に住む事を決めたのであった。




ちなみに、左近が一目惚れをした人物は石田三成。 お隣さんは大谷吉継である。









後日。

三成の部屋のインターフォンが鳴る。
扉を開けると、三成の知らぬ人物が、何やら大量の荷物を抱えて立っていた。

「嶋左近と申します。引っ越しの挨拶です。詰まらないモノですがね、まぁ、受け取ってやって下さいよ(蕎麦、洗剤、タオル、日本酒、と大量な粗品)」

引越し?
そんな話は聞いていない。

「上の階…では、ないな。部屋は…?」
「おっ!さっそく興味を持ってくれるなんて、嬉しいじゃないですか。ほら、あそこですよ」

指差し確認。窓の外。

「…ベランダ?」
「これはまた、面白い事を仰る!道向こうの、お向かいさんですよ。ま、気軽に声かけて下さいよ。じゃ、俺はこの辺りで」

上機嫌で去っていく左近の後姿を眺める三成。

「引越しの挨拶って向かいのマンションまでするものなのか?」






次の日、201号室。

吉継が部屋に来たので、昨日の事を話す。

「変な奴が越して来た」
「?何処に?」
「向かい…ベランダ側の」
「…向かい?」

三成と共にベランダへ出ると、向かいのベランダから左近が笑顔で手を振っている。

「あんまり関わり合いにならない方が良いよ…」
「やはりそう思うか」
「うん」

見なかった事にして、部屋へ戻る。


左近はというと、

「照れ屋なんだな☆」

とても前向きです。







終わり。


左近の一目惚れ話〜。

20061124   佐々木健